街で見かける交通看板の中には、率先して危険な目にあう”ドジっ子”が生息している。あらゆるドジを通して、私たちに注意を促し事故から守ってくれる看板を「ドジッ子看板」と呼び、”ドジっコレクター” として収集する人・赤沼俊幸。さまざまなドジっ子の属性を分類した前編に続き、収集活動や同人誌販売によって明らかになった、ドジっ子の共通点とは?!

 

本当にドジっ子は男の子が多い?

ドジっ子看板を収集していく中で、ある疑問が湧きました。

「あれ?そういえば、ドジっ子は男の子が多い気がする」

収集したドジっ子看板を改めて見直してみると、看板に登場するドジっ子のほとんどは男の子でした。しかしただの「多い気がする」よりは「ドジっ子看板のドジっ子の何%が男の子なのか?」と、一歩踏み出した具体的な数値を知りたくなりました。

そう思うようになったのは、私が普段、マーケティングの仕事をしているせいもあるかもしれません。以下の項目を調査しました。

・性別によるドジの違いはあるか?(男の子?女の子?)
・服装によるドジの違いがあるか?(長袖?半袖?、長ズボン?半ズボン?)
・服装の色によるドジの違いがあるか?(何色が多い?)

 

世界初のドジっ子統計を作成する

実際に数を集計して、下記のような円グラフにまとめました。

男の子の比率は91%でした。これでドジっ子看板に登場する「ドジっ子の約9割は男の子」と堂々と言えます。

意外な結果が服装のトップス比率。私は「ドジっ子は半袖が多いのでは?」と思っていましたが、実際に統計を取ってみると、意外なことにやや半袖が多いものの、ほぼ半々という結果。そして差がついたのはボトムス。80%は半ズボンでした。「ドジっ子の約8割は半ズボン」と言えます。

色についてトップスは白が多いものの、そこまで大きな差はありません。ところがボトムスに関しては約2人に1人が青という結果。これで「ドジっ子のボトムスの色の約5割は青」と言えます。

総合すると、「ドジっ子看板に登場するドジっ子は青色の半ズボンを履いた男の子が多い」と言えます。これはおそらく世界初の研究結果。私は喜びに浸っていました。

 

ドジっ子看板デザイナーとの出会い

それらの統計の研究結果と、ドジっ子看板を収集した成果として、2019年に「ドジっ子図鑑」を同人誌として出版。札幌の同人誌販売イベントに出展し、販売しました。

 

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イベント中、出展ブースに立ち寄った女性から、私は驚くべき言葉を耳にします。

「私……こういう看板をデザインしたことがあります」

なんと、私が勝手に命名し、収集していたドジっ子看板を彼女は実際にデザインしたことがあるようでした。驚いた私は、彼女に話を聞く約束をその場で取り付け、後日、詳しく話を伺いました。

彼女は、以前勤めていた土木系のコンサルティング会社で河川維持に関連するデザイン業務の仕事をしており、公園や河川用の注意看板、案内板のデザインや制作などを担当していました。公園や河川用の注意看板の制作の一部として、ドジっ子看板を制作していたようです。

私は彼女に独自で集計したドジっ子統計を紹介した上で、疑問をぶつけました。

「どうしてドジっ子看板は青い半ズボンを履いている男の子なんですか?」

 

看板発注者からドジっ子に対する容姿の指定はあるのか?

まずそもそもの疑問は「看板の発注者からドジっ子の容姿の指定はあるのか?」ということでした。これに対しては「ありません」とのこと。どのようなドジっ子を描くかはデザイナーの裁量に任されているようです。(※ あくまで彼女の前職の場合)

では、なぜドジっ子は男の子なのでしょうか?これに関しては「ドジをしそうなのは男の子」というイメージがあり、男の子を描くケースが多いとのことでした。看板内にドジをする子が二人いる場合は二人目に女の子を描くケースがあるようです。

「どうして半ズボンを履いているのか?」という疑問に関しては、残念ながら明確な答えは出ませんでした。考えられる理由としては①半ズボンは活発そうに見える。②国民的アニメのキャラクターが半ズボンだった。などの説があります。ではどうして青色なのか?これに対しては明確な答えがありました。

 

なぜドジっ子の服装は青色なのか?

まず看板には一番伝えなければいけない大事なメッセージがあります。「飛び出し注意」「危険!」などですね。注意喚起看板はこの文字(部分)を警告色である赤色で記載します。

 

上記看板では赤い破線と白文字で注意を警告している
 

例えばこの看板に登場するドジっ子の服装が赤色だったら、どうでしょうか。最も大事な赤色の「飛び出し注意」が目立たなくなってしまいます。そのため、ドジっ子の服装に赤色を使用することは避けるようです。(先に紹介したドジっ子統計の服装の色でも赤色は少数ですね)

では赤を目立たせるために何色を使用するのでしょうか? 色の関係を理解しやすくするため、円形で色が円周上に配置されているツール、色相環を元に説明します。

上記の色相環で、直径上に位置する色が互いの補色です。補色を使うと、視覚的に高いコントラストを生み出し、デザインにおいて強い印象を与えられます。赤色と、補色の位置に青系統の色があります。

つまり、看板が最も伝えたいメッセージである赤色の「飛び出し注意」を目立たせるために、ドジっ子の服装では、赤の補色である青色を使用するというわけです。

なぜトップスではなく、半ズボンのほうが青色なのか?という点は明快な結論は出ていません。①活発な印象を与える青い半ズボン、②国民的アニメの登場人物の半ズボンが青色だった、という2つの説があります。

以上のように、まだまだ結論が出ていない問題が多いのですが、ドジっ子看板を収集を続ければ、いずれ答えが出てくるかもしれません。この記事を読んでいるあなた、新たな説を思いついていませんか?思いついた方はぜひ教えてください!

 

趣味から使命感へ。一人の限界を感じ、協力を求めるようになる

ドジっ子図鑑発表後、多くの「面白かった」と「もっと知りたい」という反響を受け、単なる趣味だったドジっ子看板集めが「集めたい」から「集めなければならない」という使命感へと変化していきました。​​

当時は自らが撮影したドジっ子看板の写真にこだわっていましたが、それよりも日本全国にあるドジっ子看板をすべて知りたいという気持ちを重視するように変化していきました。

全国にあるドジっ子看板をすべて知るためには、一人の力では不可能です。そこでTwitter(現・X)のアカウントを開設し、全国の街歩き好きの方にドジっ子看板収集の協力を呼びかけました。

今、Xでは「#毎日ドジっ子」として、ほぼ毎日18時にドジっ子看板を紹介しています。不思議なことに「情報発信を続ける人に情報が集まる」法則が発動し、毎日投稿し、約3年続ける中で、現在は2200枚を超えるドジっ子看板が集まりました。気になる方はXアカウントをご覧ください。

最後に。そろそろドジっ子看板のことが気になってきましたよね。きっとあなたの通勤路や通学路にもドジっ子は潜んでいます。そのドジっ子は青色の半ズボンを履いた男の子かもしれません。確かめてみたくなりませんか?さあ、ドジっ子看板を探しに街へ出てみましょう。昨日より街が少し変わって見えますよ。