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幽霊文字とは?

幽霊文字を書く人

幽霊文字とは、JIS基本漢字に含まれているものの、出典が不明で使用例がなく、意味や発音が分からない漢字です。

JIS基本漢字は、日本語の一般的な表記、地名、人名などに用いられる漢字をコンピュータで扱うために制定された規格を指します。最初の規格は1978年に「JIS C 6262」として制定されました。「JIS C 6262」には第1水準2,965文字と第2水準の3,384文字の合計6,349文字が収録されています。

幽霊文字の多くは、JIS規格漢字を制定する際に誤記や勘違いによって生まれたものといわれています。幽霊文字は、幽霊漢字(ゆうれいかんじ)や幽霊字(ゆうれいじ)とも呼ばれることがあります。

 

幽霊語と幽霊文字の違い

幽霊文字と似た言葉に幽霊語という言葉があります。幽霊語とは、辞書や辞書などに掲載されている言葉ではあるものの、実際にはほとんど使われていない、あるいはまったく使われていない言葉のことです。幽霊語は誤った解釈や発音、誤読、文字を活字化する際の不備などによって発生します。

使われていないのに辞書などに登録されている幽霊語と、使用例がなく読み方や意味も不明でありながらJIS基本漢字として登録されている漢字は、別物ではありますがよく似た存在です。そのため、幽霊語という言葉をもじって幽霊文字という言葉が生まれたといわれています。

 

幽霊文字にはどんな漢字がある?

JIS基本漢字は1978年に制定された後に、何度かにわたって改定されました。1997年に改定を行う際に、改定規格委員会では1978年規格の原案を作成した際に参照した文献を調査しています。その結果、当時幽霊文字とされていた文字の中には、実際に地名で使われていることが判明した文字が多々見受けられました。改定規格委員会の綿密な調査の結果、出典や使用例のない、本当の意味での幽霊文字は12文字でした。ここからは、12の幽霊文字を紹介していきます。
 

幽霊文字の一覧(読み方)

幽霊文字のブロック

12の幽霊文字を一覧表にすると以下のとおりです。読み方はあるものとないものがあります。

幽霊文字読み方
か・せい
 
 
 
 
もむ・せむ
 
 
 
しゅう

ゆみへんに「可」が縦に2つ連なった漢字です。1978年に制定されたJIS基本漢字になぜこの字が入ったのかは、1997年の第4次規格作成委員会による綿密な調査によっても分かりませんでした。地名などを含めて使われていない、いわば本当の意味での「幽霊文字」といえるのがこちらの漢字です。

出典は不明ですが、「彊」という字を転記するときにガリ版刷りだったため、点画がかすれてしまい、書き間違えたのではないかといわれています。この仮説に基づくと「きょう」という読み方になりますが、辞書では「か」「せい」と表記されてきました。

 

つちへんに「著」という字、さらにこの中の「日」の上に点が加わった漢字です。宋の時代の「韻書」には、つちへんではなく、あしへんに同じつくりが使われた「躇」の異体字として収録されていたという説があります。なお、この本は手書きで写されており、他の本ではとめへん(止)に同じつくりが使われた漢字が用いられていたため、誤記によって生まれた漢字なのではないかと考えられています。「躇」の異体字ということであれば、読み方は「ちょ」です。また、「安堵(あんど)」という言葉に使われる「堵」を転記する際に、間違えてくさかんむりを足してしまったのでは、という説もあります。「堵」の書き間違いということであれば、読み方は「ど」です。

 

やまかんむりに「一」「女」という字が組み合わさった漢字で、「やまいちおんな」と呼ばれる有名な幽霊文字です。

1972年版の「国土行政区画総覧」に地名として掲載されている、滋賀県犬神郡多賀町𡚴原(あんばら)という地名がJIS漢字に掲載された所以とされています。元の資料の中で「𡚴」の部分は「山」と「女」の文字を貼り合わせて作られていたため、紙のつなぎ目が「一」のように見えてしまった結果、「山」「一」「女」の組み合わせになったという説が有力です。なお、この漢字は「し」と入力すると変換することができます。

 

つちへんに「廛(てん)」の異字体が組み合わさった漢字です。コトバンクによれば、「廛」には、やしき、すまい、小屋、百畝の田、みせ、糧食をおくところ、店舗税などの意味があります。ちなみに「㕓」という漢字は1978年のJIS基本漢字にも1997年の第4次改定規格にも収録されていません。そのため、つちへんの部分が誤って書き加えられて記載されたのではないかといわれています。廛の異体字ということであれば、読み方は「てん」となるでしょう。

 

「日」と「非」が組み合わされた漢字です。1972年版の「国土行政区画総覧」に掲載されていた、群馬県東村立杲(ひので)小学校という学校名に使われていた漢字が誤って記載されたのではないかといわれています。また、「日」の下に「兆」という文字が書かれた漢字も地名に使われており、漢字を転記する人が書き間違えたのではないかという説もあります。現代でもよく使われる文字としては、「罪」という漢字にも似ています。この漢字を何と読むかは定かではありません。

 

きへんに「竜」という字が組み合わさった漢字です。「とう」「しょう」と読むことができる「橦」(つく、うつという意味)の誤記ではないかというのが一つの見方です。また、1716年に作られた「康熙字典」(中国の漢字字典)には、きへんに「龍」を組み合わせた「櫳」が収録されており、「龍」の部分を略字にしたもののではないかという説もあります。「櫳」という漢字の読み方は、「る」「ろう」です。この他、「境」という漢字を雑に書いてしまった字が「槞」に見えてしまったのではないかという説もあります。

 

てへんに「羽」という字が組み合わさった漢字です。てへんではなく、きへんに「羽」という字が組み合わさった「栩」という字があります。栩は「く」「くぬぎ」「とち」と読むことができ、地名や苗字などに使われている漢字です。この字を転記するときに、きへんの部分をてへんに間違えて書いたのではないかという説が有力視されています。「挧谷」と書いて、「とちだに・とったに」と呼ばれる福井県の地名がある他、「挧谷」という苗字もあります。「挧」の読み方は音読みで「う」です。

 

むしへんに「常」という字が組み合わさった漢字です。むしへんに「當」という字を組み合わせた字として「蟷」という字があります。この字は「蟷螂(かまきり)」に使われている字です。行政情報処理用基本漢字として明治生命相互保険会社漢字コード表に出典があるとされていますが、調査によると用例はありませんでした。おそらく「蟷」のつくりの下の部分を転記する際に間違えたのではないかと考えられています。日本最古の漢和辞典「新撰字鏡」に収録されていました。読み方は「もむ」「せむ」です。

 

きへんに「勝」という字のつくりの部分を合わせた漢字です。「国土行政区画総覧」に出典があるとされていますが、用例がありませんでした。また、群馬県前橋市の「橳島(ぬでじま)」という地名に使われている「橳」という漢字の誤記と言われています。「橳」は学校名や苗字にも使われている漢字ですが、2000年までJIS漢字に登録されなかったことから、本来登録されるべきであった「橳」の「月」が抜けた形で誤って登録されたのではないかといわれています。ちなみに橳とは植物の「ぬるで」、別名・かちのきのことです。

 

ころもへんに「爾」の異体字である「尓」を組み合わせた漢字です。ころもへんではなく、しめすへんに同じつくりを組み合わせた漢字は、「国土行政区画総覧」によると、鳥取県鳥取市祢宜谷(ねぎだに)の他、いくつかの地名として使われています。ころもへんのほうは、調査の結果地名に使われているという事実が見られませんでした。おそらく、しめすへんを間違えてころもへんにして書き写してしまったのではないかと考えられています。日本最古の漢和辞典「新撰字鏡」には収録されているそうです。

 

もんがまえに「玉」という字を組み合わせた漢字です。もんがまえに「王」という字を組み合わせたものには「閏年(うるうどし)」という言葉に使われる「閏」という漢字があります。「国土行政区画総覧」に出典があるとされていましたが、調査したところ実際に使われているという事実は見られませんでした。おそらく、「閏」という字の「王」の部分を「玉」と書き間違えてしまったためにできた漢字なのではないかと考えられています。「閠」の読み方は不明です。

 

うまへんに「州」という字を組み合わせた漢字です。「日本生命人名表」が出典とされていますが、実際には使用例がありません。11~12世紀に成立した漢字字書である「類聚名義抄」に用例が見られるといわれています。うまへんに「川」を組み合わせた「馴」を書き間違えたのではないかという説が濃厚です。駲の読み方は「しゅう」です。

 

幽霊文字、どうやってキーボードで入力する?

PC

幽霊文字の存在を知って、自分のパソコンやスマホで表示させてみたいと思った人もいるのではないでしょうか。しかし、一般的に使用されていない幽霊文字をどのように入力したらよいのかわからない人もいるかもしれません。

ここからは、幽霊文字をパソコンやスマホに入力する方法について解説していきます。

 

 IMEパッドで入力

読み方が分からない漢字は、普段使用している「ローマ字入力」や「かな入力」では入力することができません。読み方が分からない漢字は、IMEパッドを使えば、簡単に入力することができます。

IMEパッドは、マイクロソフト社が提供する、日本語入力や変換のサポートをするアプリの一種です。IMEパッドに付属する文字コード表の中から選ぶか、マウス・ペンタブレットなどで直接手書き入力する方法があります。

IMEパッドを出すには、パソコン画面の右下に表示されている「A」や「あ」のアイコンを右クリックし、表示されるメニューの中から「IMEパッド」を選択してクリックします。手書きモードにして、マウスで漢字を書いていくと、右のエリアに近い漢字が変換候補として出てくるので、該当する漢字を選んでクリックすれば完了です。

 

読み方やコードがあるものは入力して変換

幽霊文字の中でも読み方(音)があてられているものに関しては、それを入力して変換することが可能です。

これまで解説してきた通り、いくつかの幽霊文字は読み方(音)を持っています。その場合、通常の漢字変換のようにその読み方を入力し変換ボタンを押すと、幽霊文字であっても変換候補の中に出てきます。

また、文字コードを入力して変換する方法もあります。例えば 「彁」であれば、JISコードは573B、シフトJISコードでは9C5Aとなっています。このコードをパソコンのメモ帳などに入力して4文字全てを選択して変換すると、変換候補の中に文字コード変換というものが出てきます。そこをクリックすると「彁」が候補として出てくるようになっています。

 

コピペして入力

この記事を読んでいる人なら、記事内にある幽霊文字をコピペして入力することで幽霊文字を出すことができます。この方法であれば、読み方があてられていない文字でも、手間をかけず簡単に表示させることが可能です。

幽霊文字自体は実際に使われてはいないため、入力が必要に迫られるというシーンは、日常生活においてほとんどないと思われます。しかし、幽霊文字を表示してみたいという好奇心があるなら、試してみてはいかがでしょうか。

 

気になる幽霊文字という存在

PC

幽霊文字は、パソコンやスマートフォンで文字入力をする際に画面上に表示させることが可能な活字ではあるものの、出典が定かではなく、現実社会でも使われていません。

幽霊文字はいずれもどこかで見たことがあるような気がしますが、一般に使われている字とは少し違った、ありそうでなさそうな、ちょっとミステリアスな漢字です。

実際に使われている字ではないため、あえて知る必要がないものですが、こんな漢字もあるのだということを、雑学の一つとして知っていても面白いかもしれません。

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あなたの感性に響く読み物を是非探してみてください。


参考

漢字文化資料館 漢字Q&A

睡人亭 文字コード入門

ウィキペディア 幽霊文字

ウィキペディア 幽霊語

Gigazine JIS漢字に紛れ込んだ幽霊文字

誰がつくったのか、読み方も分からない、幽霊のような文字、幽霊文字の世界

パソコンインストラクターの仕事場|Y's Work 世にも恐ろしい幽霊文字とは?

コトバンク 廛

ウィクショナリー 櫳mojinavi 「挧」の画数・部首・書き順・読み方・意味まとめ

ウィクショナリー 尓

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