編集者・ライターとして活動しながら、生粋のテレビっ子としてさまざまなメディアでその魅力を発信し続ける綿貫大介。なかでも彼が特に愛してやまないテレビドラマ『ロングバケーション』のセリフから、自身も実践している人生をより生きやすくするためのヒントを紹介する。

 

テレビなんかに縛られるよりも、自分の人生を生きたほうがいいに決まってる

テレビっ子が偏愛ぃぃい? 依頼をいただいて、びっくりした。テレビが好きって偏ってますか? いや、こちとらずっと実直にカルチャーど真ん中を歩んできただけなんですけど! テレビって王道のエンターテインメントじゃないの? 『27時間テレビ』伝説のSMAPメイン回(2014年)のキャッチコピーも「武器はテレビ。」でしたけど????

取り乱しました。わかってます。そんなこと言って、なんだかんだずっと「テレビばかり見てるとバカになる」と言われてきていたし、最近なんて友達と話していても「うちテレビないから……」で終了。

そうだよね。みんなが言いたいことはわかんの。「テレビはオワコン」でしょ? それをいまだにずーっと観てるなんて、そりゃ偏愛だよね。納得。

世はさまざまなコンテンツで可処分時間を奪い合う戦国時代。かつては「娯楽の王様」と呼ばれ絶大な影響力を誇ったテレビも、SNSやYouTubeの普及やライフスタイルの変化に伴って、かつてほどの勢いは失いつつある(突如始まったナレーション)。

それだけじゃない。権力者に都合がいい偏った報道、やらせ演出、古いジェンダー観・倫理観、大切なことなのになぜかネタ化されてしまう「コンプライアンス」……。テレビが抱えるさまざまな問題点に対して、ついていけない人も多いと思う(その批評眼、めちゃめちゃ大事です!)。

それでいいんだよ。テレビを悪く言うのは時代に合っているよ。そんなものに縛られるよりも、みんな、自分の人生を生きたほうがいいに決まってる。むしろそうしてほしい。安心して。みんなが遊びに恋に仕事に育児に大忙しな間に、私がちゃんとテレビを観ているから。それでおもしろい番組だけばっちりシェアしてあげるから。

今はそんなつもりでテレビっ子をやっています。しょうもない番組、本当にあるよ。でも、がんばっている制作陣も良質な番組も増えているという希望もちゃんと感じています。

 

みんなの人生に「ロンバケ」は必要

ものごとのはじまりにはすべて「きっかけ」があることになっている。本来、興味を持ったきっかけは……みたいな自分語りをしたいところだけど、テレビを好きになったきっかけってマジで「そこに山があるから」でしかない。ただ、ずっと観てたから語れるようになってしまったんです。筋トレとか勉強とか、継続は力なりっていうけど、テレビも同列に語っていいよね。事実そうなんだから。

特に好きなのが、テレビドラマ。なんでドラマだったのかって、それはたぶん、一番東京を映していたから。田舎育ちの私にとってはドラマが描いてきた恋愛も仕事も悩みも「憧れの東京の物語」という感じがどこかにあった(そんなはずないのに)。これまでのあらゆる作品に対して語りたい熱量、個人的エピソードがあるんだけど、今回は「ロンバケ」について話そうかな。

まったく配信の気配がなかったから2018年に買ったブルーレイ。現在はFODで配信中!

言わずとしれた『ロングバケーション』。手短に説明すると、婚約者に逃げられた南(山口智子)と、才能が開花しきれないピアニスト瀬名(木村拓哉)の年の差ラブストーリー……。って待って。簡略化するとつまんなそうすぎてびっくりした。そんな作品じゃないんです!

どちらかというと、「人生最悪の時期をどう過ごす?」って話なんだよね。つらくなったとき、あのタイトルバック(久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」が流れる中でキラキラ輝く笑顔を魅せる出演者たち!)を脳内再生するだけで頑張れちゃうから。

個人的にも「ロンバケ」の真髄を理解できるようになったのは、働き出してから。出版社のファッション誌編集部から眺める窓の外の暗さ。多忙な日々。楽しいけど、これでよかったんだっけ。そんなことを思っていた時期でした。これから先、自分はどうなっていくんだろう。漠然とした不安を覚えるようになった頃、学期末の子どもだけじゃなくて大人にこそ「ロンバケ(長いお休み)」は必要だよなと改めて思うようになったんです。

 

ドラマのように、自分で人生の主役街道を進む

そうか。今住んでいるのは東京。この街には、ドラマの中で瀬名と南の行きつけ設定だった町中華「萬金」があるじゃん! そう思い出してからは定期的に「萬金」に行き、労働後に食べる中華そばのうまさを味わうようになった。そっか、人に踏まれて、人の足跡だらけの汚い雪となった大人たちが、「それでも……!」と奮起してドラマチックに生きられるように、萬金はずっと存在してくれていたんだ。

2018年末まで新富町に実在していた。閉店が悔やまれる……。店内には松たか子さん、竹野内豊さんら出演者のサインも飾られていた。

ここで食べていると、自分もドラマに出ているような気分になれた。いや、むしろ自分というドラマの主役は自分自身……! そんなことも思えるようになったら、なんだか日々が楽しくなってきた。脇役にはスポットライト当たらないっていうのは、映画だけでなく人生の鉄則。自分で人生の主役街道を進むしかない! そんな風にドラマチックに生きる気力をくれたのも「ロンバケ」です。あとは野となれ山となれ。悩むのも、考えるのも、諦めるのも、休むのも、全部自分で決める、自分の人生なんだよね。

餃子の皿に残る油までキラキラして美味しかった。

「ねぇ、こういう風に考えるのだめかな。長ーいお休み。俺さ、いつも走る必要ないと思うんだよね。あるじゃん何やってもうまくいかないとき。何やってもダメなとき。そういうときは、なんというのかな、言い方変だけど、「神様がくれたお休み」だと思ってさ。無理に走らない、焦らない、頑張らない、自然に身を委ねる」

これは瀬名のセリフ。きっとこれはひとつの真理。大人になって改めてこのマインドセットができたことで、ずいぶん生きやすくなりました。現在、私は気ままなフリーランス編集者。のらりくらりの人生すぎて、いつまで「ロンバケ」してんの? って感じ。またそのうちどこかでバリバリ働くかもしれないし、このままかもしれない。とにかく主役として面白いサクセス、ラブ、ミステリーなストーリーを歩めたらいいなと思う。とりあえず、ドシャ降りの午後を待って街に飛び出そっと。

フィクションだと思って人生を生きてもいいかもね。