単なる絶叫好きとは一線を画す、一風変わったジェットコースター好きがいる。
世界中のジェットコースターに乗り回ってきた、ジェットコースター男だからこそ語ることができる、ジェットコースター愛をお届け。
「乗る」以外のジェットコースターの魅力とは、果たして。
ジェットコースターはまるで生き物
「ジェットコースターの魅力は?」とこれまで何度も聞かれてきました。
多くのジェットコースター好きは「落下するときに体が浮くのが最高」「激しく回転するのが楽しい」など、乗車体験について回答するでしょう。
それには僕も完全同意ですが、一番の魅力はと言うとズバリ「生き物のようなところ」です。
ジェットコースターは、乗車する人たちの重量や気象条件によって、スピードが変化して乗り味も違います。特に木製コースターはスピードの変化が分かりやすく、暖かくなると潤滑油が溶けて滑りが良くなるため、夏の午後に乗車すると一番スピードが速くなると言われています。同じジェットコースターなのに、午前と午後で乗り比べてみると速度や乗り味の違いに驚かされ、まるで生き物だなと思っています。
今では世界中のジェットコースターを巡る僕ですが、幼少期は怖くて乗れず、遊園地に行っても眺めているだけでした。でもその頃から、龍のようになめらかに走行する姿が生き物のようで面白く、眺めるだけでも楽しかったことを覚えています。小学生5年生の頃、勇気を出して初めて乗り、トラウマを克服した達成感からジェットコースターが好きになり、”ジェットコースター男”を名乗るまでの人生になったのです。
生き物のように思えるのは、スピードやなめらかな動きだけではありません。ジェットコースターも人間のように性別があると思っており、車両のデザインやコースのレイアウトが男らしくかっこいいものもあれば、曲線美が魅力の女性的なものも存在します(告白したい衝動が抑えられなかった、美しすぎるコースターに出会った話はのちほど……。)僕は国内のジェットコースターは制覇し、海外も含めると605機種のジェットコースターに乗ってきましたが、ジェットコースターの男女比は4:6でやや女コースターが多いです(ジェットコースター男調べ)。
フォーミュラ・ロッサ@フェラーリワールド(アラブ首長国連邦)
フェラーリのF1マシンをモデルにした世界一速いジェットコースターで、スタートして約4秒で世界最速の240km/h(ギネス記録)に達します。大胆なコースレイアウト、テーマや車両のデザイン、長い直線コースを急加速するスタート、すべてにおいて男らしさを感じるジェットコースターです。
スチールドラゴン2000@ナガシマスパーランド(三重県)
全長2,479mの世界最長のジェットコースター!
同園の大観覧車よりも高い97mから落下して、キャメルバックと呼ばれるアップダウンを繰り返す直線的なコースレイアウトで、これぞ「男の中の男」というイメージです。
ピレネー@志摩スペイン村(三重県)
世界最大級のインバーテッドコースター(吊り下げ型のジェットコースター)で、日本唯一となるコブラロールという名のついたエレメントがとても美しいです。
回転の多い曲がりくねったレールの曲線美は、妖艶な雰囲気が漂う魅惑的な女性のイメージです。
マニアの中には、走行している車両やウネウネと曲がりくねったレールを眺めて楽しむという強者も存在します。鉄道マニアの撮り鉄のように、ジェットコースターマニアもお気に入りのポイントで写真を撮影して楽しんでいます。レールの横でカメラを構えている人は、「ジェットコースターが怖くて乗れず記念撮影係に徹している人」だけではないのです。
圧倒的で非日常、ロマン溢れる乗り物。
もちろん、スピードや浮遊感を味わえることもジェットコースターの醍醐味だとも思います。
最高速度240*km/hで加速して最高部高度52mまで一気に上昇する…日常生活では体験することのない、非日常の圧倒的な体験です。(*フォーミュラ・ロッサの数値)
刺激を求めて乗りに行くスリル満点のジェットコースター。どのような原理で動いているのか、知っている人は意外と少ないのではないでしょうか?一般的なジェットコースターは、チェーンリフトで高いところまで車両を持ち上げ、そこから位置エネルギーを運動エネルギーに変えながら急降下や急上昇を繰り返して走行します。現在は「リニアランチ」方式と呼ばれる磁力を使ったシステム(*リニアモーターによって車両を急発進させる、最新技術を用いたコースター)で急加速するものや、電力で走行するジェットコースターも存在しますが、僕は昔ながらの「これぞジェットコースター!」というオーソドックスなタイプが一番好きです。精密に計算されつくされたコースを途中で止まることなく、電力を使わずエネルギーだけで最後まで自力で走ってくるところは何度見ても感動してしまいます。
みなさんご存知の富士急ハイランドFUJIYAMAは、オーソドックスなTHE・ジェットコースター!
大きな一回転ループやコークスクリューのきりもみ回転など、曲がりくねったコースを幾つも連なった車両が自力で走行している光景を見ているだけで興奮します。どのようにしてこのコースが設計されたのだろう、設計者にお会いしたいとまで考えてしまうほど、建築物としての関心も止まりません。
乗って楽しい、見て楽しい、そんな魅力のあるジェットコースターには、他の乗り物と全く異なる点があります。それは「走るだけ走って同じところに戻ってくる」ところです。
飛行機や鉄道など世の中にはたくさんの乗り物がありますが、出発地点と到着地点が異なり、人々が別の場所へ向かう移動手段として乗られています。しかし、ジェットコースターは出発して同じ場所に戻ってきます。移動手段として人を運ぶ乗り物ではなく、ただ人々を怖がらせて楽しませるためだけの乗り物なのです。なぜ人々はわざわざジェットコースターに乗りに行くのか……。「怖いけど楽しい」とはどういうことなのか……。 そんな哲学的なことを考えていると迷宮入りしそうですが、そこにロマンが詰まっていて、一言では表現できない奥深い乗り物だと思います。
そんなこんなでジェットコースターに魅せられ、国内外のジェットコースターに乗り回る日々。後編ではある告白したい衝動を抑えられなくなったコースターと出会いについて、赤裸々に語ります。