何気なく始めた焚き火が人生の転機となり、ワークショップの主宰や専門書籍の執筆、メディア出演など、さまざまなアプローチで焚き火の魅力を発信する“焚き火マイスター”の猪野正哉。そんな彼の目標は「焚き火を日常に取り戻すこと」。この連載ではキャンプ場以外での焚き火レポを通して、ロケーションによって様変わりする焚き火の魅力を全5回にわたり紹介していく。第4回目の舞台は東京都台東区。

 

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つくづく思うのが、焚き火もキャンプももっと身近で気軽にできれば良いと思っている。そもそもキャンプは準備、撤収、荷下ろしに加え、移動が付いてまわり、それらがメインになりあっという間に週末が終わってしまう。生気を養うつもりが、生気を奪われて、仕事を迎えるなんてこともある。できることなら、もっと時間を有効に使い、週末を満喫したい。
 

そうモヤモヤしているときに、SNSで見かけたのが、今回の場所“キャンプ練習場campass”である。目を疑ったが、あの秋葉原である。秋葉原といえば、アウトドアから最もかけ離れた文化で賑わいを見せている家電、アニメの街だ。初めは期間限定でのオープンかと思っていたのだが、どうも通年で営業しているようだ。かつ週末限定で<焚火Night>を開催とのことなので、早速、行ってみた。

 

テーマは、キャンプ練習場

 

JR秋葉原駅からJR御徒町駅方面へ徒歩5分ほどの高架下にあり、ざっくり言えば、アメ横の並びだ。このご時世、駅から徒歩5分の賃貸物件すらなかなか出てこないなか、好立地すぎて、逆に心配してしまうほどの駅前である。

 

 

話を聞いてみるとここはジェイアール東日本都市開発が運営しているとのことで納得はできたが、それにしても凄いし、高架下の有効活用のアイデアが秀逸すぎる。
 

2023年3月にオープンし、キャンプ場のコンセプトが「都心の高架下でキャンプの練習体験ができる場所」であるのも面白い。確かにまったくのキャンプ初心者が、キャンプ場でいきなりテントを立てるのは難しく、ここで練習してから行けば、手間取ったり、恥をかかずに済む。実際、ファミリーがなかなかテントを立てられず、険悪なムードになっているシーンをよく見かける。

 

 

線路が6本も通る高架下だけあって広々し、テントサイトは14箇所にBBQ、焚き火サイトになっている。もちろんトイレや水場、キャンプ道具のレンタルがあり、一般的なキャンプ場と遜色はない。ただ高架下では焚き火ができないため、火器はガスバーナー限定だ。

 

 

ここならではのアイテムが耳栓だ。全国のキャンプ場を探しても無料配布しているところはココだけかもしれない。初めは音が気にはなっていたが、ただ人間の適応能力も捨てたものではなく、私は途中から気にならなくなった。

 

やる側からやってもらう側へ

 

ここではスタッフが火起こしから管理、後始末までを行ってくれる。普段は逆の立場なので、むず痒く感じたが、これはこれで気がラクではある。なかには自分で焚き火を完結させたい人もいるかもしれないが、場所が場所なので、でしゃばらないことが賢明だ。

 

 

全部お任せの、焚き火版・グランピングとでも言えるだろう。

薪をくべることもなく、ただただ炎を眺めるだけの時間ではあったが、ある意味新鮮だった。

 

それに加え、いつも以上に焚き火に癒された気がした。キャンプ場での焚き火では、家からキャンプ場まで時間をかけて移動し、焚き火にありつくまでに時間がかかる(もちろんそれも良さの一つではあるが)。一方、都心のど真ん中での焚き火は、ありつくまでの時間がほとんどかからない。忙しないシーンからあっという間にリラックスシーンに切り替わるギャップからだろうか。

 

開催時間内であれば参加料の550円を払えば、弁当などの持ち込みが自由なので、ふらっと立ち寄れる。2時間ほどいたが、その間も見ず知らずの人と焚き火を囲み、各々が自由に楽しんでいた。無言のコミュニケーションも成立する焚き火だからこそ、はじめましての人ともほど良い距離感でいられるのだ。

 

1台の焚き火台をみんなで囲む良さを再認識し、理想的な環境と思い、次なる場所へと向かう。

ちなみにこの後、家電量販店やラーメン屋に立ち寄り、充実した時間を過ごした。日常に溶け込んだ場所ならではでもある。


取材協力:キャンプ練習場 campass

 

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