80年代のバブル期、若者を中心に爆発的なブームを巻き起こした<スキー>。いまでも冬の定番アクティビティとして楽しまれているが、『もっともっとスキーの楽しさを知ってほしい!』と伝えたくてたまらない人、それは編集者の渡邊卓郎。多くの人にこの想いを届けたいがあまりフリーマガジンまで制作を始めた彼が、ここでも思う存分魅力を語ります。第二回は、読後、きっと経験したくなる、特別な絶景のお話。

 

静寂の非日常と絶景を求め、ソワソワと。

「スキーって楽しいんです」「雪山って美しいんです」
スキーの虜になってからはそんなことばっかり会う人会う人に言ってます。
毎年冬が近づいてくると、スキーギアやウェアのチェックを始めたり、どのタイミングで休みを取ろうかな?と考えたり、いつでも雪山に行けるように車のタイヤをスタッドレスに履き替えたりと、まあなんだかソワソワして過ごしています。

スキーの楽しさはたくさんあるんですけれど、スキーをしていて幸せを感じる要素として「非日常」「絶景」「静寂」という3つのキーワードがあると思っています。

まず「非日常」。非日常的な体験ってワクワクしちゃいますよね。ヘルメットを被り、ゴーグルを装着し、全身スキーウェアとグローブに身を包んで、スキーブーツとスキー板を履くなんて、まずそのスタイルに“変身”することが非日常だと思いません?そして、雪に覆われて真っ白になった雪山の世界そのものが非日常ですよね。その雪山を、生身の身体を使ってすごいスピードで滑り降りるんだから、それはもう非日常的な行為以外のなんでもありません。

 

真っ白で神々しいほどの世界の中を自分の身体だけで滑る気持ちよさは一言では言い尽くせません。

そして「絶景」。真っ白に雪化粧された山の美しさには神々しい魅力があります。その本当の美しさに出合うためには、ぜひ厳冬期にリフトやゴンドラに乗って山の上を目指してほしいのです。

雪国に行けば、麓の町でも山の麓にいても、雪景色を見ることができると思います。

でもね、そこじゃないんです。山の上なんです!山の上の世界は別次元の美しさですから!山の上には木々が凍り、真っ白の雪と氷だけの世界が広がっています。この美しさには間違いなく言葉を失っちゃいますね。

この雪山の絶景の中を自身の身体だけど使って、地球と戯れる行為こそがスキーなのです。

 

山の上の方では気温もグッと下がり、麓とは全く異なる雪と氷の世界が待っています。

そして、もう一つのキーワードに「静寂」があります。

雪の世界って信じられないくらい静かなんです。雪が降り積もった日の朝の、シンと静まり返った空気感を体感したことがある方は多いと思いますが、これは雪が空気の振動を吸収して、音が遠くに届かなくなるからなんです。 

静寂の真っ白な世界。

この世界の中をスキーで滑る時間こそ、僕がスキーをしていて何よりも幸せを感じる時です。

 

早朝から、鼻息荒く狙うは「ファーストトラック」

非日常と絶景と静寂。そんな最高な世界を独り占めできるタイミングを求めて、朝のリフトやゴンドラの始発一番乗りを目指すというわけですね。だから、自宅から雪山に向かう時は家を早朝(というか夜中?)に出発しますし、スキー場近くに宿泊していたら、宿の朝食を食べないぐらいの勢いで出かけていくのです。誰よりも早く起きて、いそいそと用意して、家族からの「そんなに急いでどうするの?」という非難の視線も気づかないフリをして用意を進めるのです。静寂の世界を求めているのに、ものすごーく鼻息は荒めです(笑)。

 とにかく!一番乗りでゴンドラやリフトの列に並ぶことができた時の達成感ったら半端じゃありません。「やりきったぞ俺は!」と自分を褒めてあげ、滑る前から胸が熱くなっています。

 

朝一番のゴンドラに乗車。この時点でもうすでに達成感。間違いなくいい1日の始まりです。

ゴンドラに揺られながら、眼下に広がるゲレンデを見ても誰かが滑った跡は見当たりません。
そうです!このスキー場の1日において、記念すべき1本目を刻めるってわけなんです。だから「ファーストトラック」と呼ばれています。
「ファーストトラックおめでとう!俺」とまた自分を褒めてあげながら山の上を目指します。ちなみに、ゴンドラやリフトの一番乗りのことは「ファーストチェア」なんて言われたりします。

 

ファーストトラックを刻むこの雪景色は、天気が悪かろうが僕にとっては特別なギフト。

ファーストトラックのこの1本の滑りの価値は、その後に続く10本分くらいにも相当します。というか、この1本さえ最高な状態で滑れちゃえば、その日1日はず~っと幸せでいられるくらいなんです。アフタースキーのビールもごはんも美味しくなるっていうもんです。スキーにおいての早起きは、間違いなく三文以上の得がありますね。

前日からの雪が降り積もった朝ならまるでフワフワの綿菓子や生クリームのようになめらかな雪の光景が待っていますし、雪が降らなければ圧雪車が整備をしたばかりの美しいコーデュロイ状の斜面が目の前に現れます。

 

美しく整えられたコース! たまらないでしょう?

しかも、目の前には誰もいない!この喜びと興奮と幸せをいったいどうやって文字にしましょうか。それはちょっと難しいですね。

 ギューン!グイーン!ザザーッ!と、自分がイメージしたままに、自由に滑り降りていきます。雪の感触、山の地形の感触を全身で味わいながら、真っ白な世界で頭も身体も真っ白になって、自由に開放されるのです。気持ち良すぎて、滑りながら大きな声が出ちゃってもいいでしょう。いや、むしろ全力で叫んじゃいましょう。もしかしたらよだれが出ちゃっているかもしれません。そんなことは全く気にしなくても大丈夫。

 

ぜひ、この体験をしてみてください。

確実に聞こえますよ。頭の中で「パッカーン!」と何かが開く音が。