実家の玄関にちょこんと佇んでいる。もしくは、おばあちゃん家の棚の上から見守ってくれている。だるま、福助、こけし、おめん、赤べこなどの「郷土玩具」からは、そんなイメージが浮かぶ。長年の歴史や伝統を守りながら、新しい郷土玩具を発信し続けているのが、福岡の郷土玩具専門店の「山響屋」だ。山響屋の店主・瀬川信太郎に郷土玩具への偏愛を語っていただく連載企画の1回目では、郷土玩具との馴れ初めと「山響屋」開店までのエピソードをご紹介。

最初は単なる「寺社巡りついでの郷土玩具集め」だった

私が「郷土玩具」と出合ったのは20代後半の頃。

当時の私は、大阪のアメリカ村にあるエスニック雑貨店で働きながら、休日になると寺社巡りをしていたんです。同時期にだるまの絵付けをする仕事を始めたのですが、「自分の運気が上がれば、絵付けをするだるまにとっても縁起が良いのでは?」と考えて。「だるまといえばお寺かな?」と漠然なイメージのまま通いだしたのが、寺社巡りを始めたキッカケです。

絵付けの参考にするために、ネットでだるまを検索していたら、今まで見たことがないデザインのだるまが沢山あったんです。それで、世の中には色んなだるまがあることを知りました。それまで、だるまといえば選挙の目入れのイメージくらい。私は変わったデザインのだるまがないか、参道のお土産屋さんの棚を隅々まで探し、見たことがないデザインのだるまを買い求めることが、寺社巡りをする中での楽しみになっていました。

1年ほどそんな生活を送っていた頃、京都に住んでいた友達が「オススメの店があるけん!一緒に行こうよ!」と誘ってくれたのが、東寺の隣にある「郷土玩具 平田」という郷土玩具店。老舗感が漂う店構えにビビりながら、恐る恐る引き戸を開けるとだるまや招き猫などいろんな郷土玩具がずらっと並んでいました! だるまや招き猫、福助といった縁起物をちょこちょこ買い集めてきた私は、これらをひとまとめにしたのが「郷土玩具」というジャンルなんだ…! とはじめて知ったんです。

目移りする店内で「あれもいいな、これもいいな」と見ているとひとつの人形と目が合いました。それは福助。私が知っている福助といえば、頭がでっかくて裃を着て座っている、よくホーロー看板に描いてある福助足袋のイメージでしたので「なんこれ……?」と驚きながらも「これよこれ! こんなぶっとんだの探してた!」って思わずニヤニヤしてしまいました。その福助は耳たぶがめっちゃでかいし、なんか手招きしとるし、なんともいえない表情で私を見つめてきました。「連れて帰るやろ?」と声をかけられたような(笑)。それからは完全に郷土玩具のとりこです。

以降はただの寺社巡りではなく、その土地のお土産、特に郷土玩具を買うことが目的へと変わっていきました。当初は「ついでになんかあればいいな」という感じだったのに「また、あんなぶっとんだ人形に出合いたい」と。あの福助に声をかけられたような体験を、また味わいたいと(笑)。

九州を駆け回って、郷土玩具集め

手前が、「耳たぶがめっちゃでかい手招きをしている」福助

私は20歳の頃から「いつか自分のお店を持ちたい。好きなものに囲まれて、誰かと好きなものについて語りたい」と思っていたんです。いよいよ30歳になる頃、店舗を開業する資金も貯まり、地元の九州でお店を構えるために故郷に帰ってきました。そして運良く、福岡天神の近くにあるアパートの1室を借りることができたんです。

ちょうど1ヶ月後に控えていたGWに合わせて開店したいな、とぼんやり考えていましたが、何を売るかは全く考えていませんでした(笑)。なんせ自分の店を持つって夢しかなかったから、物件を借りられた時点でもうほぼ夢が叶っちゃった(笑)。でも「そういえば今、郷土玩具が大好きやねぇ。だるまの絵付けの仕事もしとるし、繋がりもあってよかよねー」と。じゃあ、せっかく福岡いうたら、九州の玄関口で店ば構えさせてもらうとなら、「九州の郷土玩具を紹介する店にしよう!」と開店まで1ヶ月を切った状況から、九州の郷土玩具を探し、仕入れの旅がスタート。

さて、郷土玩具がどんなものか分かったけど、九州にはどがん郷土玩具があると? 地元におるときは身近にだるまや招き猫なかったばい。「大丈夫かな……?」と不安になりました。ネットや本を通じて九州の郷土玩具を調べてみると、「九州は日本の中でも、東北に並ぶ郷土玩具の産地」だということがわかり、ホッとしたとともに「そーやと?」って驚きの方が強かった。高校時代まで住んでた九州ですが、その頃は海外に憧れていたので、地元のことを見てなかったんでしょうね。

「よし、じゃあ早速買い付けの旅に出よう!」と九州の地図を買ってきて、電車の旅のはじまり。車の免許は持ってるんですが、ペーパードライバーなので、足は公共交通機関。事前アポイントを取るのが苦手で、作り手さんの工房を調べて直接ピンポンして、完成した郷土玩具や制作過程を見せてもらい、自分が好きなものだけを仕入れさせていただきました。仕入れの基準は第一に「自分が飾りたいもの」。次に「ユニークなデザイン」、そして「地域性」の3つを重視しました。熊本の「おばけの金太」は熊本築城の際の逸話から生まれたからくり玩具でシュールで面白い。長崎の「古賀人形」は「キリシタン乗り馬」という人形から派生したもので、キリスト教と長崎の町の歴史を伝えてくれる人形です。方言を人形の名前に冠した人形が福岡にはあり、そういった郷土玩具もチョイスしました。

同じものはふたつとない、それも醍醐味

日本一愛くるしいおばけ「おばけの金太」

まーそんな仕入れ旅なんで、もちろんタイミングが合わず何度工房に伺っても不在で作り手さんに会えないことも(笑)。さすがに最後は電話してアポイントを取っていきましたが。まだ店を構える前だったし、キャップを被った街にいそうなにーちゃんが「人形屋開くけん、人形を仕入れさせてください」って怪しさぷんぷんでも、快く応対してくださった方々のおかげで今の店「山響屋」があります。本当に感謝しかありません。

そして、開店までの1ヶ月で九州を4周し、各地の郷土玩具に触れていきました。最初は、郷土玩具のことをデザイン重視で楽しんでいましたが、郷土玩具が生まれてきたその土地の風習や文化など、その土地らしさが郷土玩具には詰まっているんだなと次第に分かってきたんです。その土地の人たちに愛されているがゆえに、今まで作り続けられてきて、これからも作り続けられるのが郷土玩具。世の中の多くの物は、全て同じサイズ、デザインじゃないと不良品とはじかれてしまう。郷土玩具は全て手作りだから、ひとつとして同じものが存在しません。その人形と出合ったとき、そして目があったならば……人と一緒で一期一会なんだと思っています。

郷土玩具にのめり込み、実際に店を構えるまでのお話でした。今でも私は、郷土玩具からいろいろなことを教わっている途中です。きっと皆さんの身の回りにも、意外と郷土玩具があると思いますよ。次回はそんな私がこよなく愛する「だるま」について語ります。