―11月にYourniture.がリニューアルされたと伺いました。どういった経緯があったのでしょうか?
ヨセフ:新型コロナウイルスの影響で家具の海外生産が難しくなり、パーソナライズ家具ブランドYourniture.は2年近く事業が停滞していました。正直「これが引き際かも……」と弱気になっていたのですが、お客さまから「似たようなサービスは他にありません」「何年でも待ちます!」「Yourniture.の家具じゃなきゃダメなんです」といった熱い声をいただきまして……
ヨセフ:それに、ブランドを立ち上げる前には予測できていなかったニーズもあったんです。本棚などの収納用途で販売していたSIMPLE BOXを別の目的のためにお求めになる方もいらっしゃれば、壁に穴をあけてそこにぴったりはめ込める収納を探して私たちにたどり着いたという方もいらっしゃいました。
私たちを待ち望んでいる方がいるのだから、自分たちが弱音を吐いて立ち止まっているわけにはいかない、と今回の再スタートを決意しました。
―リニューアルに際して、ブランド名も「FURMETURE」に変更されたんですね。
ヨセフ:はい。ブランド名の変更には大きく分けて2つの意味があります。
1つは、長い間停滞してしまった旧ブランドYourniture.から「生まれ変わったぞ!」という決意表明としての名付け直しです。そしてもう1つは、「目線の変更」です。
―目線、ですか。
ヨセフ:はい。Yourniture.はYou、つまり「あなた」の家具を意味します。これって、ブランドがお客さまを「あなた」と表現しているわけで、少し他人行儀な目線ですよね。でも、お客さまは「私の家具」を選んでいるわけですから、「私の家具」に「あなた(You)」が入っているのって不思議だと思っていて。だから、このタイミングで思い切って名前を変えたんです。皆さんが「私(ME)」の「家具(FURNITURE)」を選ぶという意味で、FURMETUREと。
また、リニューアル後の商品第一弾として発売した製品も、収納以外にも使いたい方が多いというニーズを受けて「SIMPLE MULTI BOX」と名称変更しています。
―ブランド名・商品名、さらにはロゴも変わっていますね。Yourniture.はブランド名だけのシンプルなものでしたが、FURMETUREは箱のような……
ヨセフ:常に未来を向く、成長し続ける、自分らしさを大切にする、といった意味をロゴには込めました。でも、最も私たちが意識しているのは「Outside the box (箱の外)=概念にとらわれない」ですね。
―概念といいますと?
ヨセフ:家具における当たり前、と言えばよいでしょうか。家具って面白くて、例えば本棚で言うと100年前のものと現代のもの、形にほとんど差がないんですよね。強いて言えば、素材と使用感くらいでしょうか。
そして、変わらないのは選び方も同様です。既製品の中から理想に”近い”ものを選んで、「ここまでの機能/大きさはいらないけど、これでいいか」と。でも、自分が本当に欲しい/必要としているものとぴったり一致しているものだけ買えるようになれば、それがベストだと思うんです。
―「理想に近い」より「理想通り」の方がいいですもんね。
ヨセフ:そうですね。カスタムやパーソナライズって、高価で時間がかかってしまうから「だったらいいや」と諦める方がいらっしゃると思っていて。でも、パーソナライズというライフスタイルが当たり前になっていけば生産量が増え、コスト削減に伴う価格低下や生産スピード向上に繋がります。これ既製品と同じ水準になれば、自分の「理想どおり」のものを選ぶと思うんです。
―一方で、パーソナライズというライフスタイルを当たり前にするためにも低価格化と納期の短縮が必要だというジレンマがありそうですね……となるとFURMETUREでは、それらとは別に何かパーソナライズを当たり前にするためのアプローチをされているのでしょうか。
ヨセフ:ブランドとして掲げる「直感的(Intuitive)」「高品質(Impressive)」「無限(Infinite)」の保証です。頭文字を取って「3I」とも呼んでいます。
まず「直感的」についてですが、カスタム家具をオンラインで選ぶのは、どうしても大なり小なり不安だと思います。その理由の1つには、想像の出来なさがあると認識していて。サイトにはイメージ画像が1つだけ載っていて、サイズをプルダウンで指定できても画像は特に変わらず、どれくらい大きいかわからない……これだと、よほど安くない限りどうしても「やっぱり店頭で買おっかな」と思っちゃいますよね。
ヨセフ:だからFURMETUREでは3Dオンラインページを充実させました。スライダーを触れば画像がすぐ反映されて、どの方向からも見られます。AR機能もあるので、家の中で実際に置いた時のサイズ感がスマートフォンでわかるようになっています。
人体のシルエットも表示できるので「175cmの人と比較してこれくらいのサイズ感」というのも視覚で直感的に判断できるようになっており、購入のプロセスで疑問・不安を解消していただけると嬉しいです。
―では、「高品質」「無限」というのは……?
ヨセフ:言葉通り、品質の高さと無限の組み合わせですね。
「収納」を目的としたカラーボックスは、値段を抑えるためプリント紙化粧版が組み合わせられており、背板も薄いベニヤ版でできているので、頑丈さに長けている製品が非常に少ないです。だから置く向きも一方向のみのものが多く……しかしFURMETUREは、背板を含め全面にヨーロッパ産低圧メラミン化粧ボードを使用しているので、その耐久性から縦・横・上向きでも利用可能です。これはあくまで一例ですが、こういった要素の積み重ねによって私たちの「高品質」は成り立っています。
ヨセフ:また、10~50cmの範囲で3辺の長さを指定できて(1cm刻み)、色は7パターンから選べます。つまり、1商品で482447通りのラインナップが考えられますから、商品が増えていけばそれがどんどん増えていきますから、まるで「無限」のような体験ができると思っています。
―最後になりますが、今後のブランドとしての展望を伺ってもよろしいでしょうか。
ヨセフ:一人ひとりに合う「自分だけにピッタリ」という文化を、多くの人に広げていくことですね。実は、家具販売はあくまで第一段階なんです。
―「第一段階」ということは、第二段階やさらにその先があるわけですね。
ヨセフ:はい。第二段階は、物販ではなく「カスタムする」というライフスタイルの体験を提供していくことです。具体的に言えば、インテリアのパーソナルアシスタントのようなものですね。
日本人は転勤などの関係で引っ越しの回数が多いと言われていて、私自身日本に来てから既に5回ほど引っ越しをしています。引っ越せば当然、家具を買い直したり、探したりする必要がありますが、そのたびに「既製品のラインナップが多いお店」へ足を運び、「とりあえずこれかなぁ」で済ませがちです。
ヨセフ:でも、「このサイズの部屋に・こんな色の・こういうベッド/ソファ/本棚が欲しい」など入力すれば、「この家具はこのサイズ・色で、これと組み合わせればいい」とすぐに出てくるサービスがあれば、自分の理想の暮らしを手軽に送れるかなと思っていて。私たちは、そのためのデータベースを作ろうとしています。
―家具選びの困りごとがほとんどなくなりますね。では第三段階というのは……?
ヨセフ:これは正直理想論ですが、「真のD2C」を目指しています。
―真のD2C?
ヨセフ:D2Cの”D“はDirect to Consumerという略で、本来はお店を経由せずにお客さまに直接お届けするという意味でDirectを使っています。ですが、我々が実現させたいのは「直接」や「すぐに」というDirectです。簡単にいうと、渋谷や新宿といった都会のど真ん中に、オーダー家具を自動的に作ってくれるロボットのあるお店を作ることです(笑)
ふざけているように聞こえるかもしれませんが、低価格化・納期短縮・手軽さを同時に実現するには、実はこれが最適解だと思っています。工場では、人間が図面さえ指定すればロボットが半自動で家具を生産してくれる体制が、ほぼ整っています。これをコンパクトにして街中に置ければ、「○○が欲しいな、ちょっと渋谷行ってくる!」みたいなことができるはずです。
工場の話もそうですが、インテリア業界に10年近く身を置いている中で、お客さまには見えない家具のあれこれをたくさん見てきました。その経験が「FURMETUREで世の中をこうしたい!」という原動力に繋がっているのかもしれません。