「矯正歯科の選び方がわからない……」そう思ってから、もう何年経ったでしょうか。
毎朝鏡の前に立つたびに、気になってしまう歯並び。八重歯のようになっている不揃いな前歯がコンプレックスで、歯科矯正をしようと調べてみるのですが、費用から体験談まで千差万別。どこにすればいいか悩んでも結局結論は出ず、踏ん切りがつかずに数年が経過……こんな悩みを抱えているのは、私だけではないはず。

そこで今回は、Oh my teethに所属する歯科医師の古川ドクターを直撃して、お話を伺いました。

 

歯科医師/歯学博士 古川雄亮     

マウスピース矯正D2Cブランド「Oh my teeth」所属歯科医師、歯学博士。東北大学歯学部卒業。九州大学大学院歯学府博士課程(歯科矯正学専攻)修了。日本矯正歯科学会所属。

もくじ

矯正歯科の施術費用にばらつきがある理由

―古川ドクター、本日はよろしくお願いします。歯科矯正を検討している立場として、色々伺います。
 
古川ドクター:よろしくお願いいたします。矯正歯科はイメージの湧きづらい部分もあると思うので、私に答えられることは全て答えさせていただきます。これが歯科矯正への第一歩になってくれたら嬉しいです。

―ではさっそくですが、矯正歯科って十数万から百万円超えまで、費用にかなりのばらつきがあるように感じます。これはやはり、安いものよりも高い方が良いのでしょうか?

古川ドクター:歯科矯正は価格で良い・悪いは決められません。安くても良い治療は受けられる可能性はありますし、高くても良い治療を受けられるとは限りません。というのも、歯科矯正の費用にばらつきがある要因は4つあるんですよね。

―4つ、ですか。

古川ドクター:はい。それぞれ「使用する矯正器具の違い」「矯正範囲の違い」「受診するクリニックの料金設定」「通院の際にかかる調整料の有無」ですね。

 

器具と範囲が変われば、費用も変わる

古川ドクター:歯科矯正で使用する矯正器具は大きく「ワイヤー矯正」と「マウスピース矯正」があり、ワイヤー矯正はさらに「表側矯正」「裏側矯正」「ハーフリンガル矯正」などに分かれます。この矯正器具の種類によって、矯正費用の相場は異なってきます。

―ワイヤーとマウスピース、くらいの分け方は知っていたのですが、さらに細分化できるのですね。

古川ドクター:はい。さらに言うと、ワイヤー矯正は器具の素材によっても、矯正費用に差が出ます。矯正器具の種類(素材)別の特徴と費用目安はこのような感じですね。

―すごいですね……どれがどのようなものかわからないもので、ますます選び方がわからなくなってきました……

古川ドクター:申し訳ありません(笑) 写真を見ながらの方が分かりやすいかもしれません。例えば、「歯科矯正」と聞いてみなさんが真っ先に思い浮かべることが多い金属製の器具は、メタルブラケットと呼ばれるものです。

メタルブラケットを使用したワイヤー矯正の例

―確かに、初めに「歯科矯正」と聞くとこれが浮かびましたし、正直に言ってしまうと今までこれだけが「ワイヤー矯正」だと思っていました。

古川ドクター:普段接する患者様にも、そう思われている方はかなり多いですね。メタルブラケットはワイヤー矯正の中で費用が比較的安く済むタイプのもので、一方プラスチックやジルコニア、セラミックなど、目立ちにくい素材を使用した矯正器具は費用が上がります。

目立ちにくい素材を使用したワイヤー矯正の例

―なるほど……矯正器具の違いで費用が変わる背景にはこういった事情があったんですね。
でも、先ほど古川ドクターが費用の異なる原因として挙げられていた「矯正範囲の違い」は、矯正歯科に通っていない私でもある程度は想像できます。

古川ドクター:お手入れする範囲が広ければ費用も上がる、というのは確かにイメージしやすいかもしれませんね。
改めて説明させていただくと、歯科矯正には奥歯から全体的に歯並びを整える「全体矯正」と、笑ったときに目立つ前歯などを部分的に整える「部分矯正」があります。部分矯正は歯を動かす範囲が全体矯正よりも少ないため、治療期間が短く、費用も安いです。

―八重歯をピンポイントで直したいと思っていた自分にとってはとてもありがたい情報です……この矯正器具と矯正範囲のかけあわせによって、費用の差が生まれるのですね。

 

肝心なのは、受診するクリニックの料金設定

古川ドクター:と、ここまで矯正器具や矯正範囲による費用を紹介してきましたが、これらはあくまでも目安です。歯科矯正費用は基本的に自由診療*で、矯正治療にかかる料金は矯正歯科・クリニック側で設定できるんですよ。

*保険診療となるのは「厚生労働大臣が定める疾患」や永久歯萌出不全、顎変形症に関わるものです(マウスピース矯正装置による治療は保険適用外)。矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合については、 公益社団法人 日本矯正歯科学会のHPをご覧下さい

―そうだったんですね。費用がばらつくのはある意味必然なのかもしれないですね……

古川ドクター:また基本的に、矯正開始前にはカウンセリングや診断に必要な各種検査を実施しますが、これらもクリニックによって料金設定は異なります。あくまでも目安ですが以下のような費用がかかるケースが多いです。

・初回カウンセリング:無料~5,000円程度
・精密検査・診察:10,000~65,000円程度
・虫歯や歯周病の治療:1回につき1,500~10,000円程度
・抜歯:1本あたり5000~15,000円程度
※虫歯や歯周病の治療は保険で受けることも可能ですが、矯正のための抜歯は原則自由診療です。

 

通院のたびにかかる「調整料」

―歯科矯正の費用が変わる要因4つのうち、「調整料」というものがあったと思うのですが、こちらは一体どういったものなのでしょうか。

古川ドクター:こちらは矯正歯科に通ったことがないと、イメージしづらいかもしれませんね。調整料というのは、歯科矯正治療中、矯正器具の調整にかかる費用です。目安は1回につき3,000~15,000円程度で、通院のたびに発生します。

―通院のたびに費用が発生するんですか。知らなかった……

古川ドクター:必ずというわけではありません。トータルフィーシステムを採用しているクリニックであれば、この調整料が通院のたびに発生しないことが多いです。

ちなみに、トータルフィーシステムというのは文字通り「矯正治療にかかる費用の総額が最初から決まっている料金体系」のことで、多くの場合、調整料や追加で発生する矯正器具の料金が矯正開始前に提示される額に含まれています。
 

 

全員が適用されるわけではない、歯科矯正の医療費控除

―そういえば、先ほど自由診療の話題で尋ねそびれてしまったのですが、歯科矯正って医療費控除の対象になる場合とならない場合がありますよね? それってどういう基準なのでしょうか。同じ歯科矯正なのに……


古川ドクター:その基準は「目的」です。歯科矯正費用が医療費控除になるのは、主に噛み合わせなどの機能回復をともなう歯科矯正治療です。
例えば、「噛む機能を取り戻すために歯科矯正が必要」とドクターが判断して歯科矯正を行った場合、ワイヤー矯正・マウスピース矯正といった矯正方法に関係なく、医療費控除の対象です。ただし噛み合わせに問題がなく、見た目のみを改善する目的で行った矯正治療は、医療費控除の対象になりません。

―なるほど。治療内容ではなく、歯科矯正の目的によって変わるんですね。

 

現役歯科医師としておすすめする、矯正歯科を選ぶ4つのコツ

―費用の違いについてはすごくスッキリしました。ではいよいよ本題に入りたいのですが、現役歯科医師である古川ドクターから、ぜひ矯正歯科の選び方についてアドバイスをいただきたいです。

古川ドクター:まず、最も大切なのは「担当医やクリニックとコミュニケーションがしっかり取れること」です。ここまでお話ししてきた通り、矯正治療には高額な費用がかかりますし、期間も1~2年と長くかかるのが一般的です。そのため担当医やクリニックと十分にコミュニケーションをとり、納得した上で行うことが重要です。
このことを踏まえた上で、注目すべき「矯正歯科を選ぶポイント」を4つお伝えします。それは「無理なく治療を続けやすいか」「メリット・デメリット双方を説明してもらえるか」「トラブルに対応してもらいやすいか」「口コミと実績」です。

―なんだか、どれも一度は考える要素な気もするのですが……

古川ドクター:一つひとつを取り上げると当然に思えるかもしれません。ですが、多くの方はこれらを天秤にかけてしまうんですよね。ただドクターとしては、これらに優劣はないので「全て」を平等に踏まえてクリニックを選ぶのをおすすめします。それぞれ詳しく説明していきますね。

 

「無理なく治療を続けやすいか」を判断する

古川ドクター:前述したように、歯科矯正治療は一般的に1~2年程度かかります(全体矯正の場合)。また、使用する矯正器具にもよりますが、1~3か月に1回程度は通院しなければなりません。そのことを踏まえると、地理的な条件や診療時間を確認し、無理なく治療を続けやすいクリニックを選ぶのがおすすめです。

あまりにも遠方のクリニックや、平日しか空いていないクリニックを選んでしまうと、ドクターに指示されたタイミングで通院できず、当初の治療計画からズレが生じてしまう可能性があります。それがきっかけで、途中で歯科矯正を諦めてしまうなんてことも……

―途中でやめたという体験談、言われてみればよく耳にする気がします。治療計画からずれたり、途中でやめたりするとどういった問題が生じるのでしょうか。

古川ドクター:治療計画からズレが生じると、治療計画を立て直さなければならないリスクがあります。治療計画の立て直しには、再度各種検査を実施したり、矯正装置を作り直したりする必要がありますので、追加費用が発生することがあります。

矯正を途中でやめてしまうと、当然ながら、歯を動かすことは難しくなります。また、治療途中で器具を外してしまうと、理想の歯並びに向けて動いていた歯が、元に戻ってしまうリスクもあります。いわゆる「後戻り」です。

後戻りは予定通り治療を完了しても起こり得るリスクで、防ぐためにはリテーナーと呼ばれる装置をできるだけ長くつけなければなりません。なぜなら矯正完了直後の歯は動きやすく、元に戻ろうとするからです。

 

デメリットもきちんと説明してくれるクリニックと、注目しそびれる「トラブル対応」

古川ドクター:次に、メリット・デメリットの双方を説明してくれるか、です。
先ほどお伝えした通り、歯科矯正の方法にはさまざまあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。たとえばワイヤー矯正は目立ちやすく敬遠されることもありますが、最も適応範囲が広く、重度の歯並びの乱れにも対応できます。

一方、マウスピース矯正は透明で目立ちにくい点で人気ですが、自分で着脱可能なので自己管理が非常に重要な矯正方法でもあります。

―勝手に、「目立たないしマウスピース矯正の方がいい」と思い込んでいました……そうですよね、どちらの歯科矯正方法にもメリット・デメリットがありますよね。

古川ドクター:はい。このようなそれぞれの矯正方法のメリット・デメリットも踏まえつつ、ご自身に合った矯正方法を提示してくれる矯正歯科を選べるとベストですね。

―ちなみに、「トラブルに対応してもらいやすいか」とは、どういうことでしょうか。イメージができるようでできなくて……

古川ドクター:歯科矯正中でよくあるトラブルには、「矯正器具が外れてしまった」「矯正器具をなくしてしまった」といったケースがあります。

―ワイヤー矯正、マウスピース矯正、それぞれで起こりそうなトラブルですね。

古川ドクター:こうしたトラブルが発生した場合、すぐに電話やオンラインなどで対処方法を教えてくれたり、来院にて対応してくれるクリニックであれば、安心して矯正生活を送れると思いますよ。

 

口コミや実績、参考にするべきポイント

古川ドクター:最後の注目ポイントは、口コミや実績ですね。ホームページなどで公開されている症例を確認したり、口コミを参考にしたりすることは矯正歯科・クリニック選びの重要な指標になります。

―正直、口コミって多すぎてむしろ何を参考にすればいいかがわからないんですよね……

古川ドクター:自分が受けてみたい歯科矯正方法があれば、その矯正方法で一定の実績があるかどうか確認するのがおすすめです。受けてみたい歯科矯正方法と言うとイメージしづらいかもしれませんが、わかりやすい例で言うと「目立たない裏側矯正を受けたい」などですかね。

―なるほど、それで口コミや実績を絞り込んでいけばいいわけですね。

古川ドクター:ただし、気を付けてほしいこともあります。歯科矯正前の診断の結果、自分が受けたい矯正方法が適用されないことは十分ありえます。
そのため、自分に合った矯正方法やクリニックを検討するために現役ドクターとして最もおすすめするのは、まず実際に複数のクリニックに矯正相談に行き、自分の歯並びや噛み合わせの状態を診てもらうことですね。矯正相談は無料でしてくれるクリニックもありますから、そういったところを有効活用してみてください。

―プロの見解が聞けて、本当に安心しました……本日はありがとうございました!

古川ドクターのおかげで、歯科矯正のよくわからなかったポイントがすっきりしました。
皆さんも、価格だけでなく「無理なく治療を続けやすいか」「メリット・デメリット双方を説明してもらえるか」「トラブルに対応してもらいやすいか」「口コミと実績」という4つのポイントを踏まえ、ぜひ納得のいく矯正歯科選びをしてみてはいかがでしょうか。