ピーター・バラカン
イギリス出身のラジオDJ。ロンドン大学日本語学科卒業後、1974年に音楽出版社シンコー・ミュージック国際部での仕事のために来日。6年後、YMOのマネジメント事務所へ転職。独立し、TVやラジオ番組のパーソナリティとして活動開始。2012年から2014年までは、InterFMの執行役員も務めていた。
Mami(マミ)
Podcaster。2013年、友人のMichaelとともにPodcast番組『バイリンガルニュース』をスタート。Mamiが日本語、Michaelが英語というバイリンガルスタイルで、世界のニュースやトピックについて会話を繰り広げる。爆笑問題など芸能界にもファン多数。オフィシャルサイトでは、オリジナルグッズの販売なども行なっている。
ピーター・バラカンとバイリンガルニュースMamiが語る、「ラジオ」「Podcast」というフィールド
─バラカンさんは、ラジオ番組を担当するようになってどのくらいになりますか?
バラカン:去年で40年です。今は音楽の番組を2本、インタビュー番組を1本担当しています。もともと、23歳でイギリスから日本に移住し、数年後に人から誘われてオーディションを受けに行ったことがきっかけでラジオ番組を持たせてもらうことになりました。
ラジオを聴いて育った世代ですし、子どもの頃はテレビがまだ始まったばかりだったので、音楽との接点はラジオ以外になかったんですよね。学生の頃から「いつかは自分も好きな音楽を好きなようにかけるラジオ番組がやりたいなあ」とうっすらと考えていました。
─Mamiさんが、友人のMichael(マイケル)さんとPodcast番組『バイリンガルニュース』を始めたのは?
Mami:2013年ですから、今から7年前です。40年もラジオをやられているバラカンさんと並んで紹介されるなんて、あまりにも恐れ多いですね(笑)。私も子どもの頃からラジオに親しんできて、大学生の頃にアメリカの人気コメディアン、ジョー・ローガンがやっている『Joe Rogan Experience』というPodcast番組にハマりました。
テレビのように切り貼りすることなく、3時間くらいぶっ続けでゲストと喋るだけの番組なのですが、それが新鮮で面白かったんです。それでMichaelと、「私たちも同じようにやってみようか」という感じで『バイリンガルニュース』を始めました。
バラカン:どんなニュースを取り上げているのですか?
Mami:科学や医療のニュースから、あまり日本のメディアでは話されないようなセクシャルなトピック、もっとくだけた話題などなんでもありです。たまに、NASAで働く日本人や、IPS細胞を研究している高橋政代先生などさまざまな肩書の方をゲストとしてお招きしていて。ものすごく専門的でニッチだけど、とてもわかりやすく面白い話を何時間もしていただいています。
バラカン:着眼点がすごく面白い。でも、そんなに専門的な内容にオーディエンスはついてこられますか?(笑)
Mami:普段なかなか聴くことのできない話をたくさんしてくださるので、リスナーも結構ついてきてくださっていますね。『バイリンガルニュース』は、基本的に私が日本語、Michaelが英語で話すバイリンガル形式でやっているのですが、Michaelの英語を訳すわけでもなく、ゲストが来てくださった時も、そのコンテクストを説明しないんです。そういう「親切ではない形」を敢えて取っているのですが、内容そのものが知的好奇心を刺激するというか。
台本も事前の打ち合わせもない、全てが「本当の会話」。スポンサーをつけていないのも、表現の自由を担保するため。
—ニュースやゲストはどうやって選んでいるのですか?
Mami:どちらも自分が興味あるかどうかが基準です。「みんな、この話をしてほしいだろうな」と思うトピックが仮にあったとしても、自分が話したくなければ選びません。
私は本業がコミュニケーションコンサルティングで、マーケティングも仕事の一部なのですが、それとは真逆のことがやりたいんですよね。だから、変に数字を気にしたり、マーケティング的な意味でのベストを求めたりするよりは、このスタイルのほうが面白いんじゃないかと個人的には思っています。
─バラカンさんも、ラジオではずっと「自分の好きな曲しか流さない」というスタイルを貫き通してきましたよね。
バラカン:今も僕にとってラジオ番組は音楽を紹介するための媒体ですし、「嘘のない放送」にこだわるというのかな。売れているから、話題だからという理由で選曲することは昔からないです。自分が本当にいいと思って、尚且つ他の番組ではあまりかからなさそうな曲を優先してかけています。
それに共鳴してくれた人だけが聴いてくれていればいいという気持ちでやってきたのですが、何十年もやっていると、ずっと好きで聴いてくれていた人たちには何かしらの影響を与えているんだと実感することもあります。
Mami:素敵です。「嘘のない放送」というのは、私たちにとっても目標のひとつなんです。『バイリンガルニュース』はジングルもBGMも何もなくて、いきなり始まって「じゃあ、おしまい」と言って終わる(笑)。台本もない、事前の打ち合わせもない、全てが「本当の会話」というか。取り繕った会話ではなく、本当の意見をそのまま流すようにしています。スポンサーをつけていないのも、表現の自由を担保するためなんです。
SpotifyがPodcastを始めたのも割と最近。みんなが可能性を感じ始めている。
─『バイリンガルニュース』を始めてからの7年間で、Podcastのシーンではどのような変化がありましたか?
Mami:当初、プラットフォームにしていたiTunesでは、ラジオ番組が一部をPodcast用に編集して出しているだけのものがランキングの上位を占めていました。内容も、基本的に芸能人のトークやニュースなどメインストリーム系が多かったのですが、この7年間でびっくりするくらいさまざまなジャンルのコンテンツがランクインされるようになりましたし、Podcast自体の認知度もうんと上がって。私が「Podcastをやってます」と言っても、以前は「何それ?」みたいな感じで、知らない人のほうが多かったのですが、今はそこまでではなくなりました。
─ソフトウェアやサービスの成長も、今のPodcastの盛り上がりにつながっていると思いますか?
Mami:プラットフォームはどんどん増えていますよね。Amazonも最近始めましたし、SpotifyやVoicy、himalayaなど他にもたくさんある。リスナーからすれば、自分の使いやすいサービスを自分で選んで聴けるので便利だと思います。そこも7年前と随分変わりました。
バラカン:SpotifyがPodcastを始めたのも割と最近ですよね。やっぱりみんなが可能性を感じ始めているのでしょう。
Mami:先ほど話した『Joe Rogan Experience』も、Spotifyが何十億ドルという、メジャーリーグ選手級のとんでもない金額で買収し独占配信しているんですよ。欧米だとPodcastは今、そういう規模で盛り上がっています。日本はまだそこまでじゃないけどラジオ文化が根づいていますし、そもそも音声メディアが好きな人は多いんだろうなと思います。
バラカン:ラジオもPodcast化してきていると思いますよ。僕が今、Tokyo FMでやっている『The Lifestyle MUSEUM』という収録番組は、放送自体は28分なのですが、ゲストの話が盛り上がって40分とかになってしまうこともある。その場合、番組ではそれを編集して放送し、直後にほぼ未編集版をPodcastに上げています。
─アウトラインを知りたければ編集された番組を聴けばいいし、ゲストの話をもっと深く知りたければPodcastにアクセスすればいい。リスナーが複数の選択肢を持てるのは嬉しいですね。バラカンさんは、40年間ラジオをやり続けている中で何か変化はありましたか?
バラカン:僕自身は40年前と何も変わっていないですね。根っからの音楽好きだったからこそ続いているのだと思います。古今東西、いろんな音楽を聴いてみたいという好奇心は常に持っているし、聴いている中で「うわ、これは面白い!」と思ったら自分の番組で紹介したくなる。本当に単純なんですよ(笑)。
Mami:「この人、これを好きと言っているけど本当かな」「誰かに言わされてるんじゃない?」みたいなことを、リスナーが一切心配しなくてもいい番組ってなかなかないんですよね。最近は一般の人までSNSを使ってPR投稿をしている。そういうものをいちいち勘ぐらなければならない現状で、安心して聴ける番組であることはとても貴重です。
不完全な人間がやっていることを不完全なままさらけ出しているから、親しみを感じてもらえるのかも。
─ここ最近、特にコロナ以降「声のメディア」に再び注目が集まっているのは、そこに安心感や癒しのようなものを求めている人が多いからかもしれないですよね。おふたりのリラックスした話し方や声にもその効果があるように思います。
バラカン:最初に話したように、僕自身は好きな音楽をかけるためにラジオ番組をやっている人間なのですが、自分の声にも喋りにも未だ自信がないんですよね。ラジオを始めた当初はディレクターから毎週のように「君の声は暗い。もっと明るく話さなきゃ」と言われていたので「こりゃ、そのうち降ろされるだろうな」と思っていました(笑)。それでもなんだかんだ続いているので、「まあ、こういう声もありなのかな?」と最近は思えるようになってきて。
Mami:私は子育てをしていて、あまり自分の時間がない中でどんなメディアが聴きたいかというと、ただただ人が楽しそうに話している番組なんですよね。そういう番組を聴いていると知り合いになったような気持ちになるし、気づけばその人たちのことを応援してしまうというか、大好きになっちゃう感じがあって。それってラジオやPodcastならではなのかなと思います。
─「声」だけだとより「その人らしさ」があらわになるというか。リスナーもそれを本能的に察知するのかもしれないですね。
バラカン:ラジオ、つまり「声」だけだと、つい正直になってしまうところがあるんですよね。テレビに出演している時は、不特定多数の人に向けて話している意識が常にあるのですが、ラジオはそれがない。むしろマイクに向かって喋っていると、リスナー一人ひとりに話しかけているような気持ち、個人的で親密な感じになっていくというか。
Mami:人となりが透けちゃいますよね。それでも特に炎上することなくやってこられたのは、完璧に作り込んだ番組じゃないからなのかもしれない。もともと不完全な人間がやっていることを、不完全なままさらけ出しているから、そこに親しみを感じたり共感を覚えたりしてもらえるのかなと。
たとえば、私はうつ病や不安障害を持っていて、たまにそういう話もするのですが、同じような悩みを持つ方から共感のメッセージをいただいたりすることも多いんです。
バラカン:Podcastはそういうリアルな問題についても情報発信できる場ですし、そして、Mamiさんがそれを躊躇せず発信してくれるということは、すごくありがたいと思います。
─きっとPodcastの求められ方も単に情報収集だけでなく、共感したい、安心したいということへ変化しているのかもしれないですね。
Mami:確かに『バイリンガルニュース』にも、「ふたりが自分の知り合いのように思えてくる」「ふたりの会話を、横に座ってこっそり聞いているような気持ちになる」というメッセージを送ってくださる方がたくさんいます。
私は『Rebuild.fm』が好きなんですけど、あの番組もMCの宮川達彦さんがゲストとテック系の話をただひたすら喋るだけという内容で。ずっと聴いていると全員と知り合いみたいな気持ちになってくるんですよね(笑)。新しい情報や刺激を求める場所というよりは、いつ行っても同じテンションでお喋りをしている「安心できる場所」というか。『バイリンガルニュース』も、聴いている人にとってそんな存在になっていたらいいなと思います。
Text by 黒田隆憲 Photo by 萩原楽太郎 Edit by 飯嶋藍子