「富士フイルムが好きすぎるtsubaki」というユーザーネームでSNSで発信するほど、富士フイルムを愛してやまない写真家tsubaki。

フイルムやカメラ機材など、写真家視点での愛かと思いきや、社風や働く人も含め、富士フイルムの-全て-がたまらなく好きだという。知れば知るほど富士フイルムの沼にハマっていく。彼女がそこまで魅了される、そのワケとは?

 

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ちょっと不器用だけれど、ここぞって時は頼り甲斐のあって優しい、私が大好きな人

 

これまで考えたことなかったが、もしも富士フイルムを擬人化するならそういう会社だ。

 

漫画やアニメ、小説なんかだと一生懸命目標を目指して、その目標が達成されたらハッピーエンドで終わることができるけれども、富士フイルムは現在進行で成長している企業なのでその歩みは止められない。
 

会社設立以来『フィルムシェア世界ナンバーワン』を目指して、見事達成し、それまで培ってきたフィルム関連技術とそれに付随するサービスを拡大している現状を、私は“魔王を倒した勇者のスローライフ”的な感覚で見ているので、私は富士フイルムが大好きだけど、極端な話、富士フイルムがフィルムやカメラの製造を辞めてしまっても富士フイルムが好きなことには変わりない。

 

写真フィルムに関しては『チェキ』が完成系だ。

 

 

SDGsが謳われるようになった昨今、私自身そこまで精通している訳ではないので正しい見解を自信を持って書けないのだけれども、写真フィルムの生産における原材料の輸出入難易度の向上とか写真フィルムの現像で出てしまう廃液問題などが絡んでくる時代になっている。
 

近年では“期限切れフィルム”で撮った写真がエモいなどの風潮が一部で流行っているようだが、元来写真用フィルムには使用期限があり、期限が切れたらメーカーが保証できる仕上がりの提供ができないという側面がある。(らしい。富士フイルムを好きになってから得た上っ面の知識でしかないのだけれど)
 

本来“写真フィルム”は“生鮮食品”と同じで、期限が切れる前に消費してもらえる分しか生産できない鮮度重視のプロダクトなのだ。

 

デジタルカメラが台頭してきてフィルムでの撮影需要が低下する流れがあって、写真フィルムを生産し続ける工程においてコーティング剤を均一かつ統一されたクオリティで定着し続けるためには“秘伝のタレ”方式じゃないけど機械を止める訳にはいかないらしい。機械を止めて改めてコーティング剤塗布作業するぞー!ってなったらそれまで生産していたものと違うクオリティのものになってしまうとかなんだとか。

 

そんな背景を知った上で、元来フィルム開発の中で各メーカーが求めてきたのは「緻密で精度の高い情報の記録」なんだとしたら、もはやデジタルの進化で補えるようになってきているのでいつか富士フイルムが写真フィルムの生産を終了するときがくるのを私は覚悟している。
 

もちろんフィルムがあったから“富士フイルム”という会社ができた訳だけど、私にとって富士フイルムはただのフィルムメーカーではなく、90年の歴史の中でフィルム開発をきっかけにあらゆる分野で専門家たちを支えるプロダクトを生みだしたところとか、写真を楽しむ文化やクリエイティブに対して真面目に向かい合ってくれる人たちが働いているところが大好きなのだ。

 

「足が速いから好き!」ってなった人が年齢を経て記録出せなくなったから、嫌いになるとか本当の好きではないでしょう。
 

そういうことをひっくるめて“富士フイルム”を深掘りしていくと「なるほど~!」と思うこともあれば「どうしてそうなった笑笑」みたいな訳のわからなさがたまらなく愛おしくなる。

 

富士フイルムのプロダクトに触れるとき、「我々は!!フィルムメーカーだから!!!」という頑固な姿勢を想起して「ちゃんとしてる風なのにずっとボケてるな~」という印象に人間味を感じるので私は富士フイルムが大好きなのだけれども、その愛嬌の片鱗を知ってもらいたい。

 

馴染みのある35mmフィルムをはじめ8mm ビデオカメラやインスタントカメラなど

 

Fujica ST705とNEOPAN100 ACROSSで撮影

 

富士フイルムはフィルムを売るためならなんでもやってきた。
 

フィルムと言えばーーーー映画フィルムやレントゲンで使われるX-Rayフィルムもフィルムだ。1953年にテレビ放送が始まった当時、ニュースやドキュメンタリーの作成には映画用フィルムが使われていたそうで、こうしたフィルム需要に合わせてレンズの開発にも注力してきた。
 

つまり、内視鏡や映画・報道用レンズにも一日の長がある。

 

その歴史を知っている私は捻挫して接骨院でレントゲンを撮ってもらうことになったときも「ここの接骨院のレントゲン富士フイルム製だー!!!フィルムもらって帰ろう!!』とワクワクが止まらなかった。
 

万が一内視鏡検査を受けるようなことがあれば事前にどのメーカーの機械を採用しているのか事前確認しておかねば、と常々思っている。

 

なので富士フイルムがトータルヘルスケアカンパニーに変貌していったことは何ら不思議もないことなのだけれども、“カメラに興味がないから”と特に気にしていない人でも日常の思いがけないところで富士フイルムと邂逅している。
 

報道用レンズについては近年記憶に新しいのは映画『トップガン:マーヴェリック』の空撮シーン。全てのシーンではないが、『トップガン:マーヴェリック』の撮影には一部富士フイルム制の“FUJINONレンズ”が使用されている。

映画『トップガン:マーヴェリック』の空撮シーン

ドラマやバラエティの撮影にもFUJINONレンズは多用されていて、プロ御用達レンズをつくっているのだけれども業界外の人にはあまり知られていない。

 

さらにそのプロ御用達向けレンズの一般コンシューマ向けとして“FUJINON MKXシリーズ”という、高性能シネマレンズ(富士フイルム製デジタルカメラXシリーズに対応)があるのだけれど、YouTuberさんにも「富士フイルムはカメラは良いけど動画向けのレンズがイマイチ…」なんて言われてしまうほど知られていない。

 

ぜひこの機会にYouTuberさんたちに知ってもらいたい。富士フイルムは動画こそプロだと。


お値段は高いよ…?でも、その道のプロが使うクオリティに近いものの安価版とか作っているんだよ…。

その道のプロが選ぶに値する技術力があるにも関わらず、ひっそりと「知っている人は知ってる」くらいの商品開発しちゃってる富士フイルムの奥ゆかしさたるや。
 

企業としてプロモーション費用をかけるにはあまりにもニッチすぎる商品開発ができる会社、尊くないですか?

もちろん、プロ御用達は写真の世界も同様で一般の人が慣れ親しんでいる写真フィルムとは別の、高速道路から見る巨大看板とかに使われていたであろうフィルムとその撮影のための機材開発も行っていたので写真のプロの世界でも富士フイルムは一定の信頼がある。


私自身、富士フイルムのデジタルカメラを使ってはいるがこだわりが強いカメラマン・写真家の間では自身が使っているメーカーへのこだわり論争は切っても切れない。
 

だけど、富士フイルムに関しては「カメラは別メーカーでもフィルムは富士フイルム使ってませんでした?」と聞くと概ね富士フイルムにお世話になっていたという方が多いので、フィルムメーカーが故にカメラのメーカー論争の枠外にいる富士フイルムの特異性にも私は注目している。

 

人類皆兄弟

富士フイルムのことを好きになると他のカメラメーカーのことを好きになるという魔法がそこにはあると私は思っている。好きな人が関わってることって興味持っちゃうよね!

 

そんな技術力のある富士フイルムではあるが、やはり設立当初からの悲願、「フィルムシェア世界ナンバーワン」を目指して行く中で一般向けのフィルム消費を促す施策も怠らない。怠らないんだが、フジカラーのノベルティを漁ると行くとこまで行ってるな…と思うようなすっとんきょうなものが多い。

 

例えば桶。

 

 

しかも石鹸ケースとおそろい。ノベルティだったのかどうかは謎すぎるが、銭湯通いの層を狙ってのことだったんだろう。

 

他にもキッチンペーパー。

 

 

カメラで写真を撮りたいお父さんたちがお母さんたちに小言を言われないように主婦向けのノベルティを作ったんだろうかと想像してみたり。

 

「子供が現像した写真取りに行くのについていきたがるからさ~」という言い訳を作るためであろう子供向け玩具。

 

 

時代がデジタルに移行していなかったらフジカラー印のハンドスピナーもあったかもしれない。(ブロックもチエの輪もボールクラッカーも袋から出したらフジカラーでもらったかどうかわからないレベルだけれども)


掘れば掘るほど訳がわからなくなる富士フイルムは私を魅了してやまない。そしてそんな魅力的な富士フイルムは私に「私が写真を撮るのが好きだった」ことを思い出させてくれた。

 

ちょうど時代的に私が学生時代は写ルンですがいつでもどこでも買える時代で(駅の売店なんかにも必ずあった)、写真を撮ることがとにかく楽しくて父のカメラを譲ってもらったり、トイカメラにハマったり、もちろん常にカバンの中には写ルンですが入っている、そんな学生だった。

 

当時、APSフィルムの登場によって誕生した「スーパースリム」をはじめスケルトンや連写、パノラマなど様々な写ルンですがあった。

 

高校に入って写真部に入部したものの、同期はおらず先輩が卒業したら一人部員で廃部の危機みたいな感じだったので一般的な“写真部活動”はやったことがなく、誰に見せる訳でもない写真をただひっそり撮っているだけの日々を過ごした。
 

当時はフィルムはもちろん現像やプリントの価格が安かったこともありちょくちょくDPショップ(フィルムを現像してくれるお店)に通っていて、私が気づいていなかっただけで富士フイルムはいつも側にいた。
 

そこから携帯電話にカメラ機能が搭載されたりスマホが登場したことと、当時のデジタルカメラは技術的に“編集作業”が必要なものに変化していき、レタッチソフトが高価だったこともありなんとなく「カメラで写真を撮る」ということから遠ざかっていた。

 

そこからしばらくして仕事で写真撮影の必要性が出てきて私は久々にカメラで写真を撮ることになり、あらためてきちんと写真を撮ることについて考えた結果、富士フイルムと再会した。
 

どのメーカーを選ぼうか…と考えて比較したときに「カメラは気軽に持ち歩けるべき」というコンセプトで開発されていること。そしてこれまで開発してきたフィルムの色味再現をデジタル化したフィルムシミュレーションという機能、写真は編集しない撮りっきりで気軽に楽しむという私が好きだった写真へのこだわりがそこには詰まっていた。

 

 

それまでも「写真を撮るのは好き!」という話を“趣味写真”という人たちとしたことはあるが、機材や機能の話をする人が多くて“写真”の話をできる人になかなか会えなかった。
 

それがどうだろう。富士フイルムのXシリーズを使うようになってから私がしたかった「写真の話ができる人」が矢継ぎ早に目の前に現れた。
 

肯定されるとやはり人は楽しくなってしまうもので、私は富士フイルムの教えを実行するべく毎日カメラを持ち歩き、毎日写真を撮った。
 

富士フイルムのカメラを使いこなしたくていろいろ調べていくうちにカタログの「当社比」を眺めながら「前のカメラのスペックがわからないとイマイチ良さがわからないな…」と思い至っていっそ最初から富士フイルムのカメラの歴史を辿れば解決できるのでは!と、富士フイルム製の中古カメラを買い漁り、気付けば富士フイルムコレクターになっていた。

 

そしてある日「そんなに富士フイルムのカメラ持っているけれど、写真は撮っているの?」という至極真っ当な質問をされたときに、初めてそれまで撮りためていた写真を他人に披露することでそれまで自分の中では当たり前だと思っていたことが世間一般とは違うということに気付かされた。

 

富士フイルムのX-T30というデジカメを買って3年経つかたたないかの頃、私のカメラロールには5000枚以上の写真が残っていて、その全てが連写機能を使わないただの日常のスナップだったんだけれども、「趣味写真って言ってる人でもそんなに写真撮ってないからすでに立派な写真家だ」と言われて私は写真家になった。

 


2019年、X-T30を買った当初の写真

 

富士フイルムをこれほどまでに好きになるくらいあれこれ思考を巡らせてしまう私は「写真家ってなんだ?」とかも同じくらい考えて、最近きちんと明確な答えを出せた。
 

お仕事で撮影することもあるけれど、プロカメラマンかと言われれば現場によっては技術もノウハウも様々なので、ときには足りていないと思うこともある。だけれども写真家は生き方だ。それをきちんと自覚したことでそれまでよりももっと写真を撮るときに気持ちが入りやすくなったし、自分の中で大切なことに気付けるようになった。

 

もしかしたらこの先、私が写真を撮り続ける中で富士フイルムのカメラではないメーカーのものを使う日が来るかもしれない。
 

だけれども私がどれくらい写真を撮ることが好きか、そして私の撮る写真がどれくらい他の人では撮れない写真なのか、そういうことを考えるきっかけをくれたのは富士フイルムで働く人や富士フイルムのカメラが好きな人たちだ。
 

だから私は富士フイルムに勝手に救われて、今日も富士フイルムのカメラでシャッターを切る。


これから先は「どこにでもある、いつかなくなる風景」をテーマに日時の何気ないひとコマから日本の魅力を海外に発信したり、こうしたマインドで写真撮影をしている私に写真を撮ってほしい!と思ってもらえるような写真家になれるように日々工夫と試行錯誤を重ねて行こうと思っている。