7年間で1000ヶ所以上の電気風呂の強さを計測してきた電気風呂鑑定士・けんちん。銭湯から電気風呂本体を譲り受け、自宅に飾ってしまうほどの電気風呂愛。様々な電気風呂に入り続けてきたからこそわかる、電気風呂の魅力、奥深き世界へあなたを誘います。後編では、電気風呂の入り方入門、電浴の先にある景色をお伝えします。

 

電気風呂は入り方がすべて。手順をマスターすべし!

前編で電気風呂に入浴するためのコツ「電浴手順」を少しお伝えしたが、今回は更に詳しく伝授させてもらいたい。詳しく分けると、2つの知識を知れば、電浴することが容易になると考えている。

まずは、「電気の強さ」だ。電気風呂を勧めると、「電気風呂って感電してしまいそうだから苦手です」という返答がある。そんな人には「電気の強さ」の知識を知っていると、間違いなく怖さが和らぐ。電気風呂本体は家庭用の100Vコンセントから電気を給電している。本体は電気を身体に浴びることができるように弱めることが役割である。簡単に言えば、乾電池程度で出すことができる微弱な電気に変換している。さらに本体自体に安全装置を備えているので、電気風呂から出ている電流は安全であると言い切ることができる。

次に「仕組み」。電気風呂装置は本体・配線・電極板の3つで構成されている。本体で電気を作り出し、配線を使って送り、電極板から電流を流している。電極板から出ている電流は浴槽全体に張り巡らされているのではなく、電極板の付近にしか流れない。つまり、電極板に近寄らなければ、電流を感じることはない。よく映画やドラマの場面で水を通して感電するシーンが出てくることがある。電気風呂の電流に対して、同じように水全体に電気が流れているイメージをされている方が多いように思える。これは間違いである。電気風呂は電極板の周りにしか電気は出力されていない。身体に当てるために設計された電気なのである。逆に少しずつ電極板に近づけば、自分の当てたい強さの電流をコントロールすることができる。初めて電気風呂に接する際は電極板に近づきすぎず、少しずつ身体を近づけると、自然と電気に慣れていくことができるのである。
「電気は友達」と思って接してみると、少しずつ親しみが沸いていくと思う。

 

シンプルな「電気風呂」入浴注意看板。アクリルで作られていて、国で定められている注意書きをカバーしたシンプルイズベストの掲示。

 

電気風呂の地域差を考える

電気風呂の電流には種類があると、前編でお伝えした。地域や設置した業者によって、設置環境に特徴があり、電極板の設置環境や電流が異なっている。是非お近くの銭湯で確認いただきたい。

(1) 関東地方
浅い浴槽の両側に電極板が設置されていることが多く、電流は強すぎない。腰に当てやすく、じんわり電浴しやすい構造が多い。東京は銭湯における電気風呂の設置率は全体の3割程度と、設置されていない銭湯も多い。しかし、ここ5年で改装の際に新設されることが多くなってきている印象があり、新設されるのはマッサージ式電気風呂がほとんどである。

(2)中部地方
一つの銭湯における電極板設置数で言えば、おそらく全国No.1。3枚以上ついている銭湯が多く、浴槽の底についているのは中部地方独自の文化である。電流は強いところが多く、ふくらはぎや首など、重点的に当てたい場所に当てやすい。世界最小の小さな電極板を設置している銭湯もある。愛知で言えば、銭湯における電気風呂の設置率は約9割と、かなり高い確率で出会うことができる。

(3)近畿地方
深い浴槽の両側に電極板が設置されていることが多く、電流は強いところが多い。肩に当てやすいだけでなく、腰掛けの段があるところも多く腰にも当てやすい。振動板で動くアナログ式電気風呂が稼働している銭湯があり、独特の電流を楽しむことができる。特に大阪は、銭湯における電気風呂の設置率が約9割と、名古屋と双璧をなす電気風呂大国である。

(4)その他の地方
西日本は深い浴槽、東日本は浅い浴槽に設置されていることが多い印象がある。個別の街で言えば、札幌、青森、八戸、鹿児島などに多く設置されている。中でも青森や八戸、鹿児島は温泉銭湯に設置されているため、温泉のメリットと電浴のメリットを同時に享受できるので湯治にもってこいの街である。

 

木枠で作られた電極板。中部地方や九州地方で現存。このようなレトロ仕様の電気風呂に出会えると嬉しい気持ちになる。

 

電気風呂から考える趣味の考え方

私は現在、電気風呂愛好家の他に、団地愛好家や東横イン愛好家としても、記録を重ねている。これまで、北海道から沖縄までいろいろな場所に行き、電浴したり、団地を観察してきた。「不思議な趣味ですね」と言われることも多いが、私は同じような考え方を持っている人は意外とたくさんいると思っている。
ではなぜ、団地、電気風呂、東横インなのかと考えた結果、私は世の中の地図にマッピングされているもので、インターネットに情報の少ないものを調べることが好きなんだなと考え着いた。頭の中に存在している地図にどんどん新しい情報が増えていくことがとても楽しいのだ。

 

水野通信工業の電気風呂本体。機種名は「揉兵衛(じゅうべい)」。カラフルな電飾ボタンが美しく、暗闇でも稼働状態を確認することができる。

 

電気風呂という文化

電気風呂を日本の文化であるということをもっともっと知らせていきたいという想いから、2019年に有志と「銭湯電気保養協会」を立ち上げた。電気風呂の強さや場所を記した電気風呂マップを公開し、1300を超えるデータを蓄積するに至った。また、2018年に『Electric Bath Handbook 電気風呂御案内200』(八画出版部)、2019年に『銭湯文化的大解剖』(神戸新聞総合出版センター)、2022年に『電浴Go!!』(おしどり浴場組合)という電気風呂に関する文献を出版することができた。
そして近年、東京で新たに電気風呂が設置されたり、浴場組合から電浴に関する勉強会の依頼がきたり、電気風呂は銭湯の魅力的な設備として少しずつ認識が変わってきていることを感じている。

私の次の目標は、電気風呂の電流の違いを認識してもらえるようにすること。いろいろな人から、「あそこの銭湯の坂田の揺らぎは最高やね!」という会話が当たり前になることを夢見て、これからも電浴探求を継続していこうと思う。