あなたのゾンビはどこから?ゲーム『バイオハザード』?それとも、マンガ『アイアムアヒーロー』?子どもがプレイしている『マインクラフト』?もしかすると、映画『ゾンビ』という正統派もいるかもしれない。この連載では、3回にわたって様々なメディア・コンテンツに登場するゾンビについて、語っていこうと思う。

ゾンビゲームといえばやはり

 ところで、筆者は何者なのか。私は近畿大学に所属する大学教員である。ゾンビやアニメ聖地巡礼、VTuberなどの「現代メディア文化」を専門に研究している。過去に、書籍『ゾンビ学』(人文書院)、『大学で学ぶゾンビ学』(扶桑社)、『ゾンビ英単語』(増進堂)などを出版してきた。研究するだけでは飽き足らず「ゾンビになってみよう!」ということで、VTuber「ゾンビ先生」としてYouTubeで活動しているので、チャンネル登録、高評価よろしくおねがいします。

 不自然に広告が入ったところで、第1回は「ゲームのゾンビ」について。ゲームのゾンビと言えば、冒頭に挙げた『バイオハザード』である。本作は、1996年に大阪のゲーム会社カプコンによって生み出されたタイトルで、ゲームハードは初代のPlaystationだった。洋館に閉じ込められた主人公たちがリアルタイムで襲い掛かってくるゾンビと戦ったりかわしたりしながら、様々な謎を解いて脱出しようとする。ふりかえるとゾンビだった登場シーンや、ロード時間を使ったドアがゆっくり開く描写、階段を一歩一歩踏みしめる描写にドキドキさせられた。

 

 

 ちなみに、1996年と言えば、その後世界的に有名になるゲーム作品がゲームボーイ用ソフトとして発売された年でもある。そう、『ポケットモンスター 赤・緑』(任天堂)だ。この二作が同じ年に発売されているというのは、なんだか不思議な気がするが、実は、『バイオハザード』にもゲームボーイ用ソフトがあるのはご存じだろうか。その名も『BIOHAZARD GAIDEN』(2002年)。本作はイギリスのゲームメーカーが制作した、まさに外伝。一方で、同じく2002年には、『バイオハザード』が実写映画化され、これが大ヒットし、そのおかげもあって90年代に息も絶え絶えであったゾンビ映画は、2000年代にゾンビのごとく甦った。ゲームや映画の『バイオハザード』が人々のゾンビ認知に果たした役割はとてつもなく大きい。

 

 

 ゾンビ映画の窮地を救ったゲーム『バイオハザード』だが、実はゾンビとゲームの関わりはこれだけにとどまらない。芳醇なゾンビとゲームの世界を紹介していこう。さて、筆者の生まれ年は1983年である。「突然プライベート情報をさらされてもな」と思われると思うが、実はこの年は、任天堂から家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売された記念すべき年である(ちなみに東京ディズニーランドも同い年)。

 

 

 ファミコンは、現在までも人気を誇る『スーパーマリオブラザーズ』『ゼルダの伝説』『ファイナルファンタジー』などを生んだ伝説的ゲームハード。このファミコンの大ヒットシリーズ『ドラゴンクエスト』(1986年)にもゾンビが登場する。その名も「くさったしたい」。色違いで「リビングデッド」「グール」などもいる。

 本作はターン制のバトルであったため、プレイヤーもゾンビも交互に攻撃を決定することになる。プレイヤーは「たたかう」「じゅもん」「どうぐ」「にげる」といった選択肢から行動を選択する。そうした制限された描写の中でも、ゾンビの特徴はうまく描かれている。たとえば、くさったしたいは、コマンド「なかまをよぶ」をやたらと使ってくる。この「なかまをよぶ」によって、くさったしたいはどんどん数が増えていく。これはまさに、ゾンビが感染、増殖していく様子をRPGのゲームシステムの中で表現したものと言えるだろう。

 さらに、ファミコンRPGといえば『スウィートホーム』も忘れてはならない名作ゾンビゲーだ。本作は、1989年1月に公開された黒沢清監督によるホラー映画で、これがカプコンによってゲーム化され同年12月に発売。本作はドラクエのようなRPGでありつつ、様々な特徴を持っている。アクション要素があったり、キャラクター一人当たりが所持できるアイテムの数が少なかったり、一度死んだキャラクターは復活できなかったり…。中でも、ドアを開ける際にドアがぎーっと開く演出や、洋館の中を敵と戦いながら謎を解いて進んでいく展開などは、同社の『バイオハザード』にも見られる特徴で、本作に萌芽が見られる。こうして、歴史的な縦のつながりを追うのも楽しい。

 家庭用ゲーム機はその後もどんどん進化を遂げていく。その中で、『バイオハザード』的なアクションゾンビゲームも数多く登場するが、それらとは一線画する不思議なゲームもリリースされ、ユーザーを楽しませた。ここでは、そんな一風変わったゾンビゲーの中で、筆者が好きな2作品を紹介したい。

 1作目はPlaystation2用ソフト『THE ゾンビ V.S. 救急車』(2006、D3 PUBLISHER)である。SIMPLE 2000シリーズのVol.95(そんなに出ていたのか…)で、なんとも不思議なマッチメイクのタイトル。本作の主人公はゾンビが蔓延した都市で生き残った医学生で、街に取り残された生存者たちを改造救急車でゾンビを倒しながら救出に向かう。生存者を見つけたら救急車に乗せ、病院に搬送する。救急車は、ポイントに応じて改造を施すことができ、どんどん攻撃力が上がって『マッドマックス』に出て来そうな凶悪な見た目になっていく…。

 このゲームの面白い設定は、救急車に乗せた生存者は時間がたつとゾンビ化し、救急車の中から攻撃を加えて来るというものだ。ゾンビらしさをうまく活用した絶妙なゲームシステムであると言えよう。

 2作目はPlaystation3用ソフト『The Last Guy』である。「あ!キノコのゾンビの!!」「山寺宏一さんの!!」それは『The Last of Us』。もちろんこちらも言わずと知れた名作だが、こちらの『The Last Guy』が未プレイの方は是非。ゲームディレクションはあのピエール瀧だ。衛星写真のようなマップを上から見下ろす視点でゲームを行う。プレイヤーは「ラスト・ガイ」を操作し、ゾンビにおびえて屋内に避難している住民を助け出しに行く。建物から出てきた住民は、「ラスト・ガイ」の後ろにどんどん行列を作っていく。この住民をエスケープゾーンまで導けばポイントが入る。たとえば1000人助ければステージクリア、と言った具合に各ステージにはクリアすべき目標が設定されており、行列はどんどん長くなっていく。

 本作のゾンビは、こちらの攻撃を全く受け付けない無敵の存在で、とにかく逃げ回るしかない。「ラスト・ガイ」がゾンビと接触した時点でゲームオーバー。また、ゾンビが行列部分と接触したら、そこから後ろの住民は、また屋内に散り散りバラバラに逃げ帰ってしまう。つまり、行列はできるだけ長くすれば得点は増すが、そうすると危険もまた増していく。こういったゲームシステムである。

 やはり、ゾンビが蔓延する世界においては、人間というものは救うべき存在である一方で、危険を呼び込む存在にもなってしまうのなのか…。ゾンビの動きのパターンを読みながら、数千人の命を預かるラストガイとなって脱出を目指すのはとてもスリリングな体験である。

 ゲームは家庭用ゲームのみならず。ゲームセンターも忘れてはいけない。アーケードゲームのゾンビと言えば、まずは『魔界村』(1985年)だ。『スーパーマリオブラザーズ』のような、横スクロール型のアクションゲームである。サタンに連れ去られた姫を救うべくナイトアーサーが冒険するが、最初のステージで無限に湧いてくるのがゾンビゾンビゾンビ…。一体一体は強くないが、とにかく数が多く、油断しているとやられてしまう。こちらもゾンビの性質をうまくゲームに落とし込んでいる。本作もカプコン制作で、ゾンビはカプコンに足を向けて眠れないようだ。

 

ハウス・オブ・ザ・デッドシリーズに何度も救われ

 

 筆者がゲームセンターで、コインをつぎ込んだゾンビゲームがある。『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』シリーズだ。こちらは、SEGA作の銃型のコントローラーで画面を撃つことで迫りくるゾンビを倒すゲーム。「頭を狙え!」ゾンビ映画を観て夢想した世界に入りこんだような体験が可能になったわけだ。アニメ聖地巡礼に関する博士論文を執筆していた時、極限まで達したストレスの息抜きに近くのゲームセンターで『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド3』をプレイしたのが懐かしい。動きが俊敏すぎる語義矛盾の塊のような巨大ナマケモノを何度倒したことか。

 『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』はヒットし、続編がいくつも出ているが、その中に不思議なゲームが存在する。その名も『ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド』(2000年)。本作はいわゆるタイピングゲームである。迫りくるゾンビが「お詫びと訂正」「整形美人」などの、なんとも間の抜けた言葉を伴って現れ、それをキーボード型コントローラーで打鍵して倒す。操作と結果の因果関係がまったく分からないプレイスタイルながら、これが実にドキドキして楽しい。何を隠そう、今この原稿を打っている私のタイピングスキルは、本作のおかげで成ったと言っても過言ではないのである。

 「どれだけハウス・オブ・ザ・デッドシリーズに人生を助けられているのか」という話なのだが、この『タイピング・オブ・ザ・デッド』、冷静に考えてみると面白い。それというのも、パソコンやインターネットの普及と関連しているからである。今やほとんどの人がスマホを所持し、インターネット接続端末として用いているが、1997年時点ではインターネット利用率はたったの9.2%。1999年にNTTdocomoのサービスi-modeによって携帯電話からネットに接続できるようになったことで利用率は飛躍的に増大したが、それでも2000年時点では37.1%であった。パソコンの普及率も2000年はまだ4割程度である。こうした状況だからこそ、『ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド』はゲームとして斬新で、プレイの難しさとしても程よい難易度であったのだろうし、タイミングトレーニングゲームの需要があった。このように考えると、メディアの発達とゾンビゲームが深い関係にあることがわかり、なんだかためになる記事な気がしてくるから不思議だ。

 

ビデオゲームだけではなく

 

 最後に、『バイオハザード』にボードゲームがあるという話をしよう。写真にもある『RESIDENTS EVIL2 THE BOARD GAME』がそのうちの一つである。「リアルタイムで動けるようになったゾンビを、なぜまたサイコロとコマでプレイせにゃならんのだ」と思われるかもしれないが、これが実に面白い。所持できるアイテムの数が限られていたり、攻撃をミスすると良くないことが起こったり、やはりドアが重要な役割を担ったりと、『バイオハザード』のプレイ感が、実にうまくボードゲームに落とし込まれている。

 ボードゲームの世界でもゾンビは大活躍中だ。筆者のイチオシは『ヒット・ザ・ロード(Hit Z Road)』。ゾンビが蔓延するアメリカでシカゴからロサンゼルスまで自動車で移動する内容のゲームで、ゾンビ映画あるあるを詰め込んだ作品である。ゾンビ映画に詳しい人ならくすりと笑え、知らなくても全く問題なく遊べる楽しいゲームである。

 本作が面白いのは、このボードゲームそのものが、「ゾンビが蔓延した世界で作られたもの」というメタ設定があること。よく見ると、カードはどれも汚れたトランプやクレジットカードを流用したようなデザインになっていて、ポイントを示すトークンはビンの王冠のデザインだ。ふとパッケージを見直してみると、妙にダメージを受けたデザインの箱に、上から落書きしたようになっているではないか!!!

 ゲームに登場するゾンビの特徴は、相互作用が可能である点だ。小説、マンガ、映像作品は、一方的に読んだり視聴したりするものだが、ゲームの場合はゾンビを前に、プレイヤーは何らかの対処を迫られる。つまり、ゲームではゾンビと遊べるのだ。今回の記事で紹介したように、ゾンビはゲームの中で実に多様な役割を演じて我々を楽しませてくれる。とはいえ、紹介したのはゾンビゲームのごくごく一部だ。皆さんもこの記事をきっかけに、身の回りのゾンビを探してみてほしい。意外なゲームにも、ゾンビがいるかもしれない。