石拾いの流れ
まずはじめに石拾いの旅の流れを説明する。石拾い前から拾った後まで、楽しめるポイントがざっと九つほどある。
1、これから石拾いが待ち受けているであろう旅
わくわくが止まらない。旅行するだけでも楽しいのについでに石が拾えるなんて。
2、石拾いのスポット探し
旅行前に調べることもあれば、現地で調べることもある。googleMAPの海岸を凝視するか、しらみつぶしに海岸へ降りてみるか。
3、石拾い
この瞬間が最高の喜び。
4、少し休憩し海を眺める
波の音に身も心も癒される。拾った石をぼーっと眺めたりして、これぞチル。
5、また拾う
休憩中に集中力が研ぎ澄まされる。肩の力を抜いて雑念がなくなるほどいい石が拾える。そんな気がする。
6、石を並べて選定
楽しい。楽しすぎる。石仲間と見せあったりして、その違いを楽しむ。一人で孤独に選定するのもまたしみじみとしていい。
7、帰り道の石トーク
あの海岸の石に似ていたな、とか、あの石はここでしか拾えない、次はここの海岸へ行きたいなど話は尽きない。
8、家で石を洗って並べる
厳選された石を洗い乾かし並べる。海でみた雰囲気と全く違うことに気づく。写真を撮ったり、眺めて楽しむ。
9、誰かに披露する
石仲間に自慢。石を見せ合い石バトルが始まることもある。
またすぐに石拾いに行きたくなる。
並べて眺める石の図
海の石拾いに必要なもの
そんなものはない。軽く石拾いをするなら基本は何もいらない。身一つで海へ行きただ拾えばいいだけだ。だが、ちょっとしたアクシデントに対応できるように、またはがっつり石を拾いたい人は下記を準備するといい。ちなみに私はいつも、石を入れるファスナーつきのプラスチックバッグとそれを入れるボディバッグだけ。あまり荷物が多いと石拾いの邪魔になり集中できなくなる可能性がある。
初級
1軍手(手を汚さないため、石についた砂を落とすため)
2長靴か防水の靴(波打ち際で濡れないようにするため)
3ファスナーつきのプラスチックバッグなど(石を入れるため)
4水(水分補給、石や手の汚れを落とすため)
5小さいバッグ(石が入ったプラスチックバッグ・水等を入れるため)
6防寒対策・熱中症対策(冬の海は風が強いので防寒必須、夏は直射日光が強いのでこまめに水分補給と、帽子は必須)
上級
7ルーペ(石を調べるため)
8石拾いの謎道具(長い棒の先におたま?をつけた石拾い道具、これで波打ち際の石を拾う。たまに見かけるが私は使ったことがない。)
さあ、石拾いへ。
いい石とは何か
いい石に基準は全くないようであるような、人それぞれ違うような共通の部分もあるような。とても曖昧でそれが故に興味深い。あまり深く考えず、好きなように、思うがままに拾うのがいい。直感を信じて、これだ!と思うものを拾う。それがベストなのだが、恐らくその気持ちが沸き起こらないので、誰も石を拾わない、石の良さがわからないのだろう。
しかし、この記事に偶然たどり着き、今この記事を読んでしまっているあなた。石…だと?まだわからない…。わからないが…少し興味がある…?…あ…る!
という人のために、個人的に決めつけた、いい石の基準を教えよう。
それは、1形、2色、3展開、4触り心地、5大きさ、6密度だ。
1の形は大きく分けて二つあり、一つは丸や四角、不思議な形など抽象の形がいいもの。欠けているところがないものがいい。もう一つは、山や木の実や船など、何かに見立てた石。これは前回の記事の水石に通ずる。自分の心にぐっとくる、趣深い風景や物がいい。
2の色は、わかりやすく彩度の高いものから、名品の茶碗のような渋みのあるものまで様々拾う。石は水に濡れると発色が良くなり乾くと白っぽくなるので波打ち際で拾う際は注意が必要だ。
3の展開とは、石に表れた模様、表から裏まで続く線や、抽象絵画や風景画に見えるものなど、石の表面に展開するもの。さまざまな模様の石が存在する。表と裏のバランスがいい、あるいは表裏で全く違うものが望ましい。
4の触り心地はざらざらよりもさらさらやすべすべのもの。あえて極端にごつごつしたものを拾うこともある。水石の世界ではこれを「肌合い」と呼ぶらしい。
5の大きさについては個人差がかなりあり、私はうずらの卵から鶏の卵くらいのサイズがベスト。最近はおはじきか、それよりも小さい小粒の石にはまっている。
6の密度は、質量の多い石。つまり硬く重い石。軽い石だとすぐに削れたり割れてしまったりするのでまず選ばない。発色が良く形も面白い石がすぐに崩れるととても悲しい。
以上が石選びの基準だ。一つ例を挙げると、青森で拾った木星みたいな石は、形は丸型、色はブラウンとベージュの調和がとれていて、展開は縞状ののマーブリング、触り心地はすべすべ、サイズは鶏卵程度、密度は高め。とても美しい石ころだ。そんな感じ。
しかし、試しに石を拾ってみたら、愕然とするだろう。上記六つのポイントをおさえたいい石なんて、どこの海にもなかなか落ちていないことに。そしてそれに気づいた瞬間、あなたのいい石を求める長い旅はすでに始まっている
木星みたいな石
石拾いができる海岸
上記の通りいくら探してもいい石は意外に見つからない。石の拾える海岸がまず、圧倒的に少ないからだ。さらにいい石が拾える海岸はかなり少ない。そんな悩める石拾い初心者は、渡辺一夫先生著の国内で拾うことが可能な石をまとめた図鑑である、「日本の石ころ標本箱」などを読み、石を探すといいかもしれない。私も石拾いを始めた頃は随分お世話になった。
石拾いの聖地
ちなみに、聖地と呼ばれる石拾いスポットが一つある。それは青森にある海岸だ。そこで拾える石は津軽の錦石と呼ばれ、その石たるや、もう、すごい。ほかの海での石拾いが半年ほど退屈になる可能性もあるのでご注意を。あとは新潟の糸魚川にある、ヒスイ海岸もおすすめで、その名の通り翡翠で有名な石スポットだ。素人にはなかなか拾えないが翡翠以外の石もなかなかいい。
いらなくなった石はどうするか
これは大事な話。いらなくなった石は元あった海岸に必ず返してほしい。もし青森の石が、東京の海や川にあったら、皆びっくりしてしまう。しかも私みたいに無知なやつは、おお、東京にこんな石も落ちているんだ。すごいすごい。と勘違いして張り切ってしまう。そうならないためにも、石は元あった海岸に必ず返す。
石はどれだけ拾ってもいいのか
これも大問題。今現在は、ざっくりだが一回の石拾いで両手で持てる量までとしている。このきまりは、青森ではいい石が多すぎてなかなか難しい。だがあまり多く拾って、いらなくなっても困るはず。海岸で選定の際、すこしでも悩んだら、基本置いていくことをおすすめする。置いていく石は写真に収め楽しむ。数年後写真を見返して、それがだんだんいい石に見えてきて…ああ持ち帰ればよかった…。などと後悔したこともあるが、そうやって思いを馳せるのもまたよろし。
石拾いの最中に人の目が気になる
なる。特に石を拾い始めた頃は、かなり気になっていた。回数を重ねるごとに、そんなものは自意識過剰だ、誰も見ちゃいない、と言い聞かせ、確実に感じる視線をはねのけながら石を拾い続けていた。人が多い海岸や海水浴シーズンなどは、しゃがみこまず手を後ろで組みながら、地質か何かを調べている研究員風にさっと石を拾っている。何者かを演じるか、海岸と同化するのだ。
ある時、その反動でこれからはもっと堂々と石拾いをしようと決意し、石Tシャツを作ったこともあった。これを着て、海に行くと。
だが色々考えてみたものの、少々の後ろめたさを感じながら、孤独に忍んで拾うくらいが石拾いの良さではないかと今は思う。
石拾いブームが来ている
そのうち大きな波が来ると確信している。すでに来ていると言う人もいる。また、AIの進化によって全ての仕事がなくなり、人間がまったく働かなくていい未来が訪れたとしよう。その時、最後に残された人間の活動こそが、石拾いなのかもしれない。