美術の教員免許を持ち、アートに関連する連載も手掛けているお笑い芸人・リリー。そんな芸人界きってのアート偏愛者である彼が、ニッチな画家に注目し、熱量とユーモアを交えながらその魅力を語り尽くす連載企画。6回目は、19世紀フランスの最も革新的な写実主義の画家、ギュスターヴ・クールベ。後編は、超革新的な彼の作品を通じて、作品から垣間見える彼の人間的な部分についてリリーの主観で語る。

 

パンクで超革新的な画家

おはようございます、こんにちは、こんばんは。吉本興業で漫才をさせていただいてる、見取り図・リリーと申します。アートが少しばかり好きで、美術の教員免許を持っております。アートについて少し語りたくこの場を借りた次第でございます。

前回、ギュスターヴ・クールベについて語らせていただきました。後半はクールベの作品を中心に書かせていただけたらなと思います。クールベはパンクで超革新的な画家なんです! 作品を通じて感じてほしい!!

前回、クールベはアートに多大なる影響をもたらしたと書きました。クールベがいなかったら印象派はここまで有名でなく、そんな集団は誰も知らなかったかもしれません。なのにクールベの知名度が低い! 低すぎる! もちろんアート界では超有名な画家ですが、アートに興味のない方にも名が知れ渡ってもいいはず! なんならレジェンド扱いされていいのに!! 推し活します!!! “クールベ指ハートして”のうちわ作ります!!

 

当時の絵画の常識を覆した代表作

知名度が低い理由を僕なりに分析した結果、現代にクールベの作品を観ると「普通に絵の上手い人だなー」くらいで終わるんです。ただクールベの時代には、その絵はかなりパンクで尖った作風だったんです!

例えば《石割り人夫》を観てください。今観ると2人の男が作業しているだけの作品。ただ当時の絵画の常識は、神聖で美しい瞬間を描き出すのが当たり前でした。その時代にクールベは、なにも隠さず人々の苦労を描いたんです。服はボロボロ、子供にも労働し、朝から晩まで過酷な環境ではたらく貧しい人々の見たままの現実を! 当時のアート界へのアンチテーゼを感じます。

《石割り人夫》1849年/出典:『25人の画家 -現代世界美術全集- 第5巻 クールベ』(講談社)

まだまだあります。こちらは前編でも紹介した《オルナンの埋葬》ですが、これも超炎上した作品です。

普通に田舎のお葬式の風景を描いているように見えます。なにが悪いかわかりませんよね。この絵のサイズなんですが、縦3.15メートル、横6.68メートルでかなり大きいんです。「別にでかいくらいええがな!」と思うでしょうが、さすが規則だらけの19世紀アート界。このサイズに描ける絵は、当時の権力者、例えばナポレオンや聖書などのワンシーンを描いた宗教画などヒエラルキーの高い絵だけだったんです。「そんな崇高な絵と同じサイズに、田舎の葬式を描くなんて馬鹿にしてるのか!」と怒られます。
前回もかるく触れたんですが、この時に「今だって歴史の一部、じゃあこれも歴史画だ」と反発します。実際こうやって150年以上たった今も、この絵について語られているということは実際に歴史になってますよね、クールベが正しかったんです。さらに絵画の中の登場人物を観てください。できるだけ美しく現実離れした人物をかくのが常識の中、クールベは現実通りに描いたのです。《石割り》同様、美化したり嘘を自分の絵に持ち込むのが気持ち悪かったんでしょうね。しわくちゃな老婆、さえないおじさんをありのまま描きます。そらアカデミーは黙ってませんよね! おこです!

《オルナンの埋葬》1849-50年/出典:『25人の画家 -現代世界美術全集- 第5巻 クールベ』(講談社)

これがクールベの有名な言葉に繋がります。
「羽を生えた人を見たことないんで描かない! 俺は見たことのある物を描く!」

刃向かうねー! 中2のヤンキーくらい反抗期です!

 

作品を通してアカデミーに訴えかける

クールベの超大作《画家のアトリエ》も凄いんです。超反抗的!! タイトルが長く正式には、「我が芸術的生活の七年に及ぶ一時期を定義する写実的寓意画」というサブタイトルがついてるんです。

《画家のアトリエ》1855年/出典:『25人の画家 -現代世界美術全集- 第5巻 クールベ』(講談社)

わかりやすく言うと「自分のやってきた七年の芸術活動を表した意味のある絵」的なことです。クールベ自身が、中央で絵を描いています。向かって右側に、今までクールベを支持してくれた人や、支援してくれたパトロン、自分と同じ思想を持つ人など自分の味方を描いています。そして逆の向かって左側には、アカデミーなど自分に反対する人達を描いたんです。クールベのすぐ左側には、ドクロやはりつけになっている人がうっすら見えます。これはアカデミーに対して「もう終わってるよ、君たち」というメッセージだと言われています。めちゃくちゃ権力に逆らってます!

俺にはこれだけの味方がいる、だから終わっている君たちの話なんか聞くわけないよ。だまって俺の絵を認めなさいというメッセージをひしひしと感じます! アカデミーなどを無視して、世界で初めての個展を開催したのにはこのような考えがあったんですね。すごい人生!! 前回も書きましたが、まじでドラマ化か映画化希望!! Netflixさんたのんます!

 

パンクの中に垣間見える人間的な部分

あとクールベってめちゃくちゃエロい絵を描いてるんです!! 現代の僕でも「これ大丈夫なんか!?」と思ってしまいます! アートのために描いた美しい裸体とかじゃなく、ちゃんとエロく描いてる! どこまでも写実主義! 絵画の裸体は出来るだけ美しく描いているんで、エロいより凄いとか美しいが勝ってたんです。なのにクールベはありのまま! 画像は貼り付けるの無理かもしれないんで《世界の起源》という作品、観たい人だけ検索してみてください! ただの女性の下半身!もう顔も描いてません!

《まどろみ》もすごいんです! 何かの比喩である裸体とかじゃなく、ただリアルに女性同士が裸で絡み合ってるんです。アートに対して言い方悪いかもしれませんが、「エロ本見るくらいエロを感じてしまう!」。これも絵画の中にある裸体という物の概念をぶち壊したかったんじゃないかな!

だからとりあえずですね、色々書いてきましたが、クールベはまじすごい!! 固定観念や規則や常識などを破壊しながらとりあえず前だけ見て進んでいくメンタルモンスター!! ただSNSとかある時代じゃなくて良かったと、わりかしまじで思うんです! 完全に自論ですが、この時だってギリギリの精神状態で戦ってたと思うんです。アカデミーや今までの既成概念をめちゃくちゃ意識しているからこその破壊なんです! 気にしてなかったらこんな作風にならないですもん! 絶対いろいろ気にしてる!
こんなちょっとだけ弱さが見えるクールベがかっこよすぎてたまらないんです! カリスマです! もっともっとクールベのカリスマ性が広まってほしい。かっこいい。