美術の教員免許を持ち、アートに関連する連載も手掛けているお笑い芸人・リリー。そんな芸人界きってのアート偏愛者である彼が、ニッチな画家に注目し、熱量とユーモアを交えながらその魅力を語り尽くす連載企画。5回目は、19世紀フランスの最も革新的な写実主義の画家、ギュスターヴ・クールベ。前編は、彼の生い立ちから破天荒で反抗的な人間性に、リリーが惹かれる理由までを語る。

 

自分の信念を貫く超スーパークールガイ

どうもです。吉本興業で漫才をさせていただいてる見取り図・リリーという者です。僕は一応美術の教員免許を持っていまして、アートという物にちょこっと触れてきた人生でした。なのでアートにおいて、僕の魂の叫びに少しばかりお付き合いください!

今まで世界にはたくさんの数の画家が誕生してきました。今回は、僕の中で“もっともっと有名になっていないとおかしい画家”第1位の方を紹介させてもらいたい!!
魅力的かつアートシーンへの貢献度も凄まじいのに、なぜかそこまでの知名度がないのです!

それは写実主義の画家、ギュスターヴ・クールベ!!

アートシーンのゲームチェンジャーといえば、ルネサンス期の画家たちやセザンヌ、ピカソ、マティス、デュシャンなどいろいろと語られますが、このクールベがいなかったら今のアートシーンはなかったと僕は思うんです。なぜなら超破天荒で超反抗的で、超自分の信念を貫く超スーパークールガイなのです。とりあえずかっこいい。

クールベは1819年にフランスのオルナンという所に生まれます。実家はお父さんが農業で成功していて裕福でお母さんはめちゃくちゃ美人だったそうです。だからクールベもイケメンです。自画像とかもあるんで、気になる方はチェックしてみてください!
絵はわかりやすく上手いんですが、田舎で生まれたクールベは独学で絵の勉強をして1839年にパリに行きます!
しかし、すぐに評価されるわけもなく、アカデミー(オフィシャルの美術協会みたいなやつ)にも認められない始末。そんな時に《絶望》という絵を描きます。時代背景や自分の絵が認められないことなどいろいろな絶望を自分の顔だけで表現しています。神話などを使って崇高な表現で彩る時代に反し、ストレートに自分の顔だけで表現する、これがクールベなんです! クール! 
全員が思いつくやつをとりあえず気持ち悪いんで一回言っときます! クールベ、クール!!!
次にまいります。

 

労働者にスポットを当てた作品がスマッシュヒット!

そんなクールベも1849年に転機が訪れます!

《オルナンの食休み》という作品がサロン2等賞というのに選ばれ買い上げになります。つまり、アカデミーに認められた画家になったんです! 急に評価されたのには時代の背景がありまして、1年前の1848年に二月革命が起こり、労働者たちの勢いが増したのです。そのタイミングに労働者にスポットを当てた《オルナンの食休み》を出したことで、見事スマッシュヒット! これも凄いことなんです。

絵画にはヒエラルキーがありまして、神話のワンシーンを描いたり、歴史を描く歴史画が余裕で1番上です。そしてその下に肖像画、で1番下が風俗画、風景画、静物画なのです。それなのに時代の後押しもあり《オルナンの昼休み》が評価されます! もってるってやつですね!

《オルナンの食休み》1848-49年/出典:『25人の画家 -現代世界美術全集- 第5巻 クールベ』(講談社)

ここで手を緩めないのがクールベ。1850年、《オルナンの埋葬》を発表。

《オルナンの昼休み》を出してあんな評価されるならということで、オルナンの埋葬シーンを描けばバズりまくるだろうと思ったのかもしれませんが、これが大炎上! 叩かれまくり!
なぜならキャンバスのサイズが大きく、本来歴史画などを描くサイズだったのです。そこに風俗画を描いたクールベに対して、アカデミーは今までの歴史画を馬鹿にしていると感じたようです。それに対してクールベは「いやでもアカデミーはん、100年後にはこの絵も歴史画ですやん?違う?」とかましますが、アカデミーは認めるわけがありません。

《オルナンの埋葬》1849-50年/出典:『25人の画家 -現代世界美術全集- 第5巻 クールベ』(講談社)

しかし、クールベの反抗心は止まりません。絵画は天使や女神などを美しく描くことが崇高とされているなかクールベは、「いや羽生えた人なんか観たことありませんやん?じゃあ描けるわけないやろあんさんら」と喧嘩を売るのです。この観た物をありのまま描く信念から「写実主義」といわれるようになります。

まだまだかっこいい話があって、フランスのアート界のえらい人に「クールベよ、俺はお前を買ってる。ちゃんとアカデミーを馬鹿にせず正統な作品を描くならちゃんとお金も払うからがんばってくれよ。」と言われると、「あっ、そんなはした金いらねぇっす。金でやってないもんで、なんならお金あげましょうか?」的な返し!!!! かっこいい!!!

「半沢直樹」みたいに日曜劇場「ギュスターヴ・クールベ」してくれ!! 観るて!!!

 

世界初の個展を開催!!

こんなに反抗的なクールベにアカデミーは優しくするはずはありませんよね、ここからが1番アートシーンに影響を与えたことです!

アカデミーが認めないなら自分でやると言って、アカデミー主催の展覧会の横で、自分1人でやってやると言ってクールベの個展を開いたんです!! これが世界初の個展!!
僕たちで言うと、なんばグランド花月に出れないから自分たちでやってやるってテント立てて勝手に単独ライブしているようなもん!! そんな根性あるわけない!! まじでアナーキーすぎる!
ただこの考え方を継承して、偉い人達に認められない印象派の画家たちは、クールベ兄さんがやってた方法を真似て印象派展を自分たちでやったんです!! クールベがいなかったら印象派は有名になっていなかったかもしれません。そのくらいこの個展は革命的だったんです! 彼は1877年に亡くなるんですが、それまでずっと権威に反抗し続ける人生でした。

 

クールベにここまで思い入れてしまう理由

僕がクールベに特別思い入れしてしまうのは、本当はこんなに強い人じゃないのかも。と思っている所なんですよね。僕も岡山の田舎から出てきて今東京にいるんですが、人間なんてずっと強気でいれるわけないと思うんです。クールベも独学でしか勉強してない絵で、周りには英才教育を受けてきたライバルたち。パリに出てきて自分を思い込ませて、信じ込んで戦い続けていないと自分を保てなかったんじゃないかなぁと思うんです。
クールベの絵を観ていると俺ももっとこの大都会でがんばろうと勝手に思うんです。全然違うかもしれませんがアートは自分の感じ方が全てなので、俺の人生の栄養剤的役割なんです。

勝手に好きになって勝手に推している、画家クールベ。これからも質の高い栄養を摂取していきます。後半もう少しクールベについて書かせていただこうと思います。