ある日、車を走らせていると木々の間から姿を現した牛久大仏。その姿を目にしてから、大仏めぐりの日々が始まった。どんな部分に衝撃を受けたのか、どんな部分に魅了されているのか。後編では、半田カメラ氏が想う大仏の魅力について。

前編はこちら

 

「大きい」が持つ圧倒的なパワーと非現実感

「大仏の魅力って何ですか?」これまで幾度となくされてきた質問です。端的に答えるなら『大きさからくる圧倒的な存在感』でしょうか。「大きい」はただそれだけで全てを凌駕するパワーを持っていると思うのです。これは大仏に限らず巨大な建造物、自然物に共通して言えることです。樹齢数百年の巨木や、巨大ダムなどを前にして、大きさに圧倒され無条件に感動してしまった経験は、多くの人が持っているのではないでしょうか。「大きい」には見るものを引きつけるパワーがあります。

大仏にはそうした人を圧倒するパワーがあるわけですが、像高が40メートルを超える、いわゆる「巨大仏」の魅力というと、これに『非現実感』というワードが加わってきます。仏像はお堂の中に安置されるのが一般的ですが、大仏となると屋外につくられることが多くなります。屋外ですから周囲の風景との調和、また逆に風景との不調和も重要なポイントとなってくるのです。

 

Macintosh HD:Users:akiko:Desktop:5pm:後編:093A4292.jpg高台にあり遠くからでもよく見える仙台大観音。

 

『非現実感』の例として私がよくあげるのが、宮城県仙台市の都心部から少し離れた新興住宅地に立つ巨大観音像、仙台大観音です。仙台大観音は牛久大仏に次ぐ日本で2番目に高い、像高100メートルの観音像で、1991(平成3)年に仙台市制100周年を記念し建立されました。仙台大観音は私が思う巨大仏の魅力を漏れなく兼ね備えています。
注目すべきは仙台大観音が住宅地の中に立っているという点です。像高100メートルの観音さまは明らかに非現実感が強い。なのにそれが住宅地という極めて現実的な風景の中に立っている。前述した風景との不調和が生じており、このギャップが見るものを混乱させます。

 

Macintosh HD:Users:akiko:Desktop:5pm:後編:IMG_2449.jpg 上り坂の先に現れる観音さま。

 

日常の風景に突如、仙台大観音が現れたとき、人は今みている光景が現実のものとは飲み込めず、脳がバグを起こしたみたいに一瞬時が止まる感覚をおぼえます。わかりやすく言えば「二度見」です。二度見するほどの衝撃って日常ではそんなに遭遇しませんが、仙台大観音は高確率で人を二度見させます。ファーストインプレッションで全てを持って行く。この鷲掴みされる感じがたまらないんですよね。

 

大仏さまの夜の顔とは

屋外にある大仏さまは季節や天候、時間によって見え方が変わります。これも私が惹かれた理由のひとつです。順光と逆行では大仏さまの表情も違って見えますし、雨に濡れた大仏さまは晴れている時とは色が変わります。春には桜の花びらが舞い、冬にはうっすら雪が積もる。参拝するたびに新たな顔が観られ、飽きることがありません。
そんな中で私が最強だと思っているのが夜の大仏参拝です。私はこれを『大仏夜景』と呼んでいます。昼間ですら非現実感ある大仏さまが「夢かマボロシか?」と目を疑う光景にバージョンアップするのが夜なんです。お寺の境内にある大仏さまは通常、夜には参拝できません。ですが巨大仏は外からも拝むことができ、夜間も参拝可能です。ここでご紹介したいのが、やはり仙台大観音。仙台大観音は隣にホテルが建っています。このホテルの観音さま側の部屋からの光景がとにかく凄いんです。

 

Macintosh HD:Users:akiko:Desktop:5pm:後編:093A4968.jpgホテルから拝む仙台大観音の夜の姿。

 

部屋の窓からは遮るものがなく観音さまが見えます。しかも窓から見切れるほど距離が近く、まさに超アリーナ席。写真は部屋のベランダから広角レンズで撮影したもの。肩や頭に赤く光っているのは航空障害灯です。航空法の規定により一定以上の高さの建造物には航空障害灯の設置が義務付けられていて、仏さまといえどもこれは例外ではありません。夜間飛行する飛行機に存在を示すため光を放っているのですが、私にはこれこそ『仏パワーの視覚化』のように思えるのです。仏さまから発せられる仏パワーを解りやすく感じたいなら、夜の巨大仏です。この仙台大観音を拝むためには、ホテルの部屋を取る際に「観音さま側のお部屋でお願いします」との指定が必要になります。これ、ここだけの話です。

 

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仏像でありながら建造物でもある

また人々にとって身近な存在であることも、大仏の素敵なところです。秘仏という、決まった時にしか拝むことのできない仏像もたくさんあります。もちろんそうした仏像も大変ありがたいし、素晴らしい。ですが大仏さまは会いたい時に会いに行ける存在であることが多く、握手にも快く応じる気さくなスターみたいな素敵さがあります。一緒に写真を撮ることができたり、触れられたり、さらには胎内に入ることができる場合もあります。この『胎内拝観』も大きなアピールポイントです。

国宝に指定されている鎌倉大仏も胎内に入ることができます。前回ご紹介した牛久大仏は、大仏さまの胎内がお寺の本堂になっています。仙台大観音の内部は像高100メートルの観音さまの胎内を贅沢に使った60メートルの吹き抜け構造になっています。煩悩の数である108体の胎内仏が祀られた空間は、他に類がないぐらい幻想的です。巨大仏は仏像であると同時に、魅力的な構造の建造物であるという側面も持ち合わせています。外観だけみて胎内に入らず帰る人も多いのですが、実に勿体ない。可能なら絶対中に入るべきです。

 

Macintosh HD:Users:akiko:Desktop:5pm:後編:093A3620.jpg吹き抜けになっている仙台大観音の内部。

 

「百聞は一見にしかず」とは大仏のこと

仙台大観音を例にあげ、大仏の魅力を語ってきました。ですが私は『大仏は百聞は一見にしかずの典型』であると思っています。どんなに言葉を尽くしても、どんなに写真を見せても、実際に大仏さまの前に立った時のあの震えるような感覚を伝えることはできません。伝え切れずもどかしい想いを今まで何度してきたことか。残念ながらあの感覚は「体験すればわかる」これに尽きます。
ですが今回も同じことを言わせていただきます。騙されたと思って一度行ってみてほしいんです。仏像というと知識がなければ近づけないイメージがあるかもしれません。ですが大仏は「大きい!」「すごい!」というシンプルな感動がその他全てを上回るので、知識がなくても充分に楽しむことができます。

私は巨大仏きっかけで大仏にハマり、仏像全般が好きになりました。そしてさらに興味は仏教や神社仏閣へと広がっています。そうした興味の入口として大仏はとても適していると思います。ぜひ一度、圧倒的なパワーと非現実感をご体感ください。