この第四回をもって、石拾いのつぶやきは最終回。
最後に私の石ころ探しの思い出日記の一つをご紹介。こんな感じで日々石を求め旅をしている。

 

2016年5月3日。

石拾い初心者の友人KとSとで青森県の海岸へ石拾い。いくつかの海岸を寄り道しながら本日のメインディッシュである海岸に向かう。

初めての青森に車中が盛り上がる。久しぶりの3人旅行。3日間の滞在ということもあり、胸が高鳴る。津軽の石、津軽の石…。

それにしても来て早々、青森の方には申し訳ないのだけれど、なにもない県だなあという印象。
まあ、のどかで自然が沢山あるとはそういうことなのだが。
私の第二の故郷である隠された石の聖地、福井県だって何もない。何もないからいい。

そうだ、TADAよ…。まっていてくれ。おまえの持っているすべての石を砕いてしまうような圧倒的石力でもって、福井に降り立とう…。

しかし、次に目指す海岸、場所が分かりづらい。WEBや本で調べても、はっきりと石スポットがわからない。むむむ…。早くも石の試練ということか。
とりあえず、唯一の手がかりである海岸名の立て札を探しながら、海岸沿いに車を走らせることに。

ブーンブーンブーン

海岸沿いの道に入る。
う…美しい。海。
見惚れ写真を撮り忘れ、本当に駄目な石日記なのだが、
本当に美しい。そして海に石の存在を確認した。
ピピピピ!!!石スポットレベル5!!!私の石センサーが鳴り止まない。
海岸に降り立ったわけではない。どんな石が転がっているのかもわからない。ただ、見たことのない海の風景に「いい石がないわけがない」と私の心の声が叫び続ける。
KとSのテンションも徐々に上がる。

ブーン…

しかしおかしいな…。
全然ない。海岸名の立て札がない。
カーナビを見る限り、確実に石スポットを過ぎている気がする。
なぜだ!なぜなんだ。
車をUターンさせ、再び目を凝らし運転する。
立て札、立て札、立て札はどこじゃい!

また石スポット周辺を通過してしまった。なぜだ…。なぜ立て札がない!
Googleで調べても、この辺りのはずなのに…。

とりあえず、適当な場所に車を停車させて、海岸の方へ歩いてみることに。しかしここから海岸には降りられなさそうだ。

と、その時、地元の方を発見!! 
でもちょっと怪しいおじいさん…。トタン小屋の近くで何やら作業をしているご様子。(石拾い3人組のほうがよっぽど怪しい)一旦、話しかけるのはやめておこう…。
しかしKとSとで自力で立札を探してみるが、全く見つからない。

私は勇気を振り絞っておじいさんに話しかけてみた。
石の人「あのー、この辺りに石が拾える海岸はありますか?立て札があるはずなんですが見つからなくて…。」
おじいさん「あー、◯△◯△◯△◯△◯△◯△◯△だ。」
石の人「え?今なんと?」
おじいさん「あー、◯△◯△◯△◯△◯△◯△◯△だ。」
石の人「え?え?すみません、もう一度…。」
おじいさん「あー、◯△◯△◯△◯△◯△◯△◯△だ。」

全く何を言っているのかさっぱり分からない。このおじいさん、大丈夫か。(失礼)いや、これが津軽弁というものなのか。さっぱり分からない。

石の人「すみません…。もう一度だけ…。」
おじいさん「あー、◯△◯△◯△トイレ△◯△だ。」

ん?トイレ!?トイレの近く??
うんうんと頷くおじいさん。本当かね…。ここに来る途中、確かに変わった公衆トイレが海岸の向かいにあったが…。立て札らしきものはなかった…。このおじいさん適当に言っているんじゃないのか。
いかんいかん!すぐに人を疑ってしまうのは私の悪い癖だ。
全く言葉が聞き取れないどこから来たのかもわからない怪しい石拾い3人組に、これほど親切に教えてくれているのに何たる無礼。
ありがとうございます!と一礼し、一風変わった公衆トイレの方へ車を走らせた。

ちょうど駐車スペースがあったので、車を止める。
立て札は…ない。
やっぱり適当に言っただけだったのか…。
いやいやいや!信じろ!僕らみたいな怪しい人を信じた、おじいさんを信じろ!

だめもとで海岸を降りてみることに…。

!!!!!

立て札だ…。
立て札が倒れている…。

立て札の向こう側が車道なのだが、道理で見えないわけだ。ちなみに右手に見えるのが公衆トイレ。あのおじいさんが言っていたことは、全て正しかった。
すみません。親切に教えて頂いたのに疑ってしまい本当にすみません。

そして、少し怖くなった。なぜ立て札が倒れているのか。
石拾いの人々の仕業ではないだろうか。
WEBや本の紹介では石スポットの目印として、この立て札が紹介されている。つまり、日本各地の石拾いの人々は、この立て札を目指してやってくる。そしてここで探石を終えた後、これ以上この場所を他の石拾いの人々に荒らされたくないと、立て札を倒してしまったのではないだろうか。
むむむ…。憶測でしかないが、恐ろしい。石は人を変えてしまうのか。
いや、強風かなにかで倒れただけかもしれない。

さすが伝説の地、これはただの海岸ではないぞ。

しかしKとSよ。私たちはついに津軽の海岸に降り立ってしまった。
拾うしかない。この素晴らしきエメラルドグリーンの海岸で、錦石とやらを。

コロコロコロー。

もくもくと拾うKとS。
明らかにいままでの石拾いと二人の集中力が違う。
それもそのはず、落ちている石がめちゃくちゃいいのだ。

石が良い?何を根拠に、何と比較して?
石の善し悪しなんてものは人それぞれ、決めきれるものではないはずだ。
しかし青森の石には、そんなことを考える前に目を奪われ、拾ってしまう力がある。
静岡も良い、福井も良い。海もきれいで石も良い。
しかし青森の石は、「何か」が違う。圧倒的な存在感と個性。

石拾いをする時は、小さなバッグを肩から下げて、そこへ石を入れていくのだが、一つ拾っては都度入れていくのが面倒なので、ある程度は手に石を持っている。
この海岸では、その手がすぐにいっぱいになる。次から次へと拾ってしまう。石拾いといえば、ん~これは違う。これも違う。ここが丸かったらなあ。色がちょっと汚いなあと、なかなか拾うに至らない。
しかし青森の石はふと見た瞬間、細部よりも、石全体の圧倒的な存在感により反射的に手が拾っているのだ。
恐ろしき青森の石の魔力。いや、素晴らしい。
私は最近悟った気になっていた。色や形、個性、希少性よりも、一見地味でどこにでもあるような石に侘び寂びを感じる域に達しているという錯覚。
そんな錯覚はどこへやら。個性!個性!個性!めずらしい色!形!触り心地!全てが新鮮で、発見の連続。
日本で散々カブトムシをとっていた少年が、南米に行ってヘラクレスオオカブトと出会ったような(そんな経験ない)感動があった。

ああ、少し大げさに書きすぎている気がする。しかし、はるばる青森にやってきた、念願の石拾いということも相まって、テンションは上がる一方だ。

Sはというと、どこで見つけたのか、コンビニ弁当の空箱のような漂着物を見つけて仕切りを利用し、うれしそうに石のジャンル分けを楽しんでいた。

Kはもくもくと石を拾う。Kは、デザイナーであり、絵を描くのが得意である。父母ともに高校の美術の先生(だった気がする)、祖父は版画家であり旅人であったという、サラブレッドぶったデザイナーなのだ。
Sがニコニコしながら、弁当箱になんとなくきれいな石をノリで詰めていくのとは対照的に、かなりの集中力で石を凝視している。一体どんな石を拾っているのだろうか。
私はKがどんな石を拾っているのか、ものすごく気になった。
ちょ…ちょっと見せてもらおうか…。

!!
し、渋い!!
色も、形も様々な石が転がるこの海岸で、黒や灰色などのマットでモノクロームな石のみを、よくチョイスすることができるな。
Sを見てみろ。弁当箱に入っている石は色とりどりで、丸っこくてかわいい形のものばかり。
普通、この海岸で石拾いをすればこのようなチョイスとなる。純粋そのものじゃないか。

しかしサラブレッドKは違う。同じ海岸で拾ったとは思えない石達…。

ぞわぞわ…。

なにやら、かつてTADAの拾った福井の石から感じた脅威を、今また感じているような気がする…。
サラブレッドK!次はおまえか、石聖(石の悟りを開いた者。妄想。)を目指すもの…!

ぼんやりしていると、危ない。Sも着実に石の目を養っている。
はやく、はやくもっと高みへ行かねば…。TADAもサラブレッドKもSも届かぬ遥かなる高みへ…。

と、石をもくもくと拾っていると、夕方に。
宿が遠くにあるため、チェックインの時間を考えると、そろそろ出発しなければならない。
もっと、もっと拾っていたいのに。

3人はしぶしぶ海岸を後にする。
ここまで心残りがある石拾いは初めてだ。宿で石を見るのが楽しみでしょうがない。

車に乗り込み走らせる。車内は石の話で多いに盛り上がる。

この日記を書いていると、石拾いがしたくてうずうずする。

なかなか寂しげな山だ。
不慣れな運転と、どんどん薄暗くなる空に不安を抱きながら進む。
なぜか木が全て枯れている…。
くねくねしたフォルムの怪しげな木が、道の両サイドにあって少しゾワっとする。ほかの車は…見当たらない。

あっ!これは宿に近い湖だ!よかったよかった…。
しかし木は相変わらず怖いフォルム…。

きれいですね。

しばらくすると、温泉街っぽい場所へ。そこに僕らが泊る民宿があった。
ここまでの道のり、なかなか困難だった。どれだけ運転しただろうか。途中、狭く急な坂の、急カーブが連続していた。この温泉街に住んでいる人たちは大変だろうなあと思いながら、宿の中へ。

ふーっと一息。

お風呂に入り、ご飯を食べ、お待ちかねの時間。
近くの酒屋で酒を買い、宿へ戻って石を洗う。そう、品評会をするのだ。
しかし石を洗うのも一苦労である。民宿なので部屋に洗面所がない。
廊下に、ほかの宿泊客の気配がなくなった瞬間、洗面所へダッシュ!
ガシャガシャガシャ!! 見つかったら最後だ。

「ヒソヒソヒソ…。となりの客、石洗ってたわよ…。」
…目撃されるのは絶対にいやだ。

ガシャガシャガシャ!!ガシャガシャガシャ!!

なんとか誰にも見つからずに、3人とも石を洗う事に成功した。
無事品評会が始まる。
福井のTADA家で初めて体験したのだが、酒を飲み交わしながら石を眺めるこの時間は最高なのである。

こちらはSの石。
渦巻き状に並べた理由は不明だ。

奇麗な色、まん丸な形、気持ちのよい触り心地、珍しそう、なんか透明なやつ。
ざっとそんなところだろうか。あの海岸で初心者が石拾いをすれば、こうなって当然である。むしろ正解だ。私だって近いものがある。
なかなかやるじゃないか。

次に問題のサラブレッドKなのだが…。

うおおおお、なんじゃこりゃあ。

か、かっけええ。やっぱり渋い。
サラブレッドK、恐るべし。あの石に祝福された男TADAすらも揺るがす、ルーキー。
とんでもないポテンシャルを持っている。
しかも恐ろしいことに、この時の私はこの石達の素晴らしさに気づいていない。なんとなく渋くてかっこいい、Kっぽいチョイスだなー。程度である。
しかし今は分かる、恐ろしいほどに。この石達の良さが。
Kは今までたった3回ほどの石拾いで、確立した自分の石世界を見いだし、さらに私が到底届かない遥かな高みへと引き上げていたのである。
恐ろしきセンスの持ち主K。そして純粋なS。私を脅かす石ライバルの誕生だ。

…というかこの日記が心配になってきた。読んで頂いているみなさま、私が何を言っているのか、理解して頂いているのだろうか。この感覚、石拾いを一度もしたことがない方々が読んで、伝わるものなのだろうか…。

めげずに、最後は僕の石を。

意外と普通。今、冷静に見てみると、3人の中で一番微妙な気もするが…。いや、写真写りが悪いだけだ。一番上の左から2番目がお気に入り。一番左下の瑪瑙も良い。

正直に言ってしまうと異常にテンションが上がっていただけなのだ。青森旅行、仲のいい3人での石拾い、念願の石スポット。

そしてまた1つ、問題が発生している。当時の石の感覚と、現在(日記を書いている最中)の石の感覚が違ってきているということだ。写真を見ていると、なぜこの石を拾ったのか理解できないとまでは言わないが、今ならまず拾わない石を拾っている。
つまり心を込めて石のプレゼンテーションが出来なくなってしまった石が多々あるのだ。

後日撮った寄りのカット。
石拾いをして、石を持ち帰った方におすすめなのが、ランダムに石を並べて写真を撮ること。海岸がそこに再現され、イメージが、思い出が、蘇ってきてジーンとくる。一度お試しあれ。

しかし何やら不完全燃焼な感じが否めない。
次の日記はこんなことにならないように祈る。



このあとも、石ころ探しの旅は終わらない。
みなさんも石を探したり、拾ってみたり、石について考えてみたり、並べてみてほしい。自分だけの石の楽しみ方や、自分だけの石の世界を広げていくことで、まだ知らない自分と出会えるかもしれない。