1年に約3,000杯のクラフトコーラを飲み、日本各地で振舞い尽くしの日々を送るクラフトコーラマイスター・鯉淵正行が語る、クラフトコーラの魅力と偏愛生活。前編では、クラフトコーラとの出会いから“クラフトコーラマイスター”と呼ばれるまでの偏愛生活を紹介してきた。後編では偏愛の成れ果てである”飲む以外”の楽しみ方を紹介する。

 

“出し殻”という副産物

クラフトコーラには「出し殻」というものが基本的に発生する。“飲む以外”の楽しみ方において、極めて重要な存在である。

前編で述べた通り、クラフトコーラは、コーラナッツ等のスパイスや柑橘、砂糖を煮詰めることでシロップ化する製造工程が一般的だ。端折って説明すると、10種類前後の素材が大量に大きな鍋の中でグツグツと煮詰められ、濃縮されたシロップが出来上がり、しっかりと濾してボトルに充填される。そうすると、例えばヒタヒタになったシナモンスティック等、煮詰め終わったスパイスや柑橘の「出し殻」がたくさん発生するのだ。メーカー各社の製造ボリュームによるが、何十kgと発生することもざらにある。

 

 

その存在を聞き、最初に目にしたときに、「とても美しい」と感じた。青春を謳歌している学生の部活動やアスリート、ミュージシャンのライブ等、全力を出し切った姿に美しさを感じることは往々にしてあると思うが、それは「出し殻」も一緒だ。香りや味わい、その他シロップとして製造されるための役割を、持てる限りの力で全うした姿が「出し殻」だ。そこには、儚さ、敬意、感謝、様々な感情を見出すことができる。

加えて、まだ「香り」が残っていることも多いのだ。何十kgの量になると、数m離れた距離からでも十分に香りを感じることができる。そして、出し殻の姿がクラフトコーラの種類ごとに全く違うのも面白い。素材の種類から配合、使い方(例えば、柑橘の果汁を入れるか、皮を入れるか、丸ごと入れるか、等)まで、十人十色の個性があって、ワクワクしてしまう。飲んで美味しい、見て楽しい...、出し殻はクラフトコーラの底力を感じさせてくれる。

 

 

また、出し殻を見ることで、素材の使い方から衛生管理具合まで分かる部分がある。「目は口ほどに物を言う」なんて言葉があるが、「出し殻は商品説明ほどに物を言う」も成立し得ると感じるほど、出し殻は嘘をつかない。ポジティブなまとめ方にすることが大前提だが、いつか「出し殻」をテーマにZINEを制作したいくらいだ。

このように「出し殻」にも熱中してしまっているわけだが、そのきっかけはとある老舗銭湯との出会いだった。

 

待ち受けていた、“飲む以外”の楽しみ方

その老舗銭湯との出会いを振り返る前に、出し殻の可能性自体を認知した出会いを1つだけ紹介する。2019年、春。クラフトコーラの二大大巨頭のひとつである『ともコーラ』のPOPOUPで並んでいた「コーラのぬけガラ」という商品だ。

 

 

スパイス・柑橘の出し柄を「調味料」として加工した商品であり、「スペアリブ、キャロットラペなど」のタレ・ソースとして使用することが推奨されていた。クラフトコーラが本格的に発祥してから1年も経たない内の出来事で、クラフトコーラにおいて初の出し殻活用事例なはずだ。今思えば「何たる先見の明なんだ」と驚愕モノだが、当時は自分がクラフトコーラと出会いたてホヤホヤなこともあり、「すごいなー」と思ってはいたもののそこまでピンと来ていなかった。

 

衝撃を受けた、クラフトコーラの湯

それから1年半程度経った、2020年12月。東京・高円寺の老舗銭湯『小杉湯』のSNSで「クラフトコーラの湯(伊良コーラの湯)をやります!」と偶然目にしたのだ。

「....?」

クラフトコーラと出会った時と同様に、時が止まった感覚を覚えた。曰く「クラフトコーラの出し殻」を活用してお風呂を開いているらしい。「どういうことなんだろう(目がキラキラ)」「何を言っているのだろう(胸がドキドキ)」、困惑と興奮が混じり合った感情が止まらず、凍てつく寒さの中、仕事を終えて自宅から1時間もかけて“行ったこともない”銭湯へ足を運んだのだ。

甘いスパイスの香り。爽やかな柑橘の香り。それが織り成されたコーラっぽい香り。銭湯のお風呂で、あの『伊良コーラ(イヨシコーラ)』の香りを感じられたのだ。その時の感動といったら、とてつもなかった。

 

 

そして、しばらくしない内に、「ともコーラの湯」も開催され、もちろん足を運んだ。

 

 

クラフトコーラの湯の体験に感動を覚え、「いろいろなクラフトコーラで開催できるということか...!?」と希望に満ち溢れ、この温度そのままにSNSで発信していたところ、『小杉湯』の三代目から声がかかり、「全国の様々なクラフトコーラの湯をもっと開催したい。浸かりたい。」と意気投合し、「小杉湯クラフトコーラフェスト」という取り組みを始めた。

 

 

毎回、新しいクラフトコーラを小杉湯に集め、日替わりクラフトコーラの湯やシロップ商品の販売、玄関軒先での試飲提供などを軸に賑やかすイベントで、これが大好評。「たくさんのクラフトコーラを紹介したい。たくさんのクラフトコーラの湯に浸かりたい」の一心で老舗銭湯や全国のクラフトコーラメーカーを巻き込み、今年の8月でvol.6を数える小杉湯の名物企画となった。

「クラフトコーラの湯」の気持ちよさをもっと多くの銭湯・人に広めようと、今は入浴剤開発会社や小杉湯と連携し、試行錯誤に勤しんでいる。今夏は「入浴料(入浴剤と基本的に同じだが、医薬部外品ではなく浴用化粧品と定義され化粧品扱い)となったクラフトコーラの湯の素を活用し、小杉湯でクラフトコーラの湯を実現できた。今後、全国へ徐々に広めていくつもりだ。

 

「湯」から「蒸気」へ

さて、時は少し遡り、第1回目の「小杉湯クラフトコーラフェスト」を開き終えた2021年初夏。「もっと、“飲む以外”でクラフトコーラを感じたい」と思い、サウナのロウリュでもクラフトコーラを感じられないかを思い付き、いてもたってもいられなくなった。疎い分野だったため、サウナに親しい友人に声を掛け、「出し殻」を活用してサウナのロウリュに使う「芳香蒸留水」のようなものをつくれないかと模索を始めた。

そして、2022年夏。様々な方の協力を得て、出し殻から初めて「芳香蒸留水」を試作。蓋を開けて香ってきたのは、確かにスパイスや柑橘が入り混じったそのクラフトコーラの香りだった。

 

「香り」に特化して抽出した芳香蒸留水は、見た目も透明に近く、サウナストーンにかけても焦げ付かない。アツアツのサウナストーンに熱せられて立ち上がる水蒸気にも、確かにそのクラフトコーラの香りを感じた。嬉しさのあまり、幾度となくサウナストーンにかけ、蒸気を浴びていたことを覚えている。その後も試作・実験を続け、やはりクラフトコーラの出し殻ごとに、そのクラフトコーラの香りが宿ることがわかった。香り自体も心地がよいものだったため、「この香りで汗を流す。クラフトコーラ好きではなくとも、絶対に至福だろう」とサウナ好きの参加者を集め、様々な施設でクラフトコーラロウリュを開き、体感してもらった。

 

ただ香りを浴びてもらうだけではなく、隙間隙間でそのクラフトコーラや香りの正体やストーリーを補足した。クラフトコーラマイスターの本領発揮だ。参加者さんも香りを浴びて興味や好感を持ってもらえている状態で説明を聞くわけだから、こういう時にクラフトコーラはよく伝わる。そうしてたっぷり汗をかいた後には、もちろんロウリュで感じたクラフトコーラが今度は“飲み物”としてキンキンに冷えて待っている。言うまでもないだろう、最高なわけだ。

きっと、クラフトコーラの数だけ体験の多様さがある。深堀りがいがある試みだと感じている。メインの活動が多忙だったり、芳香蒸留水を製造する障壁が一定あるため、この取り組みは少しずつしか進められていないが、体感してくれたお客さんの満足度はとにかく高く、出し殻の第二の人生としてもクラフトコーラの伝わり方としても大きな可能性を感じているため、今後も続けていくつもりだ。

 

飲んで、香って、纏って、楽しみ尽くしたい!

かくして、クラフトコーラを“飲む以外”も含めて楽しむようになった。まだまだ様々な活用方法は残されており、例えば布や紙に対して「クラフトコーラ染め」なんかもあり得るだろう。また、出し殻を乾燥させて、アクセサリー的に活用する事例だって出てきている。衣食住の「衣」「住」に関する領域への展開は未知の可能性に溢れている。

このように、愛のぶつけ方がたくさん存在するが故に、愛がとどまることを知らない。きっと、人生を全うするまでずっとこれが続いていくのだと思う。

 

 

だとするならば、自分の可処分時間をいかに偏愛に割けるか、その快適度合を追及できるか、が大事になってくる。

それに、クラフトコーラはまだ発祥から6年で、語弊を恐れずに言えば“ぺーぺー”のジャンルだ。すでに「文化」と称され、ブレない価値と歴史があるジャンルならまだしも、クラフトコーラが生き残っていけるかは本当にこれからにかかっている。なんの保証もない。

クラフトコーラが市民権を得て文化として根ざしていけばいくほどに、もっともっと自分が偏愛をし続けられるわけで、自分の幸福度が上がることは想像に難くない。それに、クラフトコーラには人生の相棒になってくれた恩義を感じているので、クラフトコーラが文化として歩み続けていく一助となれるように、今後の自分の人生を使いたい。

クラフトコーラを美味しくつくることも、マスメディアよりも声を大きくして届けられるわけでもないけれど、自分が最もクラフトコーラを愛していると思うし、飲み手・独立的な立場だからこそ、その魅力をピュアに伝搬できるとも思っている。だからこそ、偏愛生活を通して発見したクラフトコーラの魅力を体感してもらえ、ビジネス的にも文化的にも持続可能な場をつくり、自分が人生を全うした後にもそれが続くように次世代に受け継いでいかねば...!と、最近自覚している。

 

 

まだまだ、クラフトコーラで伝えたいことは山盛りで、書きたい気持ちが止まらないが、ここらで一区切り。最後に伝えることでもないが、実はまだ本業を持つサラリーマンだ。社会人2年目で突如クラフトコーラに出会い、沼にハマり、気づけばこうなってしまっている。平日の早朝・深夜、土日でどうにかやりくりしているため、まずは自分自身をどうにかする必要がある(笑)。