クラブシーンでは異色の日本民謡をDJプレイするユニット・俚謡山脈。自分の知らない音楽を探求していった先に行き着いた、日本独自の民謡音楽の魅力について俚謡山脈のメンバー佐藤雄彦が語る。

我々にとって、民謡を聴くということは、貧弱だった民謡のイメージを一から作り直すことでした。ヒップホップのようなビート感のある民謡、ダブのような浮遊感のある民謡、ポストパンクのように性急で疾走感のある民謡、アンビエントのように静かで美しい民謡…… 今まで民謡をほとんど聴いてこなかった我々は、今まで聴いてきた様々な音楽のカッコ良さに民謡の魅力を重ねて楽しむようになりました。

 

日光和楽踊り(丸山テツ)

湯かむり唄(田中良一)

米沢盆唄(佐藤洲美江)

そこにはビックリするほど広い世界が広がっていました。西洋のビート感やメロディ、終わりと始まりが定められた形式から逸脱した、いや、逸脱しているというより全く別のルールに沿って作られている民謡の世界は、我々にとって暗黒大陸のように感じられました。自分たちが住んでいるこの日本で、全く気づかずに、とんでもなく広大な音楽世界が隣接していて、それに気づいているのが我々だけのように感じられたのです。

我々は暗黒大陸を開拓するように民謡のレコードを買いまくりましたが、その全てが魅力的だったわけではありません。むしろ全く逆で、何百枚というレコードを買っても、これぞ!という盤に巡り合わないこともありました。だから、これから民謡に触れたいと思う皆さんに一番伝えたいのは、「民謡はものすごく色々な種類があるので自分に合うものを見つけて欲しい」ということなのです。民謡はまさしく大陸であって、大陸には色々な場所があります。最初に触れた民謡がつまらないと感じても、また別の民謡を探してほしいのです。

 

大きく3つに分かれる民謡カテゴリー

我々の敬愛する民謡研究家の町田佳聲は、その広い広い民謡の世界を、大きく三つに分類することを提唱しました。

一つ目は、その土地で唄われて、生活の中で機能を果たしているもの。元々日本民謡は労働の中で唄われるのが普通でした。田植えから草刈り、石を切るとき、馬を引くとき、地面を固めるとき、洗う、干す、叩く、ほぼ全ての労働が唄と共にありました。これが一つ目の分類です。この第一分類は日本が近代化して労働が機械化するに従って消えてしまいました。しかも労働に伴って唄われるため、いわゆるポップミュージックとして扱われることはなく、レコードなどで一般的に聴かれる機会は非常に少ないのです。しかし、幸いなことに現在はApple Musicに町田佳聲が編纂した日本民謡の決定的なアーカイブである「日本民謡大観」が登録されており、容易に聴くことができます。

大黒唄(難波暎吉)

石切唄(柏木元市)

二つ目は、その土地で唄われていた民謡を観客のいる舞台に上げ、三味線や尺八といった楽器の伴奏を付けて楽しめるようにしたものです。これが現在に至るまで日本における民謡のイメージを形作っているスタイルと言えます。コブシの効いた歌唱に三味線、お囃子が特徴で、今手に入れることができる民謡のレコードは、ほとんど全てこの第二分類に相当します。その中でも、その土地の雰囲気を色濃く残した歌手と、民謡を単なる歌として扱う歌手とでは大きな差があります。我々はその度合いを測り、土地の匂いの濃淡を比較して楽しんでいます。

ホーハイ節(成田雲竹)

帆柱起し音頭(初代浜田喜一)

秩父音頭(小沢千月)

三つ目は、民謡を単なる歌として取り上げた歌謡曲、ポピュラー音楽です。そんなものあるの?って感じかもしれませんが、実際民謡のレコードを収集していると山ほど出てきます。日本には今までに何度か民謡ブームが起きています。第二分類で舞台に上げられた民謡は、やがてレコードになり、瞬く間に日本中に広まりました。その土地の、その作業の、その祭りの中だけで機能していた唄は、宴会やカラオケの定番として定着していったのです。そうして広まった民謡は200~300曲程度あり、これらを我々は「有名民謡」と呼んでいます。黒田節、おてもやん、花笠音頭、ソーラン節、炭坑節などがあり、それを題材にした歌謡曲やポップミュージックが多数作られました。近年ではバンド・民謡クルセイダーズなんかが、この分類に相当するでしょう。

真室川ブギ(林伊佐緒)

おてもやん(江利チエミ)

探究心がいい民謡と出合う鍵

さあ、民謡という暗黒大陸のザックリした地図が見えてきたでしょうか?試しにこの大陸に乗り込んでみようと思ってきましたでしょうか?厄介なのは見た目では判断が難しいということです。我々がリサイクル屋のジャンクコーナーを掘り始めたとき、民謡も演歌も詩吟も判断できませんでした。だってみんな筆文字で和装の歌手が写っているんだもの。それでも自分が好きになった曲名や歌手を頼りに掘り進んで行けば、「この県の民謡って全部カッコいいな!」とか「この唄とこの唄って似てるな!」とかいう、「普通の音楽と一緒の楽しみ方」ができるはずです。

それに、民謡の面白いところは、レコードやCDといった形になっていないものがものすごくたくさんあるところです。たとえば近所の図書館に行けば、その土地の民謡調査の記録が必ずあります。運が良ければ録音を聴ける場合もあります。学校の体育の時間にその土地に伝わる盆踊りを踊るケースもあります。民謡でDJをしていると、「この曲学校で習いました!」という反応をもらったりします。自分の近所の盆踊りがめちゃくちゃカッコいい場合もあります。我々がカッコいい盆踊りを求めて何時間もかけて訪ねて行った先でも、住んでいる人にとっては近所の盆踊りでしかなく、「なんでわざわざここまで来たの?」と言われますし。最近ではYouTubeやTikTokも民謡の宝庫と言えるでしょう。おじいちゃん、おばあちゃんが唄った映像を記念にアップしていたり、祭りの中で唄われる曳唄や甚句、様々な唄がネット上に溢れています。

南河内の曳唄

茅ヶ崎の甚句

さて、いかがだったでしょうか?日本に住んでいる限り、民謡という暗黒大陸はすぐ側にあるのです。最初の一歩を踏み出して、一緒に探検してみませんか?そしてヤバい民謡があったら教えてほしいのです。我々が訪ねて行きます。そして現場で一緒にブチ上がりましょう。