僕は長年グラフィック全般のデザインを生業にしていますが、周りからは変な物を集めている人だと思われています。「変」ではない、でも「偏」かもしれない。いかに僕が真面目にコレクションと向き合っているかをこの場を借りて証明できればと思っています。3回目は、C級スニーカーを集めていく中で出会った人々のことや、その人たちから教わったことについて語りたいと思います。
C級スニーカーを収集する上で大切なこと
C級スニーカーは店に行っても買えるものではなく、あったとしても、たくさんの人気スニーカーの中に1、2足、コロボックルのようにひっそりメジャースニーカーの影にたたずむ程度。古い靴屋さんを訪ねても、有名ブランドのデットストックはスニーカーコレクターが掘り尽くし、残ったC級スニーカーは店から売れないと判断され、処分されることも多々あります。スニーカーショップに行っても選べるほどの数はなく、逆にスニーカーとは関係ない場所に行く方が発見する確率は高いのです。これはどのジャンルでもそうで、ある程度の数を集めると壁にぶつかります。次に大切なことはいろいろなことに興味を持ち、アンテナを貼り、情報を広く拾ってアプローチすることが大切になってきます。
佐川急便スニーカーとの出会い
前回のJRの話は、もう“着る鉄”として、鉄道業者や鉄道グッズ関係者と仲良くなっていたので、わりと気軽に手に入れることができました。非売品などを手に入れるとなると古物商さんと仲良くなるというのも一つの方法でした。実際、近年に入手したC級スニーカーだと佐川急便のスニーカーがあります。それは当時、従業員に配布していたものらしく、ある中国地方の佐川の廃倉庫の建て壊しの際、瓦礫の山に埋まっていたそうです。
ある古物商さんたちが8箱見つけ、そのうちの一人が「4箱は手元にあるが全部どうだ?」と交渉してきました。「4箱か…。履く用、保存用…わかりました、買います」と交渉成立したのはいいが、届いたのは4カートンのダンボールでした。4箱だと勝手に勘違いし、48箱が家に届いてしまったのですが、部屋が佐川急便のスニーカーで埋め尽くされ、頭がおかしくなりそうでした。実際に発見されたのは8カートン、残りの4カートンは九州に流れてしまったそうです。ネットオークションで売ると値段が安くなるので、皆さんは地道に売っていくとのことでした。僕の4カートンはおかげさまで欲しい人にすべて譲りました。残りはどこへ…と疑問に感じますが、おそらく九州方面の骨董市にいくと出会えるかもしれないです。
好きなモノに熱中し、欲望や気持ちに従っていくと本来の趣旨とズレてしまうことがあります。「これじゃいかん!」「自分はC級スニーカーコレクターなんだ!」なんて思ったこともありましたが、好きで細かいことまで知っていくと、通になって、道が少しそれていくことなんてのは当然のことだと思います。スニーカーの場合、同じモデル・ブランドを集めたり、歴史や開発者、生産国、履いてる選手のスポーツに興味を持って、そのスポーツをやって、仲間ができて、別のことに詳しくなっていく…みたいなことがあると思います。自分の場合はたくさんの古物商さんとの出会いが大きかったです。
ルパンのキーホルダー
ある古物商の先輩と3年ほどフリマの隣りに座らせてもらうことがありました。その人はお店を持たず、フリマで出店料を払い商売しているのですが、全国にお客さんが付いているので、なるべく安い出店料で人も集まらない場所を好んでいました。フリマが始まったらレアな高額商品は常連さんに売り、1時間ほどで仕事は終わり。あとは敷いたゴザに安めの商品を置いて、お酒を飲みながらボーっと歩いてる人を観察するようなスタイルでした。
僕には決まったお客さんが付いてるわけではないので、フリマの終了時間まで必死に通行人に声をかけて接客をします。先輩はその姿をいつもニコニコ見ていました。ある日も先輩は早々に商売を終え、ビールを飲んでいましたが、ゴザにはルパンのキーホルダーが何個か置かれていました。モノとしては僕でも知っている価値のない、よくあるルパンのキーホルダーでした。レアアイテムしか売らない先輩がなぜこれを置いてるのだろうか…。不思議に思い「あの…それって、なんかレア物だったりするんですか?」と恐る恐るルパンのキーホルダーを目の前にビールを飲んでいる先輩に尋ねてみたんです。すると先輩は、
先輩「お前は昨日の金曜ロードショーを見たのか?」
僕「昨日ですか? いや、今日の準備があったので…」
先輩「今日ここでモノを売るのに昨日はテレビで何をやったか気にならないのか?」
僕「テレビですか?」
先輩「お前は今日の準備で大変だったろうけど、ここを通る人は昨日家で金曜ロードショーを見てるんだよ」
スマホで確認すると、昨日の金曜ロードショーは「ルパン三世 カリオストロの城」だったんです。
先輩「レアでも、価値のあるモノでなくてもいいんだよ。二束三文の価値しかないモノでもいいから置くんだよ。歩いてる人は昨日見た映画を思い出してここに立ち止まって、普段売れそうもないモノでも興味を示すようになるんだよ。そうやって人が歩く少し前にコレを置いて偶然や必然を感じさせるんだよ。それでその人がコレを手に取ったときに、何も知らない顔をして『ルパンお好きなんですか?』って聞いてみる。きっとその人は昨日テレビで見た映画の感想を俺に話してくれて、心も満たして帰って行くんだよ。もし、その人が『おれはルパンにはうるさいよ』なんて言ってくれたらしめたもんで、『いいモノありますよ』って…」
そう言うと先輩は後ろから袋を取り出し、中に入っていたレアなルパンを僕にチラっと見せてくれた。
先輩「おれはモノを売るっていうのは、そういうことだと思うよ。君は集めるプロかもしれないけど、そういう売る側や、買う側の心理も知っておくと不思議なもので、縁が深まって人やモノも繋がってくるんだよ。君はいつも心の中で、いい歳して、ゴザ敷いて地べたに座って商売して、少し恥ずかしいな…って気持ちがあるだろう? でも勘違いするなよ。いま地面に座って歩く人を下から見るだろ。この景色が1番人の心理が見えて面白いんだぞ」
その後、フリマ終了間近にレアなルパンは売れていました。
その先輩はいつも僕に集めることよりも、モノに対する人の真理を教えてくれた。それは一方的に自分の足で前に進み、集め続けるだけだった僕が意外にも気がつかなかったことでした。それから3年近く、その先輩の隣りでフリマに出ていましたが、如実に集める力が変わっていきました。
コレクションの旅はまだまだ続く
目的が違っていても自分が、自分だけが気になることを追求することは結果的にいろいろなことを知り、自分の生き方に反映されます。スニーカーに限らず、その人が自分の意思で集めて心が喜んでいるなら、それは立派なコレクションです。
いろいろと情報が豊富で生きやすい世の中だけど、ストレスが多いこの世界は何かを偏愛するぐらいが丁度良いのかもしれないです。