AKB48をはじめとする、女性アイドルの衣装を手がけてきた茅野しのぶさん。
「アイドル衣装の天才」として知られ、茅野さんが手がけた衣装を纏ったアイドルたちは、時代のアイコンにもなった。そんな彼女が、衣装作りの参考にしている間に夢中になったのは、《ビンテージバービー》。

ビンテージバービーとアイドル。異なる二つの世界が、茅野さんのクリエイティブな視点での偏愛によって交差する瞬間をお届けします。

 

情熱と誇りを感じる、最高峰のドール人形。

私は今年で衣装の仕事を生業として20年が経とうとしている。その僅か20年と同じ期間だけ発売していた幻のバービー人形に私はどハマりしている。

その名は、『バービー ファッション モデル コレクション』。

バービー人形……。そう聞くと恐らく多くの読者の皆さんは、ショッキングピンクの世界に包まれた、お目目クリクリのバービー人形を思い浮かべるのではないだろうか?
しかし、私が愛してやまないバービー人形は、その正反対の姿をしていると言える。
切れ長の目とポテッとした唇、ニコリともしていない真顔。1960年代のシックでエレガントなファッションに身を包み、媚のない気品あふれる姿。その姿に真の女性らしさを感じ、私は恋をしてしまったのだ。

衣装は本当に魅力的で、職人技が光るビーズ細工や細かい装飾。高級ブランドを彷彿させる完璧な仕立てと、それに合わせたヘアメイク。制作しているMATTEL社の情熱と誇りが感じられ、まさに私にとっては最高峰のドールである。ミニチュアとはいえ、広く見れば同じ衣装業界。そこに制作者のこだわりと、それを実現するための努力がどれほど注がれているのか、想像に難くない。

 

トキメキは細部に宿る。バービー人形とわたしが作る衣装の共通点。

私は衣装をデザイン・制作する上で、とても大切にしている言葉がある。それは、師でもある秋元康さんからあるとき言われた「人に感動の涙を流させたいなら、作り手側はその三倍汗をかかなければならない」という言葉だ。例えば、ライブで幕が開き、推しメン(推しているメンバーの略)が現れる瞬間。今日この場に来て良かったと感じられるような感動が生まれるように、私は衣装を制作するようにしている。

これは大げさな話かもしれないが、この世の中には「どんなに大変な毎日でも、推しに会えるから…推しの輝いている姿を見られるから…そこに存在してくれているから…」と日々の仕事や学業を頑張っている方々がいる。頑張った日々の先にある『推しと過ごす最高の時間』がライブだと私は思っている。だからこそ、その時間には最高に輝いている推しの姿を目に焼き付けてほしいし、「この人を推していて良かった」と思えるような、幕が開いた瞬間にまた恋に落ちるような、トキメキを感じて欲しい。そして、そのトキメキを衣装にも込められると信じて、私は今までやってきたのだ。

それと似た感覚に陥ったのが、まさにこのバービー人形であった。たまたま1940年代~1960年代のファッションをテーマにデザインを考えていた時、ネットで偶然見つけた。可愛いなーと思い、何となく購入して手元に届いた。リボンを外し高級感溢れる箱を開けた瞬間、そのあまりの高貴な顔立ちと衣装の完成度に感動し、手が震えてしまった。もっと他の洋服を着たバービーも見てみたいと、デザイン画の締め切りを背後に感じつつも夢中で調べてしまった。そこから私は急速にビンテージバービーの沼にハマってしまったのだ。

バービー人形をよく見てみると、魅力的なデザインは細部への並外れた配慮によって成り立っている。箱を開け、コレクションケースに飾ると、その繊細さにため息が出るほどの愛しさを感じた。それは、私が衣装を作る際に大切にしているポイントでもあり、強く共感した。

大好きな推しメンがテレビに大きく映ったときや、ライブで近くに来たときに、「なんて可愛らしくて儚い存在なのだ!」と、自分だけの宝物を見つけたような感覚を抱いて欲しいという思いから、私は細かい装飾を施すことを大切にしている。それは、トキメキは細部にこそ宿ると信じているからである。
 

子ども向け玩具としての、あるべき機能性

ファッションを多種多様に表現している点もバービー人形の魅力の一つだ。衣装の多さはもちろんのこと、様々な職業に扮したコスチュームなど、時代ごとのアイデンティティを大切に表現している。昨年公開されたバービーの映画では、「人は何にでもなれる」というのが具現化して描かれていた。

もともと子ども向けの玩具として誕生したバービー人形は、遊ぶ子どもたちに大きな影響を与えるため、教育的役割も担っているように感じる。常に社会の変化をいち早く察知し、時事的な問題をデザインソースにしたものも多く発売している。私が愛してやまないファッションモデルコレクションのバービー人形も、より多様な肌の色や、似合った髪型をしている。それは、子供たちがこれから長い人生を歩み、多種多様な人々と出会っていく中で、例え自分とは異なる見た目をしていても、子供たちが様々な特徴を持つ人々を尊重し、その多様性を自然に受け入れるきっかけになると思う。
また、夢を持つことは、憧れから始まると私は思うので、様々な職業のファッションに触れることで、職業がより身近に感じられたり、格好良さに興味を持つキッカケに繋がっていると感じた。

バービー人形の一つ一つの細部への徹底したこだわりが、私を魅了している。それは、私の衣装という仕事にも通じており、共感することでもある。きっとこの先も、私はこのバービー人形に恋していくだろう。