ある日、車を走らせていると木々の間から姿を現した牛久大仏。その姿を目にしてから、大仏めぐりの日々が始まった。どんな部分に衝撃を受けたのか、どんな部分に魅了されているのか。前編では、半田カメラ氏に大仏について語っていただいた。

 

孤高のヒーロー牛久大仏との出会い

もともと高層ビルやタワー、鉄塔など高い建造物が好きでした。空に真っすぐ伸びる建造物を見付けると自然とカメラを向けてしまいます。ただ私のその「好き」は新宿だとか渋谷だとか、高層ビルが乱立する場所では、あまり発動しません。周囲に高いもののない場所にニョキッと建つ建造物、こうしたものに私の「好き」は発動しがちです。

例えばお花見でも数千本のソメイヨシノが咲く桜の名所より、巨大な一本桜の古木に強く惹かれます。つまり、周囲に並ぶもののない孤高の存在に言い知れないカッコ良さを感じるのです。私の脳内ではタワーや一本桜が孤高のヒーローに変換されていたのだと思います。ヒーローとは常に孤独。それがカッコ良い。

そんな私が日本一像高の高い120メートルの大仏さま、牛久大仏と出会ったのは今から15年ほど前のこと。車を走らせていると木々の上から、大仏さまの上半身がヌッと飛び出しているという、それまで目にしたことのない光景に、あやうくハンドル操作を誤りそうになりました。ありきたりな表現ですが、まさに「衝撃が走った」という言葉がしっくりきます。

 

 

茨城県牛久市の牛久大仏が立つ周辺は、今でこそアウトレットモールなどの商業施設が建っていますが、民家や畑が広がるのどかな地域で、周囲に高い建物はあまりありません。そんな風景を切り裂くように現れる人型(仏さまなので人ではありませんが)の像はまさに孤高の存在。それまで脳内変換されていた、孤高のヒーローがそこにいたわけです。私にとって牛久大仏はリアルSFヒーローでした。

遠くから眺める牛久大仏は120メートルの大仏さまのある「光景」として衝撃でしたが、近くで見上げる牛久大仏は「体験」として衝撃が襲ってきました。牛久浄苑内に入り足元から大仏さまを見上げると、恐ろしいまでの大きさに身震いするほど。まるで自分がSFの世界に入りこんでしまったような錯覚に陥るのです。これが同じ高さのビルであれば、そうは感じません。大仏さまとの出会いは、その後の私の生活を変えるものになりました。

 

真下から見上げた牛久大仏。

 

探してみると、出てくる出てくる巨大仏

牛久大仏に出会い衝撃を受けた私は「このような大きな仏像は他にもあるのか」と疑問に思い、巨大な仏像「巨大仏」について調べはじめました。すると出てくる出てくる...私の住む関東だけでも40メートルを超える大仏さまが、牛久大仏の他に2体、20メートル以上40メートル未満の大仏さまが6体。ざっと探しただけでもこれぐらい見つかりました。そして驚くべきことに、日本人なら誰もが知る鎌倉大仏はこの中に入っていませんでした。鎌倉大仏は像高11メートル、台座込みでも13メートルほどで、20メートルに満たないからです。牛久大仏は鎌倉大仏を縦に9体重ね上げた大きさに相当します。いかに牛久大仏が大きいか想像していただけると思います。

 

牛久大仏の足元。下に小さく写るのは参拝客。

 

多くの日本人がそうであるように、それまでの私にとって「大仏」と言われて思い浮かぶのは「鎌倉大仏」と「奈良の大仏」でした。この両大仏とも実際に目の当たりにすると大きさに圧倒されます。にもかかわらず、鎌倉、奈良の大仏をしのぐ大きさの大仏が関東だけでもこんなに存在しているのです。「こうしてはいられない、近くの大仏さまから会いに行ってみよう!」そう思い立ち、私の大仏めぐりは始まりました。

実際にめぐり始めると、大きさだけではない魅力も見えてきます。大仏さまによっては大仏胎内に入ることができ、内部構造が魅力的だったり。大仏建立に至る壮絶な人生ドラマを知って感動したり...。そうして最初は関東のみだった大仏捜索範囲は徐々に東北、北陸、中部、さらには日本全国へと広がっていきました。はじめは大きさにこだわりがありましたが、大きさ以外の魅力がわかるとそのフィルターはなくなり、さらに捜索対象は広がります。そのうち撮影した大仏さまは200体を超え、撮りためた大仏写真を展示した写真展を開催、大仏に関する連載、さらには本まで出させていただくことになりました。本当に人生ってどう転ぶかわかりません。

 

牛久大仏の胎内入り口。

 

そもそも大仏の定義とは

私が大仏めぐりをはじめたきっかけを語ってきました。そもそも「大仏とは何か?」という定義をご存知でしょうか? 仏さまの像を「仏像」といいますが、その中でも大きい仏像を「大仏」と言います。「仏像=大仏」と思っている方がいらっしゃいますが、基本的に小さい仏像は大仏とは言いません。

ではこの「大きい」の基準はどのくらいかご存知ですか? これには定義が存在します。仏教を開いたお釈迦さまの身長です。何とお釈迦さまは身長が一丈六尺(約4.8メートル)あったとされているのです(お釈迦さまはインドに実在した人物なので、伝説のようなものとお考えください)。もちろん例外もありますが、一般的に立っていると4.8メートル以上、座っている場合は、その半分の2.4メートル以上の仏像を「大仏」と呼びます。つまり、お釈迦さまより大きければ「大仏」なのです。

 

 

前述したように「大仏」と言われてイメージするのは「鎌倉大仏」と「奈良の大仏」という方が多いと思います。ですがこの「一丈六尺」を基準にそれ以上の仏像を「大仏」とするならば、日本国内には500体...いや、それ以上の大仏さまが存在しているのではと言われています。そして、こうしている間にも大仏さまは増えつづけているのです。あなたが知らないだけで、あなたの住む街のお寺にも大仏さまが、とてつもないオーラを放ちながら静かに座っているかもしれません。街を見渡す高台に大きな観音さまがまるで孤高のヒーローのようにスクッと立ち、街を見守っているかもしれません。あなたの近くにもきっと大仏さまは存在しています。一度、近くのお寺を参拝してみてはいかがでしょう。今まで気付かなかった発見や衝撃があるかもしれません。そして大仏さまを見付けたら、私にご一報くださると有り難いです。

 

All Photo by 半田カメラ