僕は長年グラフィック全般のデザインを生業にしていますが、周りからは変な物を集めている人だと思われています。「変」ではない、でも「偏」かもしれない。いかに僕が真面目にコレクションと向き合っているかをこの場を借りて証明できればと思っています。2回目は、C級スニーカーにハマった僕が、その探究心を加速させ新たに目をつけた“あるスニーカー”について語りたいと思います。

 

マイナーヴィンテージスポーツブランドのスニーカー

1970年代、アメリカではジョギングブームがおこり、その流行に乗ってたくさんのブランドスニーカーが発売されました。ほとんどはブームの終焉と同時に、ブランドの消滅や他社の吸収により存在がなくなってしまいます。当時の雑誌やネットなどいろいろな方法を駆使し、ブランドの存在を見つけ、探して、買って、履いて、飾って、を繰り返し、C級スニーカーというものを自分の中で確立していきました。その年代のスニーカーはソールが硬くなることがあっても加水分解しづらく、状態の良いモノだと履くことも可能でした。

ただ同年代のマイナーブランドのスニーカーを集め、細かい魅力に気づいてしまうと、それだけじゃ物足りない、もっと誰も知らない、履かないスニーカーが欲しくなり、非売品や業務用のスニーカーにも目がいってしまいます。その代表的なものが数年前、C級スニーカー界隈で話題になった鉄道会社JRのスニーカーでした。

JRスニーカーとの出会い

元々はファッションでフランスのカバーオールを着ていたのですが、値段が高く、同じ紺色だし、国鉄(※1)のナッパ服(※2)もヴィンテージのワークシャツだろうという安易な考えから、普段着として着用していました。

※1:日本国有鉄道の略。日本が運営していた公共企業体で 1987年国鉄分割民営化に伴い、JRグループ各社及び関係法人に事業を承継した。
※2:戦前から採用されていた紺や青色の綿作業服を広く指す言葉、洗濯後もしわくちゃになるため、まるでしおれた菜っ葉のように見えることから、ナッパ服と呼ばれるようになった。

国鉄シューズのソール裏

周りの知人たちは国鉄の知識もなく、現役の鉄オタは現行の制服に近いほど価値があるそうなので、逆を行った僕の“着る鉄”は、ねじれの法則で誰にも注目されませんでした。脇腹あたりに懐中時計を入れるポケットや金のボタンなど、色や形もそそられる作りで、個人的にもお気に入りの1着として愛用していました。そのうち、「どうせならズボンも合わせてセットアップにしよう」「こうなったら帽子も国鉄だ!」と誰にもバレないのをいいことに、全身国鉄コーデで町を歩くようになるのですが、最終的にスニーカーも欲しいと思うようになってくるわけです。

当時はストライキの度にバッジも作っていたようで、僕は個人事業主なので打ち合わせの際はさりげなく「反失業」のバッジを付けて挑んだのですが、誰にも気づかれたことはなかったです。

でも、なんとなく駅員はスニーカーよりもブーツのイメージがあったので、気になって調べてみたんです。そしたら国鉄にもスニーカーがあって、「月星」や「世界長」などのメーカーが作っていたことが分かりました。業務用なので、ブランド名はソール裏に小さく入ってる程度で、色は黒か紺色で、シューホールの形が2種あるのが特徴です。あとはつま先まで割れている方が電車界隈では人気があるそうです。ただ、1足1,500円ぐらいから買えるけど、ソールが薄く、履きづらいのも難点でした。
そんな時に見つけたのがJRのスニーカーでした。 1987年、国鉄分割民営化の頃は予算もあり、社員に支給するため、こういったスニーカーを作る余裕があったそうです。ベロに大きなJRロゴ、色も良く、履きやすいとあって、僕の国鉄コーデはさらに進化していくのです。

JRのスニーカー。ベロには誰もが目にしたことのあるJRのロゴが。

暴走する国鉄コーデ

ある日、原宿から渋谷駅に歩いていると世間はハロウィンでした。渋谷の駅はコスプレする人でごった返しており、「これがハロウィンか…」と思いながら駅に向かっていると、バニーガール姿の女性二人が近づいて、僕とスリーショットを撮ってきたんです。「ハロウィンは一般人をも巻き込む、なんてハレンチなイベントなんだ!」と昭和な僕はビックリしていたのですが、そこで一人の子が「私のお父さんも電車が好きなんです」と言ってきたんです。僕は「バレてるのか?! 鉄道員だと思って一緒に撮ったのか!?」と思わずハッとしました。

そういえば先日もおばあちゃんに乗る電車を尋ねられたり、ホームでやけにみんなが話しかけてきたり、外国人に話しかけられトランクを持って階段を一緒に上がったり、足が悪い人の車いすを押しながら道案内をして「気になさらず! ははっ」とか言ったことがありました。良かれと思いなんの疑問もなく普通にやっていたけど、「みんな僕を駅員だと思っていたのか?!」と。今も山手線に乗っているけど、乗車していた駅員を見ると少しニヤニヤしてるようにみえて、なんだか恥ずかしくなってきました。

JRのスニーカーを履いているお友達と記念撮影

それ以来、“コーディネートの中に国鉄は1つ”というルールを決めました。話がそれましたが、JRのスニーカーはとても履きやすかったです。見つけるのが難しいけど新品で2,500円程度で買えて、買う度に箱が違うのも作っている工場の忖度なのか微妙なデザインチェンジや素材違いもあり、壊れても修理して履くこと10足以上。最初はいろいろな人に笑われましたが、履き続けることで、だんだん欲しいという人が増えてきました。風の噂で、都内のセレクトショップで販売されていたという情報を聞いたときには可笑しく思えました。今では人気が出てしまい、僕でも買えないほどの値段で販売されるようになってしまいました。しかし、それはそれで喜ばしいことでまた新しい切り口でC級スニーカーを探す楽しみが増えるだけなのでした。