海へ行くと、浜辺や沿岸で見かけるコンクリートの巨大な物体。
それはテトラポッドでおなじみ「消波ブロック」。

そんな消波ブロックに惹かれ、コンクリートと海水にまみれた渡邉が語る「消波ブロック」の魅力とは。
 

誰もが知ってる”テトラポッド”って、一体ナ二?

消波ブロックの代名詞テトラポッド シンプルなやさしい曲面で見る者を魅了する

 

テトラポッドという名前を一度は聞いたことがあると思います。
放射状に脚が伸びた奇妙な形のコンクリートブロックですが一般名詞では消波ブロック呼ばれ、その名の通り「波を消す」用途のコンクリートブロックです。
テトラポッドは数ある消波ブロックの一つの商品名で登録商標となっており1949年にフランスで開発された世界初の消波ブロックで、日本を始め世界各国でその姿を海辺で見ることが出来ます。
 

消波ブロックはどうやって波を消す?


 

防波堤や沿岸に作られた道路に沿って据え付けられて構造物が波の強大な力で破壊されるのを防いだり、海水浴場の波を穏やかにする為に設けられています。
その仕組みはブロック自体で力を受けたり積み上げたときに出来るブロックの隙間へ波を取り込み波同士をぶつけることで力を打ち消しています。

 


 

実際に波の高い日に浜に積み上げられたブロックを近くで見ると波が当たった重低音の後、ブロックの隙間から足元にさーっと海水が出てきます。護られていると感じる瞬間です。
積み上げるタイプのブロックの多くは正四面体もしくは点対称の四本脚の形状をしていますが、これは最も安定している形であるのとブロック同士の噛み合いを強固にする為です。
面白くも奇怪にも見える形は波という強大な力と闘う為に脚の太さや角度など非常に計算された形で、設計者の血と汗と涙と努力の結晶なのです。

 

実は多種多様。テトラポッドだけではない、さまざまな国産消波ブロックの登場

テトラポッド登場後国内開発もされ、国産第一号は1958年登場の六脚ブロックと呼ばれるテトラポッドとは対照的な直角と平行なアウトラインが特徴のブロックです。同時期に登場した中空三角ブロックなどと共に今も販売が続けられています。
現在日本国内で見られる消波ブロックは据え付け方法により立体形、平型、階段型、直積型、函塊型、堤防被服形に分類されますがそれらを全部合わせ、既に廃版になってる物、地域限定の物、一箇所だけにある特殊な物などレアアイテムを加えると300種程あるようです。
海岸や川のコンクリート塊はかなりの種類がありそれぞれに名前があるのです。

 

六脚ブロック とにかく直角平行だが積まれた上は歩きにくい

 

中空三角ブロックは1960年登場 海岸が楽しい雰囲気になる

 

”コンクリートの大きな塊”と私のファーストミート

私が消波ブロックに魅せられたのは1993年の北海道旅行でした。車でグループ旅行だったのですが沿岸の道を走っているとあちこちに奇妙な形をしたコンクリートの大きな塊が置かれているのを目にしました。消波ブロックを作っている現場だったのですが、一体成形のコンクリートが醸す重量感と恐怖感。なのに珍奇。そんなのが何種類もの形があることがわかったらマニア魂に火が着かないわけがありません。

 

ジュゴンブロックの製作現場 北海道旅行ビデオより

 

三柱ブロックの製作現場 北海道旅行ビデオより

 

手始めに東京へ戻ってから近所の川や東京湾で写真を撮ることから始めました。
インターネットなど無くて消波ブロックに関する情報はなんの手がかりも得られず、区別の為に名前も我流で「角テトラ」「トド」と呼んでいました。

 

”角テトラ”ことシェークブロック

 

”トド”ことシーロック sealとblockを合わせた名前。sealはオットセイなので海獣という認識は合っていた

 

ネット環境を手に入れた20世紀末、まず検索したのは「テトラポッド」でした。日本消波根固ブロック協会のサイトで公開されている形状一覧表で各モデルの名前が判り、暗中模索だったブロック趣味の視界が一気に明るくなることになります。
コンデジでフィルムの残数を気にすることなく積極的にブロックの写真を撮りに出掛けるようになり航空写真でブロックの在処を捜すことも可能になりました。

ブロックの情報を集めていて土木・建築・インフラ系のマニアサイトはあるのに消波ブロックはないのが不思議でした。こんなに身近にありながら面白い物の記録が残らないのはよくない! ということで消波ブロックマニアサイトの開設を目指し日本全国に範囲を広げブロックの型式や据え付け状況を記録する「調査」を始めました。
その際、ブロックの質量も記録するのですがもちろん何トンもあるので計ることは出来ませんがメジャーで質量が判ります。

 

 

殆どの現行品ブロックはメーカーからカタログが公開されていて細かい寸法が記載されています。
そこで判りやすい箇所の一辺の長さを測り後でカタログと照らし合わせ質量を割り出します。
何度もくり返していると大きさで大体判るようになります。

 

ブロックのイイ表情を見つけては得る充足感

ブロックが海岸や川にあるのは至極ありふれた光景ですが、積まれたブロック一つ一つにクローズアップしてみると実に色々な表情をしています。真っ白で粉っぽい新品だったり、激しい波にもまれ原形がわからなかったり、脚がもげてしまったり、海藻や貝がビッシリ付いたり…群の中に居て一見他と差がないように見えても一つだけ主張が激しい個体に会えたりすると表情が見え(幻覚)女優を撮るカメラマンの如く「いいね! こっち見て笑って!(自分が動く)そうそうそうそう! サイコーだね!」と口に出すこともあり非常に充実した気分が得られます。

消波ブロックと聞いて思い浮かべる大きさは漁港などの防波堤で見られる成人が見上げる程度の高さの10トンクラスなんじゃないかと思いますが、20トン(約3メートル)あたりから威圧感を覚え、50トンでは恐怖、最大級80トン(5メートル)は逃げたくなってきます。
繰り返しになりますが、恐怖で危険なのに面白い形なんて本当にヤバイ物体です。

巨大なブロックがあるところは波も大きいので大体立入禁止になっていますが、積まれたブロックの隙間に落ちると上がることは不可能ですのでもしも近寄る機会があっても慎重に観察しましょう。

 

摩耗し海藻が着いたシェークブロック 隣り合っている物と同じとは思えない

 

元々はブタ鼻のような愛らしい形をしているロウタスユニも遺跡の様相

 

消波ブロックという正四面体で四本脚の丸っこい、あるいは直線的だったり判りやすい形状を思い浮かべると思います。
2010年前後から既存のモデルを改良し、表面に凹凸を増やしたかなり複雑な形状のモデルが登場しています。これは積み上げた際に波を消す空間を少しでも多くしたりブロック同士の噛み合いをよくして崩れにくくする目的の他、海藻や貝類の着生を促して環境に配慮した結果でもあり「テトラネオ」「シーロックアドバンス61」「シェークエボ」等、次世代を意識した名前が付けられています。

 

ラクナ・IV 2007年登場の次世代複雑系ブロックの先駆け

 

テトラネオ 2010年登場。テトラポッドの進化形で今のところ世界一複雑かもしれない

 

シーロックアドバンス61 2013年登場 宇宙で闘いそうな未来派

 

従来でも直線的で凸凹したブロックはいろいろありましたが、21世紀の複雑な凸凹は防波堤の風景をスパイシーにしています。まだ見られる機会は少ないかも知れませんが、徐々に生息域を拡大し従来型と共に波に洗われて景色に馴染んでいく彼らの今後を見守っていきたいと思います。

そんな事を書いていたら、存在は知っていた物のまだ実物に会ったことがない新型消波ブロックの画像を見つけました。
数年気分が沈み込んでなんのやる気もない毎日ですが久しぶりに脳から何かが出ました。
この感覚が味わいたくて消波ブロックを探していると言っても過言ではありません。
無機質ですが会うと心躍るいいやつらです。心の友です。


では場所の特定を急いで調査しに行きたいと思います。

今後の調査報告は沿岸防衛体研究所にて。