1年に約3,000杯のクラフトコーラを飲み、日本各地で振舞い尽くしの日々を送るクラフトコーラマイスター・鯉淵正行が語る、クラフトコーラの魅力と偏愛生活。

 

ただの下戸、ただのコーラ好き。

小さい頃からコーラが大好きだった。誕生日会のパーティー、ファミレスでたむろする時、学校帰りのコンビニ。楽しい記憶の片隅にはいつもコーラがあった。成人になってからお酒を嗜もうと挑戦したものの、アルコール虚弱体質な両親の血筋を完全に受け継ぎ、全く楽しめなかった。大学の飲み会で「ほろよい」でダウンしてしまったのは苦い思い出だ(「ほろよい」なんて冗談やめてくれ...!と強く思った覚えがある)。

それを機に「自分はお酒と縁のない人生なんだ」と開き直り(腹を括り?)、一層コーラを愛飲することになった。宴会の席や、仕事終わり、お風呂上りの一杯。「相棒」のように感じていた。でもそれは、寂しさを埋める一種の依存行為だったかもしれない。

 

 

美味しいし一定満足はしていたが、酒呑みたちが推しの1本を家宝のように家に迎えたり、複数の銘柄を飲み比べたり、違いが分かる顔をして製法やストーリーのうんちくを語っていたりする様子を見て、コーラでそこまで至れていなかった自分は、羨ましさと一抹の寂しさを抱えていた。

 

彗星の如く現れた、救世主「クラフトコーラ」。

あれは、2018年の末頃だった。週末はマーケットイベントに訪れることが通例となっていた自分は、いつものようにSNSでイベント情報を眺めていた。すると、東京の青山ファーマーズマーケットのイベント情報で「クラフトコーラ」という言葉を目にした。

「....?」

一瞬、時が止まったことを覚えている。当時「クラフト〇〇」というフレーズを時折目にしていたため「クラフト」自体には多少慣れていたが、「コーラ」は別だった。「クラフト」が冠につく言葉史上、最も対極に位置すると言っても過言ではない程にジャンクで工業的な存在だと思っていたからこそ、とにかく驚いた。

と同時に、身体のありとあらゆる細胞・血がたぎり、心拍数が跳ね上がっていた。もしも、いわゆる「クラフト」が提供し得る「高次元の美味しさ」「自然素材」「製法のこだわり」「作り手のエゴやストーリー」をコーラで味わえる、なんてことが成立したのなら。自分にとっては運命の存在ではないかと直感した。いてもたってもいられず、すぐに飲みに行ったところ、一発で心が奪われてしまった。

 

 

その正体は、『伊良コーラ(イヨシコーラ)』。クラフトコーラの先駆者であり、「クラフトコーラといえば『伊良コーラ』」という程に代表的な存在。「聞いたことがある」「飲んだことがある」「愛飲している」方も多くいるだろう。この『伊良コーラ』の魔法に出会ってしまい、そこから完璧に人生が狂っていくことになる。

 

 

暫くは、『伊良コーラ』をひたすらに飲んでいた。幸運なことに『ともコーラ』というクラフトコーラにもすぐに出会うことができ(当時は2種類しか存在していなかった)、「クラフトコーラ」というジャンルを好きになった。

 

 

以降、クラフトコーラの種類が増える度に、嬉々として取り寄せ、楽しみ、家や財布の中が荒れる。その繰り返しだった。

各銘柄の紹介やクラフトコーラ愛をSNSで喚いたり、人に飲ませていると、次第にメディアから声が掛かったり、イベントに招待されるようになった。気づけば、我が物顔でうんちくを語ったり、「クラフトコーラマイスターだね」と多方面から言われるようになり、発信・振る舞い活動を本格的に行うようになったのだ。

 

 

クラフトコーラ、とは。

ここで、クラフトコーラ自体のことを少し紹介しよう。

 

 ・定義
クラフトコーラとは何か。諸説提唱されているが、筆者は「コーラの原点に回帰して「コーラナッツ」や「スパイス」「柑橘」「砂糖」等の自然素材を活用し、作り手のエゴ(ストーリーや想い、美味しさの追求)を何よりも優先して製造されたコーラ」だと考えている。 

 

 

コーラの原点は『コカ・コーラ』であり、1886年にアメリカ・アトランタで薬剤師「ジョン・ぺンバートン」氏が作り始めたところから始まる。当初「コーラナッツ」と「コカの葉」を活用していたことから『コカ・コーラ』と名付けられたと言われている。また、苦味を抑えるためにオレンジやレモン、シナモン、バニラ等の柑橘・スパイスの香り成分(「7x」と言われている)や砂糖を使っていたことも有名だ。

 

 

クラフトコーラの本格的な発祥を担った『伊良コーラ』がまさにこのレシピに基づき、自身のルーツである漢方のエッセンスを加えて試行錯誤を重ね、現代的な形へとアップデートしている。故に、コーラナッツ等のスパイス、柑橘、砂糖など自然素材を活用していること、これがひとつのお作法といえよう。

 

・クラフトコーラカルチャーの変遷

2018年の『伊良コーラ』『ともコーラ』の登場を皮切りに、2019年にはローカルクラフトコーラの事例が登場。2020年にはすぐ飲める炭酸飲料タイプ(瓶)やメーカー直営店が登場。2021年には大手メーカーからも商品が登場してブームのような現象が発生。2022年には人気テレビ番組での特集や大型商業施設での催事が相次ぐ。2023年にはすぐ飲める炭酸飲料タイプ(缶)が登場。超絶ざっくりだが、このような軌跡を歩み、今では日本全国、飲食店がつくる自家製コーラも含めると4桁を数えてもおかしくない。

 

 

クラフトコーラ中毒になったワケ。

なぜ筆者が1日に最低5杯、1年に約3000杯のクラフトコーラを飲む程になってしまったか。その言い訳を4つの観点で以下に羅列する。

 

①快楽・嗜好性のある味わい
きび砂糖、黒糖、白砂糖….、どんな種類の砂糖をどのような配合で活用するかはブランド次第だが、コーラらしさの一つである「甘さ」は、やはりわかりやすい快楽でクセになる。また、柑橘を使うことも多く、爽やかな酸味が効いているから飲んでいて気持ちがいい。スパイスやハーブの香りも、上手に効かせてくるブランドのそれはアクセントとしてたまらない。そんな“快楽のトリプルパンチ”がクラフトコーラにはあるのだ。

 

 

その上、味わいに多様性がある点も魅力だ。スパイス×柑橘×砂糖の方程式の中で、具体的にどんな素材を何種類、どのような配合で活用するかは作り手に委ねられており、選択肢がかなり多い。コーラのポップな≒自由な雰囲気も相まって、どうしたって多様性が生まれやすい。

筆者は下記のように「甘味が特徴⇔酸味が特徴」(縦)「スパイス感が強い⇔穏やか」(横)で分類をよく行っているが、見事に分布がばらける。いまどんな気分か、どんな香り・味わいが欲しいか、自分のニーズに細かく合わせて飲むことができたり、飲み比べがはかどるわけで、これがまさに「沼」要素である。

 

 

②多様な楽しみ方
クラフトコーラは製造障壁の観点でシロップ商品で販売されることが多く、故に炭酸水と割るスタンダードな楽しみ方以外でも楽しむことができる。「砂糖とスパイスと柑橘を煮詰めたシロップ」だし、もとよりあらゆるコーラカクテルが長年愛されてきたり、コーラ煮(コーラで煮込んだ角煮)等もあったくらいだ。割材・調味料としての万能性に、疑いの余地はない。

 

 

例えば、ロック(氷を入れたグラスにシロップを注ぐ)で飲んでライムをかじってもいいし、お湯で割ってもいい(スパイスの香りが最も引き出される!)、ミルクや紅茶と割ってもいい。はたまた、パスタのソースに活用してもいいし、お菓子作りに使ったっていいわけだ。その気になれば食生活のあらゆるシーンにいくらでも登場できるほど汎用性が高く、ついつい様々な楽しみ方で満喫してしまう。これも「沼」要素だ。

 

③飲み手を語り部にさせる、多様で発展途上なクラフツマンシップ
クラフト品らしく、日本各地から様々なブランドが生まれていて、十人十色のストーリーを持つ。基本的に小規模であるため作り手の「個人」が見えやすく、故にクラフツマンシップを具体的に感じることができる。そして、発祥してからまだ6年であり、「製法・表現の追求」よりもブームに乗り遅れないことが優先されてきた側面も強いため、実はクラフツマンシップを発揮できる切り口がまだまだ多数眠っている段階なのだ。
 

最近感動した銘柄だと、2023年11月に登場した「Outlier Cola(アウトライヤーコーラ)」は、ほとんどの銘柄が採っていると考えられている「煮詰め製法」を一切採らず、クラフトジンでメジャーな製法である「水蒸気蒸留製法」により高濃度のスパイス・ハーブウォーターを生成することでコーラシロップに活かしている。

 

 

クラフトコーラにとって画期的な出来事であり、故に唯一無二の香り・味わいを引き出しているわけだが、このようにクラフト品だからこそ持ち得る多様なクラフツマンシップに加え、新しいジャンルだからこそ新しい切り口・表現がコンスタントに生まれる。つまり、いちいち感動できる機会が多いのだ。これも「沼」要素だ。

 

④類をみないポップさ
これまで語ったことは多くのジャンルに言えるとも思うが、コーラがユニークなところは、コーラが誕生以来培ってきた「類をみないポップさ」であり、故に上述の「沼」要素をブーストしていると考えている。「圧倒的なポップさが担保する、表現の自由・寛容性」とも言えようか。

原材料にしても味わいにしても楽しみ方にしてもクラフツマンシップにしても、「コーラ」というポップで自由な気風があるために、本来ならオルタナティブの文脈で後出し的に提案される「意外な一手」が、クラフトコーラの場合はジャンルの誕生から5年以内に同時多発的に悪気なく生まれていて、故に早速バラエティに富んでいる。だからこそ、ノンアルコールドリンクの文脈ではなく、「クラフトコーラ」という一つのジャンルとして早くから体を成すことができていると思うし、これがたまらなく楽しい。

 

 

完璧に狂わされた人生。

上述したような経緯で、見事に「我、クラフトコーラ中毒なり」という状態になっているわけだ。今の暮らしは、「クラフトコーラを楽しむために」が全てで、どの時間帯もクラフトコーラと共にいる。

部屋では、普段イベント出店する時に展開するブースを再現している。クラフトコーラを振る舞うことが生きがいであり、いつか自分のお店を持ちたくて仕方がない自分にとっては、ベッドやダイニングゾーンがいくら狭くなろうが、これが最も幸福を感じる最適解だった。※この間取りは、1DK(ワンダイニングキッチン)ではなく1BK(ワンブースキッチン)と呼んでいる。

 

 

このブースはワークスペースのすぐ後ろにあり、仕事中もご飯中もいつなんどきもクラフトコーラを飲まなければ気が済まない自分にとって、とても理にかなっているレイアウトだ。

 

 

また、一時期までは他の食材等と一緒にクラフトコーラを冷蔵庫で冷やしていたが、狭そうにしている様子を不憫に思い、専用の冷蔵庫も導入した。やはり冷えたキンキンの瓶や缶ですぐにシュワっと飲める気分は最高だし、クラフトコーラもゆとりある専用空間を持てて嬉しそうだ。いつか、業務用のサイズにまで大きくするのが夢だ。

 

 

このように暮らしはクラフトコーラに偏ってしまうし、土日はイベント三昧だし、何でもクラフトコーラを第一に考えてしまう人間になってしまったから、もちろんその分の「ひずみ」は生まれる。

例えば、長年連れ添ったパートナーとはお別れすることになった。私財も生活も神経も全部クラフトコーラにつぎ込む様子に呆れてしまったのだろう。無理もなく、自分が逆の立場でもそう思うだろう。数年前は結婚すら考えていたのだから、クラフトコーラですっかり人生が変わってしまった。

一方で、予想外の喜ばしいことも起きている。冒頭でも紹介したように「下戸」である自分が、今、お酒を楽しむようになっているのだ。クラフトコーラと割ったカクテルがとてつもなく美味しいのがその理由だ。特にハマっているのは、本格焼酎をクラフトコーラで割ったサワーだ。焼酎が醸す華やかでフルーティーな強い香りと、クラフトコーラの甘味・酸味が時折とても見事なハーモニーを織りなすのだ(要約:めちゃ美味い)。

 

 

お互いの原材料が持つ香り成分は科学的にもタイプが近く、相性の良さがベースにあった上で、お互いの得意な領域(焼酎は香り、クラフトコーラは甘味・酸味)で補い合う、まるで恋するような関係性を持つカクテルだ(これが、焼酎もクラフトコーラも多様に銘柄があり、相性のよさは個体によって変わるため、ベストカップル探しがまた楽しいわけだが...)。

今年、人生で行ったこともなかった酒屋というものに初めて足を運び、四号瓶でお酒を買ったり。焼酎の種類(芋・米・麦)も分からなかったのに、今では蔵元と繋がり、お酒の組合と共同でイベントを開くようになっている。下戸がクラフトコーラにハマり続けていたら、お酒が好きになったのだ。もちろん量は飲めないし、絶対にクラフトコーラと割っているわけだが、「お酒なんて、自分とは縁がないもの」だと思って毛嫌いしている時すらあったのに比べれば、遥かに人生が狂ってしまった。

 

 

かくして、クラフトコーラ中毒になり、偏愛生活を送るようになった。後篇では、偏愛の慣れの果て、「飲む」だけにとどまらない楽しみ方を紹介しようと思う。

 

 

Photo by 松田大成