ブログ「昭和スポット巡り」を運営しながら、これまで日本全国2200カ所以上の昭和スポットを訪れて記録してきた平山雄。スポットを巡るだけにとどまらず、身の回りの環境も昭和に満たされたいという思いから昭和時代に建てられた一戸建てを購入し、とことん昭和にこだわる彼の昭和愛を紹介する。
昭和好きが高じて、昭和時代に建てられた一戸建てを購入
僕は生まれつき、時代に合わせて新しいものを生活に取り入れることが好きではないタイプの人間でした。たとえば、CDが登場してもレコードを聴き続け、昭和から平成~令和へと流行のファッションが移り変わっていくなかでも、昭和時代の服をずっと着続けてきました。そんな昭和が好きな者として、タイムマシンか何かで当時に戻って生活をするのが理想だったりしますが、それは不可能な話。ならば、せめて身の回りだけでも昭和に満たされた環境にしたいと思い、20年前に昭和時代に建てられた一戸建てを購入しました。一口に昭和といっても60年以上あるわけですが、僕が好きなのは昭和30~40年代にかけての高度経済成長期。そのため、当然ながらその時代に建てられた物件を選びました。購入の決め手となったのは、リノベーションが一切されていないという点。この時代の物件は今でも探せばけっこう残っていますが、ほとんどの場合、玄関ドアや水回りの流し台などが新しいものに交換されてしまっています。タイムスリップ感を味わうには、時代にそぐわないものを完全に排除する必要があるので、その点は妥協できませんでした。
越してきた当初は、比較的新しいステンレス製のポストが設置されていたのですが、現代のものを視界に入れたくなかったので、昭和40年代物の赤いポストに取り替えました。
高度経済成長期に見られる「意図しない和洋折衷」が魅力
終戦から十数年、高度経済成長期に入ると、庶民の暮らしにも”ゆとり”が生まれます。それに伴い、アメリカをはじめとする海外のデザインも急速に取り込まれていくようになりました。しかし、当時は現代のような情報社会と違って海外の情報が少ないですから、何を作るにしても、どうしてもそこに本来の日本人が持っているセンスが混ざってしまうわけです。その「意図しない和洋折衷」が、自分の幼い頃の記憶と重なって、とても愛おしく感じるんですよね。例えば、自宅の玄関ドアは型ガラスに囲われた洋風のものですが、足元の床は小石が敷き詰められた和風色の強いものです。これは、意図的に組み合わせたものというより、たんに海外のデザインが取り込まれていく過渡期の自然な状態であって、計算されたものではありません。こういった組み合わせは、当時の日本にしかない貴重なものでもあります。
昭和40年代の庶民の暮らしぶりを再現
応接間として設計された洋室は、全面が板張りです。右手には、当物件の購入を決めた理由のひとつでもあるタイル張りの暖炉が備え付けられています。煙突が付いていないので暖炉としての実用性はありませんが、こういった暖炉風の飾り棚は当時の流行でもあり、ビル内の部屋に設置されることもあったようです。部屋作りについては、タイムスリップ感を演出するために家具や電化製品から小物類まで、すべてを当時物で揃えています。こういった趣味を持っていると、よくコレクターと間違われるのですが、僕の場合は「いかに昭和40年代当時の暮らしぶりを再現できるか」という点にこだわっているため、必要以上に物を増やさないよう心がけています。そのぶん、アイテムの一つひとつはこだわりのあるものばかりです。
こちらは「ナショナル」のポールライト。製造時期は不明ですが、1971年のカタログ「ナショナル照明器具」には載っているので、それ以前のもののようです。正式名称は「ポーライト」。突っ張り棒のような構造になっています。本業が古物商なので運良く入手出来ましたが、おそらく製造数も多くはないはずですし、サイズも大きいので、なかなか市場に出回らない珍品なのではないでしょうか。
メイン部屋として使っている和室。近頃の住宅には和室がなくなりつつありますが、やはり畳部屋は落ち着きます。天井照明は暗めのほうが当時の雰囲気が出るので、あえて60ワットの電球一つしか使っていません。よく人から「これだけ昭和時代のものを揃えるのに、だいぶお金がかかったんじゃないですか?」と聞かれるんですけど、じつはその逆なんです。今でこそ昭和レトロブームの影響で当時のものも高値になってきていますが、20年くらい前は、一般的な家具や日用品にはほとんど価値がなかったんです。タンスやサイドボードも、近所にあったリサイクルショップでワンコインで購入しました。テレビは動かないジャンク品を見つけ、内部の機械を全て取り外し、一昔前のブラウン管テレビを入れています。放送は映らないんですけど、テレビは見ないので問題ないですね。現在は裏に隠してあるDVDプレイヤーを繋ぎ、モニターとして使っています。
台所は冷蔵庫をはじめ、電子レンジや炊飯器など電化製品が多いですが、すべて現役で活躍しています。よく人から「不便じゃないですか?」って聞かれるんですけど、僕にとっては現代の機能が多い家電のほうが使い方が難しくて逆に不便に感じますね。昔のものは操作が簡単ですし、丈夫で壊れない。前に一度、トースターの電源から漏電して停電してしまい、真っ暗な部屋の中で停電の原因を突き止めるのに大変な思いをしたことがありましたけど、その程度の故障なら自分で直せますし、そのくらいの手間は愛嬌のうちですね。
友人に言われた一言で、人生に大きな変化が
もともとこの部屋作りは、自分で日常を楽しむためのものであって、それ以上の意図は何もなかったんです。ですが、この家で暮らすようになってから数年後に、たまたま遊びに来てくれた友人から「この部屋は人に見せないと勿体ない」と言われ、軽い気持ちでインターネット上に載せたんです。すると、新聞社やテレビ局からの取材オファーが相次いで、気がつけば自宅や暮らしぶりを紹介する本を出版するまでになっていました。何かを成功させたいと思って無理して頑張ってもなかなかうまく行きませんが、純粋に好きなことをやっていると、自然にうまくいくものなんですね。「昭和」は僕にとって、ずっと身近であり続けたことであり、生き方そのものです。これからもマイペースに、昭和を大切にしていきたいです。