スノードームに出会ってから28年間スノードーム一筋でコレクションを蒐集し、オリジナルスノードームも企画・販売する伊達ヒデユキ。彼は雑貨屋、土産屋などで誰しも一度は見たこと、手に取ったことがあるスノードームの何に魅了され、3000個以上もの蒐集に至ったのか。スノードームとの出会いを紐解いてみると、そこには甘酸っぱい青春の思い出が。

 

 

「スノードーム……カマクラのことですよね? 変わった趣味ですね!」

私がスノードームの蒐集を始めたころ、趣味を聞かれて素直に答えるとトンチンカンな応答をしばしばされたことを思い出す。

しかし近年ではアイドル? がタイトルにスノードームとついた楽曲を歌い、クリスマスの時期にはオサレな雑貨店の店頭でクリスマスツリーと並んで売られ、テレビCMに頻繁に露出されるようになり、その認知度はかなり上がったような気がする。

 

スノードームと甘酸っぱい青春の思い出

日本ではスノードーム、海外ではスノーグローブ(手袋ではなくて球体の意味)と呼ばれるものに私が惹かれたのは凡そ28年前のこと。

当時付き合っていた彼女からハワイ土産としてホノルルのアンティークショーで買ったという「ウルトラセブン」の怪獣ミクラス ハワイVerソフビ人形(1970年代製)と一緒に、ミッキーマウスとドナルドダックが仲良くシーソーに乗っているレトロチックなスノードームを貰った。

私は子供の頃から切手などの蒐集癖があり、当時は怪獣のガレージキットを必死に集めて「イイ歳コイた怪獣博士」を自称していたのだが、何故かソフビよりオマケ的な存在のスノードームに妙な懐かしさを感じ、心を鷲掴みにされてしまった。

そして思い出した。

まだ専門学校生でクルマの免許を取ったばかりの18歳の頃、週末に友人たちと地方にドライブに出かけ千葉の鴨川シーワールドに行った時、売店で名称さえも知らなかったボトル型のスノードームを買ったことを。

それは、当時一方的に好きだった同じクラスの女の子にプレゼントしようと買ったものだったが、まだ純粋でウブだった私は結局その子に渡すことが出来ず、結局は雑多な蒐集物を入れた箱に長年入れたまま忘れていたのだ。

それをどうにか探し出して眺めていると(十数年前のモノなので中の水はかなり減っていた)、もう帰らない甘酸っぱい青春の日々が走馬灯のように思い出され、無性に愛しさが湧き、「こりゃ、怪獣など集めているバヤイではないぞッ!」と怪獣のガレージキットからシフトしてスノードームを夢中で集め始めた。

 

eBayでのスノードーム蒐集

当初は街中で見つけ次第に買い漁っていたが、なかなか集まらない。
そのうちにアメリカの世界最大のオークションサイトeBayで頻繁に落札するようになった。

ちなみに20年位前まではアメリカから日本に落札品を発送してもらう際、到着日数は1か月以上かかるが料金の安い船便という発送方法があったのだが、いつの間にか船便が廃止されると共に送料をボッタくるセラー(売り手)が跳梁跋扈し、商品代より送料(航空便)が数倍もかかるようになり、eBayでの取引は泣く泣くやめてしまった。

しかし今までに付き合ってきた良心的なセラーとメールで直接やり取りするうちに彼らとは売買ではなくトレードをするようになった。

主にアメリカのセラーは富士山やお城などの日本のステレオ的なモチーフのモノを欲しがり、その対価として洋書でしか見たことがない珍しいモノやビンテージと呼ばれる古いモノを惜しげもなくトレードをしてくれた。

そして気が付けば蒐集するだけでは飽き足らずに市販のキットを使い自作する様になり、またまた気づけばスノードームの企画・製作販売が生業となっていた。

 

知っているようで知らないスノードームの世界

さて、ココでスノードームの蘊蓄を少し。
スノードームの始まりは19世紀の終わりのパリ万博にエッフェル塔が入ったスノードームが出品されたのが最初だと言われている(それ以前にはペーパーウェイトとして既に存在していたとの説も)。
その後、スノードームの人気は世界に飛び火して、各国でスノードームが作られるようになり、昭和30年代までは日本でも作られ、輸出もして外貨獲得に貢献したとか。

そしてスノードームのジャンルは大きく3種類に分けられる。

1番多いのは観光地のご当地モノ。
世界中の観光地にある土産物屋で、大きくその地名が記されたご当地モノのスノードームを見つけるのは割と容易である。絶対に雪が降ることがない南国の地名が入ったスノードームが売られているのも面白い。

次にクリスマスやハロウィンなどの行事モノ。
普段はスノードームを扱わない雑貨店でもクリスマスシーズンにはサンタモチーフのスノードームが並び、ハイブランドがノベルティとしてクリスマスのスノードームを毎年挙ってリリースしている。

そして、ディズニーランドのミッキーマウスに代表されるキャラクターモノ。
中には限定品があったりもする。

その他にも雪の代わりにハゲ頭に髪の毛が降ったりするモノ、お札が降ったりするモノや、スノードーム+ソルト&ペッパー入れ、スノードーム+カレンダーなどの別の機能を付けた変わり種もあり、これらは今マニア垂涎のコレクターズ・アイテムになっている。

しかし、夢もチボーも無くなる話で申し訳ないのだが、世界中で売られている観光地モノも、シーズンモノも、もちろんキャラクターモノも、今現在は必ずと言って良いほどMADE IN CHINAである。

閑話休題。

 

「好きなこと」を続ける先に

スノードームの企画・製作(もちろん中国製)販売が生業となった私は自分が生まれ育った“東京”をモチーフにオリジナルのスノードームを製作し「トーキョースノードーム」と名付けて販売をしている。

今はネタ切れのために東京から少し外れて、相撲取りを入れて、スノードームの洒落で「スモードーム」というふざけたものもありますが……。

最初の頃は自分のHPのみの販売で内職程度の収入にしかならず大赤字だったが、当時は会社員との二足の草鞋だったし、尚且つ「自分の好きなこと」だったので、大量の不良在庫にもめげずにしつこく新作を製作し続けていたところ、やがて某国立美術館のミュージアム・ショップからお声がかかり、そこでの販売が始まると有難いことに色々なところから引き合いがあり、一気に販路が拡大して現在に至っている。

しかし、良いことはあまり長くは続かずコロナ禍で全く売れなくなり、国からの給付金でどうにか食いつないで、ようやく昨年の秋ごろから元に戻りつつあるが、コロナ前の状況にはなかなか戻らないのが現状である。

ここで1発、スマッシュヒットを狙うべく新作を予定しているのだが、それはドーム内に大量のフレークを入れ、振るとフレークが煙幕のように舞いゆっくりと忍者の姿が現れる、忍者の「雲隠れの術」をイメージした「Welcome to JAPAN 忍者」。

どうですか、売れると思いますか?(笑)

今はコレのフレークの粒の粗さと量を吟味している最中で、出来るだけ8月にはリリースに漕ぎつけたいと思っています。

 

「手のひらの上の小さな世界」ひとつで人生が変わる

あの日、怪獣ではなくてスノードームを選んだのは正しかったのか? 今となってはそれさえ分からない。
しかしスノードームには人生をガラリと変えてしまうほどの魅力が詰まっている。
その魅力を私は上手く表現出来ないが、言葉にするとすれば「手のひらの上の小さな世界の切なさと儚さ」だと思う。その「切なさと儚さ」を説明するのもコレマタ難しいが、目の前にある理想郷に入りたくても入ることが絶対に出来ない「永遠のもどかしさ」だと私は思う。

スノードームに魅せられ続けている私は今でも旅先でスノードームを見つけては喜び、街中で骨董市に遭遇すると、古いものは無いか? と虱潰しに探して回る。蒐集数が多すぎてスノードームコレクションの置き場に事欠き、そろそろ断捨離しなくてならない年齢にもなってしまったが「分かっちゃいるけど、やめられねぇ」。

そしてスノードームメーカーとして新作のアイデアに行き詰まったり、中国の工場との仕事のやり取りに怒ったりウンザリする毎日を送っていて、トラブルがある度に「もうこの仕事を辞めようか?」と思うが、やはりスノードームの魅力には勝てないのである。

 

最後に。
もし街中でスノードームを目にする機会がありましたら、決して買わなくてもいいのです、手に取って振って眺めてください。

28年前の私は懐かしさを感じ、もう帰らない切ない青春の日々を思い出したのですが、あなたは何を感じるのでしょうか?