好きなスーパーはありますか?
西友、ライフ、イトーヨーカドー、サミット、マルエツ、OKストア…そして東京都、神奈川県に店舗展開する「スーパー オオゼキ」。
下北沢の古書店「古書ビビビ」の店主・馬場幸治氏はオオゼキでの買い物記録をXに投稿し続けるにとどまらず、オオゼキZINEを制作するほどにオオゼキに熱狂している。何がそこまで馬場氏を突き動かしているのか、語っていただいた。今日も馬場氏はどこかのオオゼキで買い物をしているのだろう。
 

週10でオオゼキ

自分がここまでオオゼキにのめり込むなんて思ってもいませんでした。10年前の自分に「お前、そのうち週10でオオゼキ行ったりするぞ」なんて言っても絶対信じないでしょう。僕は下北沢で古書ビビビという古書店を経営しているのですが、日々オオゼキのことを考え、本のことよりオオゼキのこと、そしてオオゼキで買った食材をどう調理するか考えてる時間のほうが多い日もあったりします。今この原稿を書き始めた瞬間にも、オオゼキに行きたくなっています。オオゼキは他のスーパーと比べると小さな店舗が多く、「オオゼキを自分の冷蔵庫代わりに使っていただくための距離感はとても大事」との考えから徒歩や自転車で気軽に足を運べるような電車やバスの駅からアクセスの良い立地にお店が展開されているそうです。ちなみに僕にとってのオオゼキの情報源は95%が勤務先近くにあるオオゼキ下北沢店ですので、以降のオオゼキ情報はすべてオオゼキ下北沢店についてだとお考えください。

そこまでオオゼキを連呼するなら、さぞ古参のオオゼキユーザーかと思われる方もいるかと思いますが、実はそこまでオオゼキ歴は長くはありません。以前は月に数回、米やドリンク類など重いものを買う時だけ奥さんに頼まれて買いに行く程度でした。6年くらい前に奥さんがしばらく入院したのですが、退院後に重いものを持つのがしばらく難しくなり、以降は奥さんに買い物メモを書いてもらって僕が買いに行くことになっていました。そこで思い知ったのです、自分が何にも考えず知らずに生きていたことを。まず買い物に行っても何がどこにあるのかまったく分からないのです。大幅に時間をロスしつつ、どうにか頼まれた食材を買ってきたのはよいものの、野菜の相場を知らないし産地とかも気にしないので、地物を買って高くついたり、いつもは国産で買ってたものを外国産で買ったり、一番よくあったのが傷んでいるものを買ってしまうケース。「よく見たんだけどなぁ…」なんて口答えしたら最後、「ここ! ちゃんと見て!」と何度も怒られて少しずつまともな買い物が出来るようになってきました。そして毎日のように通ううちに、「あれ?この野菜って今が旬なのかな?」とか「この見たことが無いお魚買ってみようかな」とか「へ~、ホタルイカって兵庫産と富山産があって富山産のほうが大きいんだな」というような現場に行ってこその知識を得ることができたりチャレンジができたりでどんどんオオゼキにハマっていきました。旬の食材もすべてオオゼキで学びました。

もしこれが他のスーパーだったらどうだったかというと、そこまで楽しんでの買い物をしていなかった気がします。というのも圧倒的にオオゼキは他のスーパーに比べて毎日表情が変わっているのです。店頭はもちろん、店内も旬の食材の入荷に合わせた流動的な棚作りになっていて、扱う食材も価格もその日によってどんどん変わります。雑誌で読んだのですがオオゼキは仕入れ担当の自由度がかなり高いため、別のオオゼキには無い商品や地元や都会のアンテナショップなどでしか買えないようなものも多く入ってくるようです。だから毎日行っても飽きませんし、調子が良いときには1日2回行ったりします。1日2回行ったとて何も変わらないだろう、と思われる方もいるかもしれませんがこれが違うんです。例えば遅めの時間帯に行くと次の日の棚作りを営業中にされているので思わぬ新商品やイレギュラー商品をゲットできたりしますし、次の日の価格情報もチラ見できて予習にもなります。そして1日に2回行くことで一番変化があること、それは自分自身なのです。1度目は大体買うものを決めて買いに行くのですが(とはいえ予期せぬ買い物を大量にしがち、それがオオゼキ)、その日の買い物を済ませている2度目の来店は無目的、目的が無いとどうなるのかというと、いつもは気にしない棚をじっくり眺めることができて定期的に催されるセールに向けて通常販売時の価格調査を念入りにできたり、「おっ、なんだこのオオゼキ限定『しば漬けのタルタルソース』って」とか「こんなところに普段は無い山形の『おみ漬』が!」と急いで買い物をしていた時には見えない景色が目に飛び込んでくるのです。これは僕がいる古書業界も同じで何度も行っている古書店でも視点を変えたり、自分が成長することによって見えるものが異なってくるのです。

 

「オオゼキZINE」と「オオゼキ武者修行」

こうしてオオゼキ下北沢店にヘビーに通い始めて2,3年でようやく人並みのスーパーマーケットレベルにはなったのですが、そうなると更に極めたくなるのが自分の性格で、ちょうどコロナ禍で時間に余裕が出来たのでそのオオゼキ熱をまとめたいと思い「オオゼキZINE」という4pのフリーペーパーを作成し、2020年5月17日より自分のお店で配布を始め50枚以上配布することができました。

 

「オオゼキZINE」

そしてその勢いで、というかお付き合いがあった出版関係者様のおかげもあってライムスター宇多丸さんのラジオ番組「アフター6ジャンクション」に電話で生出演してオオゼキの魅力を語るなんてこともさせていただきましたが、緊張してほぼ記憶がありませんでした。もしかして出ていなかったのかもと思ったりもしましたが、放送後に「ラジオ聴きました」と沢山のお客様に言っていただいたのでやはり出たことは確実です。ちなみに「オオゼキZINE」は2号出して現在休刊中です。今回の執筆を機にまた発行したいです。

こうしてオオゼキをただ好きな人から、それだけでなくオオゼキの魅力を伝える人になるように意識し始めました。そうなると下北沢店以外のオオゼキやライバルスーパーについてもある程度把握しておかなくてはいけないと思い、「オオゼキ武者修行」と銘打ったスーパー巡りを2020年8月より敢行。

 

「オオゼキ武者修行」その65はオオゼキ矢部店

その様子はX(旧ツイッター)にて#オオゼキ武者修行で検索すると読むことが出来ます。基本的には原付で、時には電車で通勤前や定休日にオオゼキ各店舗を巡り各店舗ごとのちょっとした違いをレポートしつつ、視野狭窄になってはいけないのでその他の有名スーパーや聞いたことも無いローカルスーパーも積極的に訪問し、オオゼキとの比較などをおこなっていました。そしてついに2022年5月17日にオオゼキ全42店舗完全制覇しました(いまこれを書いていてオオゼキZINEを発行して丸2年後にオオゼキを制覇していたことに気付きました)。おそらく日本で3人目くらいのオオゼキ完全制覇者となったのですが、だからどうしたという感じですよね。オオゼキは東京を中心にチェーン展開しているのですが、千葉の市川に一軒、神奈川に二軒の店舗がありやや難関でした。ちなみに完全制覇後にいくつか閉店開店があり、不完全制覇者に陥落してしまったため、この原稿を書く直前に未踏だった調布店と西荻窪店を訪問し再び完全制覇者になりました。最近のオオゼキの新たな動きとして青果販売を中心とした大関屋の開店があります。日用品までをカバーするスーパーが増える中でこの展開は驚きでしたが青果販売に絶大な自信を持つオオゼキだからこそできることなのでしょう。小規模店舗ならではの思わぬ立地への出店に期待したいところです、と唐突な経済アナリスト感。

 

「オオゼキ下北沢店」の特殊性

各オオゼキ店舗やその他のスーパーを巡って見えてきたこと、それはオオゼキ下北沢店の特殊性でした。他であまり見かけない食材や商品を置いているオオゼキ系列店やライバルスーパーもそれなりにあるのですが、オオゼキ下北沢店は他店で見られない食材・商品の入荷率が特別高いと感じました。また最近は今まで以上にご当地物の仕入れも頑張っていて定期的に各地域のフェアを催しているため、都心のアンテナショップや通販などでしか入手できなかった商品もお手軽に買える機会が増えました。オオゼキへの偏愛を語るつもりがどんどんオオゼキ下北沢店への偏愛を語る文章に変わってきていますが、ここで今までにオオゼキ下北沢店で購入した印象的な食材や商品を羅列してみます。

 

【プラム類】大石プラム、貴陽プラム、光李、秋姫、ソルダム、福島の李王、シンジョウ、紅りょうぜん、サンルージュ、サンセプト、サンローゼス、紅香の雫、エレファントハート、皇寿、赤李、静香、笑李(スマイリー)、トパーズ、皇寿、月光プラム、レッドエース、恋花火プラム、太陽プラム、涼呂、菅野プラム、他多数

 

【柑橘類】清見タンゴール、黄金柑、美生柑、紅プリンセス、にじゅうまる、鹿児島たんかん、はまさき、紅まどんな、日南一号、小夏、ニューサマーオレンジ、レッドウィンク、パール柑、大将季、蒲郡スイートスプリング、湘南ゴールド、愛愛柑、ゆうばれ、はるか、みはや、祐徳みかん、ひめルビー、キャラメルマンダリン、他多数

こうしてプラムや柑橘類だけ書き出しただけでもオオゼキの凄さ、ヤバさがお分かりいただけるでしょう。

 

【ポポー】芋のような見た目で追熟により皮が黒ずんできたら食べ頃のレアフルーツ。うまく追熟できたらプリンのような滑らか食感と超トロピカルな香りを楽しめます。

ポポー

 

そもそもオオゼキに行くまで蟠桃なるレア桃を知りませんでした。平べったい独特な形をしたこの蟠桃はとんでもなく良い香りがして美味しかったです。僕の観測では年に1度か2度しか入荷しないため1度スルーしたら次は無いとお考えください。オオゼキではそういうケースがとても多いです。気になったらとりあえず買ってみるのが鉄則です、稀少古書と同じで買わなかった後悔は一生付きまといます。例えお口に合わなくても「買って食べた」という経験はあなたの人生に必ずプラスになるはずです。

大紅蟠桃

 

【その他のレアフルーツ】アテモヤ、ジャックフルーツ、ホワイトサポテ、ビオレソリエス、ワッサー、パッシフロラアラタ。
 

【仙台せり・三関せり】ひげのような根部分の美味しさを知りました。鍋に入れたりセリギョプサルにしたり。

三関せり

 

【加賀太きゅうり】石川産の超極太きゅうり、スライスしたりソテーしたり色々な食べ方ができます。最近加賀野菜にも力を入れているようです。

加賀太きゅうり

加賀太きゅうりのスライスサラダ

 

【ゼブラ茄子】その名の通り白黒ゼブラ柄の茄子で即「ジャケ買い」しました。レコードじゃないんだからというツッコミは不要です。

ゼブラ茄子

 

【大和ルージュ】珍しい赤いとうもろこしでこれもジャケ買い。

大和ルージュ

 

【マロンゴールド】鹿児島産のさつまいも、ねっとり甘くてとても美味しい。

マロンゴールド

 

【その他の野菜】のらぼう菜、しんとり菜、醤菜、みずの玉、赤みず、おかわかめ、チシャトー、根芋、はす芋、そうめん南瓜、花ズッキーニ、他沢山

 

【富山の生ホタルイカ】ボイルホタルイカ自体もオオゼキ以外で買ったことは無かったのですが先日初めて「生」に手を出し自分でボイルして食べたら昇天しました。くちばし、目玉、背骨を取るのを忘れずに。

富山の生ホタルイカ

 

【あさひがに】若干エビのようにも見える真っ赤なカニ、売り場でインパクトあったので思わずジャケ買い。身が多く味も濃かったです。

あさひがに

 

【白石温麺】普通の素麺の3分の1くらいの長さの麺で油不使用。冷温どちらでも美味しいです。

白石温麺

 

他にもイレギュラー入荷の魚介類の数々やご当地フェアで購入した食材やドレッシング・焼肉のたれその他の瓶物などなど無限に頭に浮かんできます。

もしオオゼキ下北沢店に出会っていなかったらおそらくこれらの食材を食べることって無かったんですよね。オオゼキに行かずにダイエーとかピーコックとか他のスーパーに行っていたら。そう考えるとオオゼキ下北沢店がたまたま近くにあってそれが自分にぴったりだったことに偶然以上の何かを感じると共にオオゼキ下北沢店に出会えてなかった自分がどういう人生を歩んでいたかを想像するだけで寒気がしてきます。

ここまで書いてきてお分かりな方もいるかもしれませんが、僕がスーパーに求めるのは価格ではなく新たな出会い、気づきなのです。勿論安いにこしたことはないし、オオゼキは他のスーパーより安くて質が良い商品も沢山あります。でもどれもが他のスーパーより安いかというとそうではありません。ユーザーによってはライフやOKのほうが価格的には魅力的に見えるかもしれませんし、僕もオオゼキしか行かないわけではありません。それでもほぼオオゼキしか行かないのはやはり行く度に新鮮な気分にさせてくれる棚作りや驚くような仕入れがあるからです。

奥さんの代理で始まった僕のオオゼキ通いは今やライフワークになっていて、毎日行かずにはいられない体質になってしまいました。6,7年前は買い物レベルゼロだった自分がいまやきゅうり1本の値段とかキャベツの値段が大体いくらかすぐ言えますし、各地域の伝統野菜の知識も増えましたし、肉や魚を前日に仕込んで何かを作るなんてレベルにまでなりました。とはいえこれまでに正規な料理教育を受けてこなかった自分の料理を僕はアウトサイダークッキングと呼んでいて、かなり大胆な発想で味つけしたり盛りつけたりしています。そのため悲しいことに僕が作った料理を奥さんはほぼ食べてくれません。どうにかゼキ活(オオゼキ活動)レベルを上げて、満足いく料理を提供できるようにもっと勉強したいと思ってます。

最後に読者に向けて一言

「今日と同じオオゼキは明日には存在しません。明日は明日のオオゼキが、明後日には明後日のオオゼキが、毎日別の顔のオオゼキがあなたを待っています」