朝食やおやつとして定着している「ヨーグルト」。
発酵乳製品の代表として知られる「ヨーグルト」。
身近に感じる食べものですが、実は法律で定義づけがされていないことをご存知ですか?
混沌としたヨーグルトの世界。逆にいえば、まだまだ可能性を多く秘めているとも言える。

さまざまな側面から見たヨーグルトの魅力と、これからの広がりとは?
1日5食のヨーグルトを食べ、レビューを続けるヨーグルトマニア・向井智香が語ります。

 

どこよりもヨーグルトを充実させる日々

初めまして、向井智香(むかいちか)と申します。

みなさん、ヨーグルトはお好きですか?どんなタイミングで食べていますか?
一般的には「発酵食品」「腸活」などの文脈で取り上げられ、朝食のお供になることが多いであろうヨーグルト。

わたしは「お乳の味わい」にどハマりし、1日5食、合計1.5kgまでを上限に毎日ヨーグルトを堪能している偏愛歴13年目のヨーグルトマニアです。

冷蔵庫の中はお店より充実させていたい。
今これを食べたい!と思った時に手に取れる状態であることに、この上ない幸せを感じています。
欲望が冷蔵庫に収まりきらず、発泡スチロールや保冷バッグに保冷剤を入れた「即席ヨーグルト保管庫」が登場することもしばしば。

 

世界が変わったギリシャヨーグルトとの出会い

そんなわたしがヨーグルトにハマったのは2011年。
それまでも日常的にヨーグルトを食していましたが、商品を選ぶことにはあまり関心がなく、母が買ってきてくれるものをおいしく食べている日々でした。

そんなある日、目に止まったのがパルテノ様(敬愛のあまり、こう呼ばせていただいております)の広告です。

森永乳業さんが本場ギリシャの製法を踏襲し日本で初めて発売されたギリシャヨーグルト。

スプーンを逆さにしても落ちない濃厚さという謳い文句に、どういうことだろうかと興味を持って自分で購入して食べた途端、世界が変わりました。

 

出会った当時衝撃を受けた、スプーンから落ちないパルテノ

 

なんという濃厚さ。
舌にねっとりとまとわりつき、お乳の甘みがじゅわじゅわと湧き出るような美味しさ。

これに興奮してSNSに投稿を行ったのが、現在の活動の原点です。

当時は地域限定で販売されていたパルテノ様。わたしの住んでいた地域では販売されておらず、全国展開になるまでは夜行バスに乗って東京まで食べに行く遠距離恋愛のような生活を送っておりました。

 

知れば知るほどわからなくなるヨーグルトの世界

パルテノ様に飽き足らず、おいしいヨーグルトを求めてスーパーやコンビニを何軒も周る日々。

高級スーパーに行けば珍しい商品に出会えることに気づき、さらにはアンテナショップに行くとご当地モノがあることにも気づき・・・
あれよあれよとレビュー数は増えていきます。

こんなに楽しい世界なんだから、一人で堪能するのはもったいない!
一緒にヨーグルトを楽しむ仲間づくりができないか?
そう考えたわたしは、ヨーグルトのワークショップを自主開催するようになります。

 

自主開催のワークショップの様子

 

毎回テーマを決めてヨーグルトを10種類程選び抜き、解説しながら食べ比べてもらう会です。
現在のわたしのSNS名「カップヨーグルト研究会」はこの時の活動に由来しています。

ここでわたしが大切にしているのがボキャブラリー。
これは主観ですが、わたしたち日本人は牛乳・乳製品に対して褒め言葉のボキャブラリーが乏しく、「濃厚」の一言でまとめてしまいがちです。
でも、ヨーグルトって本当はすっごくいろんな魅力が詰まっているんです。
 

まずは質感。ゼラチン入りのツヤツヤとした可愛らしいものから、発酵の力だけでずっしり凝固したもの、ゆるくほぐれたもの。ざらっと風合いのある舌触り、舌に密着するような重さ、ふわっと溶けるような軽さやもっちり噛めるような弾力、スプーンからトロトロと流れ落ちるような緩やかな粘り。

次に酸味はどうでしょう。鼻から抜けるような爽やかな酸味もあれば、フルーティな酸味、そして舌にキュッときたり、喉にチクッときたりするような刺激的な酸味もあります。「濃厚」の言葉の奥にあるのは、コクの強さ?水分の少なさ?それとも乳脂肪分の甘みたっぷりな贅沢さ?

ひと匙のヨーグルトにも語り出せばキリがないほどの特徴があり、これらをなるべくたくさんの言葉に起こしていくことで、「濃厚だけがおいしさじゃない」という気づきを共にします。ボキャブラリーに比例してヨーグルトを楽しむための解像度が高まり、プレーンの商品ごとの違いがダイナミックに楽しめるようになった頃には、そこはもうヨーグルト沼。


こうして発信者としての自覚を持ち始めたわたしは、たくさんの文献を取り寄せてヨーグルトの勉強を始めたのですが、学べば学ぶほどヨーグルトがわからなくなりました。

実は、そもそも日本の法律には「ヨーグルト」の定義がないのです。ヨーグルトなのにヨーグルトと書いていない商品もあれば、ヨーグルトじゃないのにヨーグルトと名乗っている商品もある。牛乳やアイス、チーズは成分・製法で細かく規格が分かれているのに、なぜヨーグルトだけこんなにも整理されていないのか。
「発酵乳」という大きな括りの中にありとあらゆる商品が包括されており、消費者に対して非常に不親切であることがわかりました。

 

ヨーグルト界の伝説的サミットが転機に

机の上の勉強だけでは限界を迎えていた頃に、ある転機が訪れます。

それは2018年に茨城県小美玉市で開催された「第1回全国ヨーグルトサミットin小美玉」です。

 

第1回全国ヨーグルトサミットin小美玉

 

全国各地のご当地ヨーグルトが集うニッチなイベントに2日間で延べ39,000人もの来場があり、今でもヨーグルト界では伝説的に語り継がれています。

なんとも光栄なことに、わたしはここに講師として登壇させていただいておりました。

 

ヨーグルトサミットでの向井の講演

 

このイベントをきっかけに全国各地のメーカーさんや酪農家さんと知り合いになり、わたしはフィールドワークに出かけるようになります。

 

あらゆる産業とつながる酪農

牧場.jpeg牧場見学をする向井

 

それまではヨーグルトの商品ばかりに関心を抱いておりましたが、牧場を巡らせていただくようになり、原料を供給してくださっている酪農について何も知らなかったことに愕然とします。

牛さんの大きさ、気配、意外と匂いのしない牛舎。
用がなければモーモー鳴かないこと、社会性が高くヒエラルキーがあること、脚をたたんで座る姿がなんとも可愛らしいこと。

いいお乳を出してもらうために酪農家さんが日々努力されていらっしゃることは、未だに自分がどの程度まで理解できているのかすら分からないぐらい深い世界です。

しばしば植物性の食材と対極に置かれてしまう乳製品ですが、実は農地を肥やしてきたのは牛さんの堆肥だったり、豆腐作りで出るオカラを食べてくれているのは牛さんだったりと、あらゆる産業が大きな輪で繋がっていることを知りました。

 

コロナ禍を経て

日本の農の1ピースとして大切な役割を担ってきた酪農は、コロナ禍を経て情勢が大きく変わります。
飼料高騰などの影響から経費が激増し、従来の生乳買取額では採算が合わなくなってしまったのです。
多少の値上げはあったものの、まだまだ足りていないのが現状。

乳製品の値上げにも限界があり、さて困ったなという声が各所から聞こえてきています。

 

ヨーグルトの歴史はこれから

そんな時だからこそ注目してほしいのが「ヨーグルト」です。
まだ法律で定義すらされていない混沌としたこの言葉には無限の伸び代が潜んでいます。

レトロなパッケージが多く残るご当地ヨーグルトをサブカル的に愛でるもよし、風味の秀でたヨーグルトのクラフトマンシップを食通のように堪能するもよし。

チーズ職人があるように、ヨーグルト職人があって良いのです。
チーズに地名がつくように、ご当地ヨーグルトも地域性をもっと押し出したっていいのです。

本当は評価されるべき価値がいっぱいあるのに、発掘され切っていないのがヨーグルト。

なんてったって日本はヨーグルト後発国。プレーンヨーグルトが食されるようになってまだ50年そこそこなんだから、歴史は始まったばかりです!
そんなヨーグルトの未来を照らすべく、わたしは今日も愛を込めてレビューします。