日本のヒップホップ界において、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドを繋ぐ稀有な存在である、ラッパー・呂布カルマ。名古屋芸術大学出身で漫画家を目指していた過去もある彼は、実は大の昆虫好きとしても知られる。そんな彼の思考を紐解くと「昆虫にはロマンがある」、そう思えてきた。後編では、虫にしかない魅力から、虫とグラビアアイドルとの共通点にまで迫った。

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「泣きゃしないけど感動する」。虫と呂布カルマの関係性

今では虫の飼育は毎シーズンの楽しみになっていて、趣味の一つです。「虫の飼育」と「それ以外の動物の飼育」の一番の違いは、「育てている間に仮に死んでしまっても、心理的ダメージが少ないこと」だと思います。前編でも話したように、僕は虫の「デザイン」に惹かれている部分が大きいのと、虫って人間とはコミュニケーションが取れないので、虫に対して感情移入しないんですよ。それに、僕が育てている虫は拾ってきた虫ですしね(笑)。

もちろん育てている間はきちんと面倒を見ますが、例えば拾ってきたイモムシは寄生バチに卵を産みつけられていることも多くて、その卵が孵化してイモムシが死んでしまうことも多いです。あと、僕は昆虫以外にもカエルやトカゲなども飼育しているんですが、カエルは基本的に生きた虫しか食べないので、コオロギをエサとして与えることもあるんですね。その様子を見ていたら、「そりゃ、たくさん産んでたくさん死ぬよな」って、割り切れるようになってきました。最初のうちは感情移入してしまうこともありましたけどね。

あとコオロギに対するカエルの食いつきを見ていると、すごくおいしそうなので昆虫食の未来にめちゃくちゃ期待が持てます。コオロギってすごいスピードで増えて大きくなるし、身の部分がぷよぷよなんですよ。現状のコオロギを食いたいとは思いませんが、今後野菜みたいに品種改良されて、「私たちが作りました」みたいなおいしい虫ができることを期待しています。

とはいえ、飼育していたイモムシがさなぎになって、羽化して羽を乾かす姿には、毎回感動しますね。僕は自分の子どもの出産にも立ち会いましたが、人間が誕生するときの感動とはまた違って、植物の芽が出たときの感動に近い気がします。花が咲いたときも泣きゃしないけど、感動するじゃないですか? そんな感じかな。

 

呂布カルマの好奇心をくすぐる、虫とグラビアアイドルの共通点とは

じゃあ、感情移入しない虫の何に僕がそこまで惹かれるのかというと、やはりデザインのかっこよさ、機能美、そして神秘性だと思います。だって、イモムシが1か月くらいしたらただ転がるだけのさなぎになって、ある日気づいたら羽が生えて全然違う形になっているんですよ。「えぇ~」みたいな。「あのイモムシのときの記憶は引き継がれているんですか~?」みたいな。本当に不思議ですよね。

僕は虫をどこか機械のように見ている部分もあるのですが、機械との大きな違いはやはり、人為的じゃないところ。でも、人為的かと思ってしまうほどデザインとして完成している。それがめっちゃ不思議だし、惹きつけられます。

僕はグラビアアイドルもめっちゃ好きで掘っているのですが、「見た目の美しさ」に魅了されているという点において、虫を愛でているのと近い感覚を持っているのかもしれません。「機能美」という点でいうと、グラビアアイドルは無駄にデカかったりするんですけどね(笑)。グラビアアイドルの方の場合、一緒に仕事をすると人間なので感情移入しかけることもありますが、それは望んでいないというか。グラビアアイドルも、“体の強さ”で勝負している点が好きで、そこを観ているんだと思います。

あと、虫はめちゃくちゃ種類が多くて、次から次へと知らない虫が出てくるんですけど、グラビアアイドルもものすごい勢いでデビューしてものすごい勢いで引退していくので、掘り切れることがないんですよね。「全部知っちゃった」ってことがないのも、共通する魅力の一つだと思います。

 

昆虫学者にみる、何かを偏愛することの魅力

前述の通り、僕は虫のほかにグラビアアイドルも好きなのですが、やはり何かを偏愛すると、その人の個性やキャラクターの一つになりますよね。僕の場合はこうやって仕事につながりますし、少なくとも話のネタにはなりますし。

あと最近、1~2ミリの新種の虫を探すために井戸を掘り続けた昆虫学者の書籍を読んだんですけど、良い意味で“異常”で素敵だなって思いました。その人は、1日中井戸を掘って手を豆だらけにして、命懸けで新種の虫を探しているんですよ。僕はその新種には全く興味がないんですけど、一つのことにそこまで夢中になって、本まで書いて、その姿が素敵だなと思って。世の中には「趣味がない」という人もいますが、夢中になったらそんなことでも夢中になれるわけじゃないですか? 偏る対象にもよりますが、単純に人生の楽しみが一つ増えると思うし、そういう人を見ていると素敵だなと思いますね。

 

「生理的に無理」を突き詰める。昆虫から紐解く、呂布カルマの人生哲学

繰り返しになりますが、虫の魅力はやはり、人為的じゃないのに人為的かと思ってしまうほどデザインとして完成されている、その神秘性とデザイン性の高さだと思います。哺乳類って個体差があるけど、昆虫って個体差がほぼないし、あんなに小さな体に機能もデザインも備わっているのがすごいなと思います。昆虫は宇宙人なんじゃないか、という説がありますが「分かるな~」って思います。明らかに僕たち哺乳類と違う生き物ですしね。

あと、子どもがいると「虫取って」って言われるし、日常でも虫を退治できた方がモテるはず(笑)。今はスマホで画像を検索して拡大できるので、虫嫌いを克服するには、どうなっているかを写真でよく観察するところから始めるのもいい気がします。ハエとか「なんか毛が生えていてキモい」って思っていたけど、よくよく観ると刺みたいなのが規則正しく生えていたりして、「わぁ、かっこいいじゃん!」ってなったり。よく観察して分析することによって、「別に嫌じゃないなー」ってなると思います。

それに、これって人間関係にも言える気がしていて。「生理的に無理」ってけっこう聞きますけど、本当に突き詰めて「何が嫌なのか」を考えたら、別に嫌じゃないなってことっていっぱいあると思うんですよね。だから虫に限らず、「嫌だな」と思ったとき、そこで終わらせずに「本当は何が嫌なのか」を考えると、嫌じゃなくなることが多い気がします。

あと最後に。グラビアアイドルとは触れ合えないけど、虫とは触れ合えるので、そこも好きな点ですね(笑)。

 

Text by 那須凪瑳