ファッション業界の中でも無類の古着好きとして知られるスタイリスト・原田学。彼が偏愛してやまないものは、色や柄、デザインにとにかく強い主張がある古着。ここでは、普通に着ていたら思わず「それ、本気?」とツッコまれそうなほど個性たっぷりのアイテムを紹介していく。原田曰く、「お笑いのボケがそうであるように、古着も斜め上であればあるほどかっこいい」。最終回は、彼が一番偏愛しているヴィンテージアイテムであり、『the SUKIMONO BOOK』を始めたきっかけでもあるアウトドアバッグについて紹介する。

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個性豊かなデザインやカラーだけではない、圧倒的な存在感

「みなさん、カバンには様々なスタイルありますがどんなバッグが好きですか?」

私は即答できます。口の左右に広げた手をあてて大声で「バックパック……バックパック……バック…」って答えます。迷わず一番です。



『the SUKIMONO BOOK』第1巻


10年ほど前から出している私の好きなアイテムをテーマに決めて紹介する『the SUKIMONO BOOK』という小さな本のシリーズがあるのですが、それもヴィンテージのバックパックだけを紹介する本が作りたいというきっかけで始めました。大小サイズも違いデザインも様々、カラフルなアウトドアバックパックが並んでいるのを見ると癒されます。子犬や子猫の写真集を見て癒されるのと同じ、いやそれ以上、私には子猫より古いバックを眺めていると「かわいい!幸せ!」ってなります。

「気持ち悪く思わんといてや、ちょっと変わってるだけやで」

今も古いデザインを模して作られているバックパックは売られているので、それでいい!のでは?と思われるかもしれないですが、存在感が違うのです。コイツらは主張してくるんです。「俺、カッコええに決まってるやん。使ってみめちゃイケてるんやから。」って自信満々で堂々としています。色が派手で強いこともあるのですが、それだけでなくオーラを纏っています。細かなパーツや素材なども今のものと違うので、感覚でみんな違いが分かると思います。



イベント用にバックパックを沢山集めた時の一枚

 

カッコいいばかりではない、ヴィンテージならではの問題点

約50年近く前のバッグたちなので問題もあります。そのひとつは、臭くなる。(食事中の方すみませんが…)う○○の匂いとも言われています。この匂いの原因は、強度と濡れ防止のためにナイロン素材がコーティングされていて、それが劣化を起こし剥がれることで悪臭を発するのです。アメリカ西海岸あたりで眠っていた時は、湿度が低いからなのかそんなことにならずに何十年も過ぎてきたのだが、湿度の高い日本に来て数ヶ月放っておくと起きてしまうのです。
雑誌の特集で取り上げるヴィンテージのバックパックを撮影するために、沢山の古着屋さんから何十個と集めた時は、車の中が悪臭で充満します。1つか2つでも強く匂いを発するのがあると密閉された車内は息ができないほどに…。その悪臭が充満する車内で、タバコに火なんて点けたらすぐに大爆発。コントならアフロヘアになってしまうやつです(笑)。そんな時は窓全開が基本! もちろん冬でも窓は開けます。ダウンジャケットを着て運転するので寒さは耐えられるけど、匂いは耐えようがないのです。(別にメタンガスが発生するわけではないので爆発なんてしませんし、そもそも私はタバコも吸いません。突然の戯言すいません。)
もちろん匂いの対処法はあります。洗って天日干しすることで、匂いが取れたり弱まったりするのです。大型のバッグはアルミなどのフレームが入っているので、外してナイロンのバッグ部分だけを洗う。ちょっと手間ですが洗えるよう作られているのもたしかです。お約束としてクローゼットなど密閉された場所に長く放置しないこと。できるだけ乾燥状態を保ちながら、保管方法に気をつけてさえいれば大丈夫。ヴィンテージカーもヴィンテージバックパックも扱いは同じです。好きならばある程度の手間でもやれます。



バックパックをバラした時の一枚


あとは匂いだけでなく、ナイロンコーティングの劣化で剥がれたカスのようなモノが出てきます。これはこまめに掃除機で吸ってあげる。また使っているとバッグの底に溜まっているなんてことは日常で、そうなったらまた掃除機で吸う。ものによってはその剥がれた部分やカスに粘着性があってベタつく場合も。これはガムテープなどを使って時間かけて取り除きます。これらの対処方法は、全てアウトドアヴィンテージを扱う古着屋さんに教わりました。そんなショップに並ぶバッグには、それだけの手間が掛けられているのです。作業時間を考えると上代が安すぎると感じることもあります。好きじゃないとできない。ヴィンテージアウトドアバッグ愛を感じます。



70s初期のアルパインデザインのバックパック

 

楽だけでなく、手間や頭を使っておしゃれをするのもファッションの醍醐味

眺めるためのバッグでなく、出張など国内外問わず、大型のバックパックに荷物を入れて普段から使っています。先ほどの話に出てきたアルミフレームが入っているものです。バッグ自体の重量も少しありますが、ショルダーやウエストのストラップが良くできているので、手で持つと重たく感じるけど背負ってみると全然違います。
コロコロの方が楽なのは分かってます。「コロコロって呼ばへんの? キャリーバッグって言うんかいな」って大阪のオバちゃんになりましたが。あれを使うと負けた気がするんです。なんか格好良くない。コロコロと音を立てながら自分より後ろにあるものを引く姿が、嫌がる犬を無理やり引っ張って散歩する飼い主みたいに感じてしまうのです。とか言いながら、昨年に肩と肋骨を骨折していた時の出張では、コロコロに大変お世話になりました。



アメリカ旅とバックパック(西海岸)


「それでもヴィンテージのデカいバックパックを背負ってる方が絶対に格好良い」。そんなこと思ってんの自分だけやろと思っていたのですが、旅先のアメリカでヴィンテージバックパック背負って歩いていると、車で信号待ちをしているおっちゃんがクラクションを鳴らしてきたので、なんやと思ったら車の窓を開けて大きな声で「ええバッグ持ってんな。懐かしい。クールや。」って親指を立てて言ってくれたりする。同じようなことがアメリカ旅では何度かありました。アメリカ人って古いものへのリスペクトあるんだって思うと、やっぱりアメリカ好きだなって思います。



アメリカ旅とバックパック(東海岸)

 

自分の基準で選んでいる古着だから売ったりせず、一生大事にするんだと思う。

私が好きなヴィンテージアイテムは、主張が強く着づらかったり合わせづらかったり、ちょっと手間が掛かるなど色々と苦労もあるのですが、私にとってはそれが嫌でないし、そんな手間や頭を使うからこそ人と違うファッションを楽しめると感じています。そんな苦労があるから愛着も強くなり、より大事にすることになります。
それはそうですよ。誰かが年月を重ねて思い出と共に取り付けた沢山のワッペンが付くジャケットや自分で色合わせを考えながら作ったデニムのパッチワークジーンズとか本当の一点物で唯一無二。ロゴ入りのモノも有名なブランドや企業や学校名でなくマイナーな名前が良く、文字の入り方も単純でない方が数多く作られていないので希少で面白い。デニムやレザーのように使い込まれ表情が変わるモノは、前オーナーの着用の仕方や環境、保存の仕方などで表情が全く違うのです。
そんな中で自分が「コレやん!」って出会ったモノは、他の人が着ているモノより「カッコいいに決まってるやん」って思うわけです。それらの代わりになるモノなんて簡単には見つかりません。だから一生モノであり、手放したくないんです。「売らへんで!」「いや誰も欲しがらへんか?」私の場合、一般的に人気がある古着や人気が出そうな古着を集めている訳ではないですからね。



70s中期の「THE NORTH FACE」のカクサック


私が好きな古着は、万人受けは難しいので人に理解されないのは仕方ないのですが、それでも古いバックパックを褒めてくれたアメリカ人のように、私が好きで着ているモノに対して良いリアクションがもらえたりするとちょっと救われますよね…。個性的な古着を自己満足だけで楽しめれば良いと思っていたはずが、誰かに共感してもらえたらという思いも少なからずあるんでしょうね。って最後に自分のことを冷静に見てしまいました。