80年代のバブル期、若者を中心に爆発的なブームを巻き起こした<スキー>。いまでも冬の定番アクティビティとして楽しまれているが、『もっともっとスキーの楽しさを知ってほしい!』と伝えたくてたまらない人、それは編集者の渡邊卓郎。多くの人にこの想いを届けたいがあまりフリーマガジンまで制作を始めた彼が、ここでも思う存分魅力を語ります。連載最終回は『スキーに行こうよ!』と発信する最大の理由と、スキーのこれからのこと。

 

スキーは冬だけ? いえいえ、春スキーも最高です!

「スキーに行こうよ!って発信中」連載も5回目を迎えました。この5回目が掲載されるのは春頃でしょうか? 「雪の季節は終わったのにまだスキーの話をするの?」と思う方もいるかと思いますが、まだまだスキーシーズンは続いているのです!

 

北海道のスキー場では4月になってもマイナス気温の日がたくさんありますし、本州でもたとえば志賀高原や白馬や野沢温泉村などの代表的なスキー場は、だいたいゴールデンウィークの終わり頃まで営業しています。
そんな春のスキーのお楽しみといえば、「シャバ雪」です。日照で溶けた雪はシャバシャバのみぞれ状になっているため「シャバ雪」なんて呼んだりするのですが、晴れた日の温かい日差しの中、薄着でシャバ雪を楽しむスキーも最高に楽しいのです。

 

春スキーではこんなに薄着でスキーが楽しめちゃいます。

 

雪の上に立っているスキーヤーたち

この、春のシャバ雪は初心者の方にとってはスキーを練習する絶好の機会でもあります。その理由は、寒い思いをしないでいいし、雪面が軟らかいから初心者の方でもターンがものすごーくしやすいのです。

 

もちろん、厳冬期の真っ白な世界の中、降りたてのフワフワなパウダースノーの中で滑るのも最高に気持ちいいのですが、この春スキーもまた別のジャンル的な喜びがあります。スキーは冬だけのものではないってことですね。花見もいいけれど、春もスキーに出かけてほしいなあと思うわけです。

 

スキー、スキーってうるさいですけど、聞いてください

「まだスキーシーズンですから!」とか興奮気味に色々言っていますが、そんなに興味の無い人にとっては、スキー、スキーって、やっぱりうるさいですよね。自分でもそう思います(笑)。

 

どうして、僕がやたらとスキーをするのをおすすめしたり、誰に頼まれたわけでもないのにスキーのフリーマガジンを友人たちと作っているのかというと、連載の1回目で書かせてもらいましたが、どう考えてもスキーって最高の遊びだからなんです。そして、自分自身がスキーを覚えた少年時代の楽しかった思い出に対するノスタルジー的なものもありますね。雪山で過ごすことによって得られる感動や、雪の感触を味わいながら疾走するスキーがもたらす非日常感は人生をものすごく豊かにしてくれると思うんです。

 

そんなわけで、少しでもスキーカルチャーが盛り上がるために役に立ちたいと願っています。僕はスキー競技者でもなく、スキー業界の人間でもなく、ただのスキーファンなのですが、スキーって自由に楽しむものだし、上手いとか下手だとかは関係ないんです。ファンであることこそが全てではないでしょうか。そうです、スキーファンを増やしたいのです!

 

でもね、年々スキー(スノーボードも含めて)人口は減っているというのも事実。その理由はたくさんあります。レジャーの多様化、人口減少、雪山へのアクセス問題、雪不足、高額なギア……、まあ、よくない理由はいろいろです。

昔からスキーに携わり、80~90年代のスキーバブル期を経験している人に限って、よく出てくるのが「スキーブームが再来してくれないかな?」という言葉なんですけど、そんなものは再来しなくてもいいと僕は思うんです。あの当時、若者カルチャーとファッションがスキーとリンクして大いに盛り上がったのは事実です。でも、目指すのはそこじゃないと思うんですよね。ブームはやがて終焉しますし、ブームに乗って作られた薄っぺらい物事のクオリティの低さには目もあてられません。

そんなブームをわざわざつくろうとしなくても、そもそもスキーってものすごい魅力があるわけです。そして、日本は世界最高峰の雪質を誇りますし、美しい雪山の世界が存在します。そこをしっかり、ブレることなく推していけばいいんだと思います。

 

世界に誇るべき北海道・旭岳の雪質はフワッフワ。

 

スキーカルチャーがサーフィンカルチャーに見習うこと

僕は海側の街に暮らしていてサーフィンも好きなのですが、サーフィンってスキーに比べて、一般的に親しみやすい存在になっていると感じます。雪山よりは海のほうがアクセスも楽ですし、夏であれば水着を着てサーフボードさえあれば誰でも気軽に始めることができる、というようにスキーに比べてそもそもハードルは低いという有利な点があります。でも、最もサーフィンに見習うべきポイントは、実際にサーフィンをしない人でも、なんとなく“サーフィンムード”を楽しむことができるという、サーフィンが持つ魅力にあると思っています。

 

たとえば、東京都心に暮らしていて車を所有していない方がサーフィンを始めたいと思ったとします。電車で1時間半ほどの距離の湘南エリアの街に着くと、海沿いにはレンタルサーフボードとサーフレッスンをするショップがいくつもあるので、手ぶらでやって来ても2時間くらいのレッスンでボードの上に立って、波の上を滑ることができるかもしれないのです。そんな体験ができたら、気分はもうサーファー! ですよね。

 

そして、もしサーフィンが上手く出来なかったとしても、天気の良い日に海辺のサーフムードのあるカフェやレストランで食事をして過ごす時間も、“サーフィンムード”を味わうには十分というわけです。サーフマインドなかっこいいファッションやアートや音楽もたくさん存在しますから、例えサーフィンが上手くなくたって、誰もが等しく“サーフィンムード”を楽しむことができるのです。

 

この点が、スキーが見習うところだと思うのです。ムードだけでも良いから、とにかくスキーや雪山の魅力を味わえる場所や物事を増やすことが、スキーに対する垣根を低くして、スキーファンを増やすことにつながると思うのです。

 

そのためには、スキー場には昭和の合宿所的な食堂だけではなく(それも味わいがありますが)、もっと居心地のいいお洒落なカフェやレストランが多くあったほうがいいと思いますし、ヨーロッパのスキーリゾートのように、雪山の絶景を堪能することができる場所にカフェやレストランがあるといいなと思うのです。そこにスキーをしない人も“スキームード”を味わうために訪れることができると最高ですよね。

 

カナダ・ネルソンのスキーハット(小屋)

 

スキーの聖地のひとつ、アメリカのジャクソン・ホールの街並み。海外のスキータウンは街を歩いていてもスキームードが溢れています。

 

ジャクソン・ホールの山頂カフェでは美味しいワッフルが楽しめます。

 

ノルウェー・オスロのスキー場にあるレストラン。雰囲気ありますよね。

 

そして、スキーや雪山をテーマにしたファッション、アーティストやミュージシャンがもっと出てきてくれたら嬉しいし、メディアの力も重要になってきますよね。

今はスキーの世界の入り口になるようなフリーマガジンを作っていますが、ファッション、カルチャー、旅、そしてスキー以外のスポーツなども全て同列に扱えるようなメディアがあったらいいなあと思うわけです。スキーだけの専門誌になりすぎると、それ以外の人にとっては関係のない別の世界の話になってしまいますから、そうじゃなくて、それら全てが等しく楽しくて、かっこいいんだ! という表現の仕方ができたらいいなあと考えています。いつかそんなメディアを作りたいですね!
 

スキーを通して感じてほしいのは日本の雪、そして日本の冬という季節の素晴らしさでもあります。だって、どう考えても日本に降る雪は地球全体を見渡しても最高のクオリティで、そんな日本の最高の冬を楽しまないと勿体無いと思うんです。日本という地理的条件、これは宇宙からのギフトですから! と、これは最後まで声を大きくして伝えたいことです。

 

とにかく、楽しむことが一番なんじゃないでしょうか。スキーを好きな人たち自身が楽しんで、楽しさを伝えていくことができたらもっとスキーが盛り上がると思うんです。そう願っています。