海や岩場、観光地やラブホテルなどさまざまな土地やスポットで死んだふりをしては、その姿を写真に収めてSNSで発信し続けているさかもツインねね。「火曜サスペンスごっこ」という唯一無二の嗜みから彼女の愛を紐解く。

 

火曜サスペンスごっことは?

地べたに這いつくばって死んだふりをすること。自分が脱力して横になる姿は客観的にしか見られず無防備な姿がおもしろく見えるので写真を撮っている。鏡の前、カメラの前、人前に立てば何かしらの緊張があり社会的な姿となるが、死んだふりでは表情も着飾る心もなくそこに「いる」だけ。自分のそういう姿というものは実はあまり見ないので自分の知らない側面を見た気にさせられるところがいい。絶対的なルールは死なない、人に迷惑をかけないことである。危険を冒して帰らぬ人となったら活動としてアウトだし、社会的な死も迎えないよう安全第一で活動している。
2016年、人気のない観光地で地べたに這いつくばって記念撮影をした。動きのない写真から滲み出る私が満足げに見え、「これ、火曜サスペンス劇場じゃん」と笑ってしまった。それから火曜サスペンスごっこと名前をつけSNSに投稿したところ評判が良くなり、現在まで定期的な更新を続けている。この先写真を撮り続けたとしても、年齢や容姿を問われず動かない私がいればいいという心強さがあった。
現在8年目に突入し投稿した写真も何百枚となっているが、どれひとつとして同じものはないし回数を重ねるほど洗練されていく。写真を見返してここをこうしたら良くなるのでは?というフィードバックがある。物事を良い方向に進めているという手ごたえがあるのが面白いしやりがいがある。次はどんな写真が撮れるか、そんなことばかり考えているし、火曜サスペンスごっこの一番のファンは私だと思っている。

 

 

火曜サスペンス劇場が放送されていた時代に合わせ、レトロな場所や古着のワンピースを着用している。これだけ火曜サスペンスと言っているがホラーやサスペンス描写が苦手で見たことがない。
写真撮影は妹や友人、ラブホテル写真家の人に撮ってもらうことも。ひとりのときは三脚を立てセルフタイマーで撮影している。

SNS投稿時のタイトルは失恋の心持ちをつけていることがある。とある過去の恋人との恋愛感情の供養も兼ねている。自分でもよくこんなに感情が出てくるなと思う。

 

地べたに這いつくばってみる世界

普段の生活で空を見上げることなどあまりないが、息を止めて死んだふりをしながら薄目を開けて空を見ると視界いっぱいに青空が広がる。あの爽快感は病みつきになる。桜の季節に木の下で降ってくる桜を見ると、生きてて良かったなんて思う。死を通して生のありがたみを感じている。夏のアスファルトは焼けるように熱いし、冬の雪は寒さを通り越して痛い。季節の変化を肌身で感じて童心に戻ったようにはしゃいでしまう。
日々の生活では色んな人と関わり疲れてしまうことも多い。火曜サスペンスごっこの撮影の間は全くのひとりとなり自分の為に手間をかけシャッターを押す。自分の為に丁寧に時間をかけると強ばった気持ちがほぐれていく。
そして死んだふりから生き返り目を開けた瞬間新しい世界に切り替わった気がするのだ。ひとりになると人のありがたさをしみじみ感じる。撮影後いつもより人に優しくなれるし、人間関係で悩み事がある人におすすめしたい趣味である。

 

行く場所の決め方

旅行で温泉に行くときや、お目当ての昭和ラブホテルがあるときなどメインとなる観光地を決めたら周囲に足を伸ばせる景勝地や洋館などがないかグーグルマップで探す。宿泊ホテル付近を歩き路地裏や小さな公園、川べりなどで撮ることもある。事前の下調べ+自分の足で歩くことで撮影地を決める。好きな場所は何度も行き同じように火曜サスペンスごっこをすることもある。地べたに這いつくばることにより土地に情がわくのかもしれない。

 

海での撮影

生まれてからずっと埼玉県で暮らしているので、海と雪景色に対する憧れがある。年に数回火曜サスペンスごっこの撮影のため、人気のない海に行くが1~2時間程場所を変えながら夢中で撮影をしている。海辺での撮影は靴を履いていると不自然なので裸足になっている。靴を履いていないという通常でない様子はサスペンスみが増す。回数を重ねることで学びを得て自分にフィードバックする地道さが性に合っているようだ。
同じ衣装だと似た写真になるため茂みなどで着替えてお色直しをしている。撮影時に波の動きが予測できず濡れてしまうことも多々あるため、手足を洗う水、タオル、着替えが必須である。
中でも私は、青森県八戸市の種差海岸付近が気に入っている。砂浜、岩場、季節ごとの花が咲く場所なのでダイナミックな写真が撮れる。




 

岩場での撮影

火曜サスペンス劇場と言えば岩場のシーンを思い浮かべる人が多く、岩場の火曜サスペンスごっこをSNSにあげると反響がある。
ごつごつした岩に、どのように脱力した身体を這わせるかが鍵となる。体幹を預けられそうな岩を探し手足を伸ばして力を抜く。肘や膝を突っ張らせないようにすると岩に馴染みやすい。佐賀県の七ツ釜は青い海と柱状節理の岩場が広がり絶景だった。赤い服が岩の灰色に映えるので好んで着用している。
高さのある岩場で危険な写真は撮らないようにしている。真似して事故になる人が出ないようにという配慮だ。




 

観光ホテルでの撮影

昭和レトロな観光ホテルのノスタルジックな雰囲気が過去へタイムスリップしたようで、火曜サスペンスごっこの舞台にちょうどいい。赤い絨毯やらせん階段など、贅を尽くした場所に溶け込んで死んでいく。今時ではない、見慣れないものは一周回って目新しく映る人もいるし、懐かしさを感じる人もいる。どの世代の人でも心を動かされる魅力があるので印象的なデザインの場所があればなるべく多く訪問したいと思っている。
ちなみにホテル内での撮影は深夜人気の引いたころと朝方5時くらい。他のお客さんに見られないよう気を付けている。監視カメラの有無も確認している。三脚を立てて死んだふりを自撮りしている女がいたら気味が悪いので。




 

ラブホテルでの撮影

2019年。東京都内に回転ベッドのあるラブホテルがあることを知り訪問した。きらびやかな照明。鏡のついた赤い丸いベッド、それはもう衝撃的だった。知る限りのラブホテルはシンプルなものばかりでこんな世界があったのかと興奮と感動で震えた。その空間を独り占めできることも火曜サスペンスごっこの撮影にいい条件であり、すっかりハマってしまった。調べれば馬車や車、貝殻をモチーフとしたベッドもあるという。昭和の大人のためのエンターテイメントが各地にまだ残されていると思うと、いてもたってもいられなかった。
施設の老朽化やコロナ禍で客足が遠のき閉業に追い込まれるホテルもここ数年で多々あった。そのたびに心を痛め、火曜サスペンスごっこを兼ねて見たことない世界をこの目で見たいと熱量が上がっていった。行く先でホテルの方とお話する機会がしばしばあった。ホテルを大切に思う気持ちが感じ取れ、温かみのある話を聞かせて頂いた。客室を見ればどれだけ大切にされているか伝わってくる。そういうものを背に受けてこの場所を引き立てる死体にならねばと気合が入る。





火曜サスペンスごっこを通して色んな人や場所に出会いたくさんの優しさに触れてきたと思う。SNSを通して応援のコメントをいただいたり、笑ってもらえることが何よりうれしい。このご恩を返すのはよりよい火曜サスペンスごっこを撮り続けることだと思っている。

火曜サスペンスごっこという一見不気味で物騒な響きなのに、なぜか「ふふふ」と笑ってしまう作品によって優しさの輪が広がっていくのだ。