実家の玄関にちょこんと佇んでいる。もしくは、おばあちゃん家の棚の上から見守ってくれている。だるま、福助、こけし、おめん、赤べこなどの「郷土玩具」からは、そんなイメージが浮かぶ。長年の歴史や伝統を守りながら、新しい郷土玩具を発信し続けているのが、福岡の郷土玩具専門店の「山響屋」だ。山響屋の店主・瀬川信太郎に郷土玩具への偏愛を語っていただく連載企画の3回目は、一般的にはあまり知られていない風変わりな郷土玩具の面白さを語る。  

 

ちょこんとたたずむ玩具の我が子

仕事が終わって家に帰り、玄関で靴をぬいでいる時に目があい「今日も一日お疲れ様」って言ってくれているような表情の子や、仕事で疲れた時に目があって「ふふっ」と笑わせてくれる子など、僕の日常には色んな郷土玩具の子がそばにいます。

どの子も僕にとっては一番なんですが、その中でもより癖がある子を紹介したいと思います。

 

福岡県津屋崎人形「ごん太」

これはまず見た目っすね(笑)          
なんともいえない表情に「洋服はどこにいった?」って絵付け。
つっこみどころ満載の子。
もともとは赤ちゃんのおしゃぶりとして作られたそうで、舐めても大丈夫なように米粉で白塗りされていたそう。今ではおしゃぶりの用途ではなく人形として飾って楽しむものとして、彩色されています。
僕と「ごん太」との初めての出会いはカタログでした。

郷土玩具を作られているところって基本的にカタログの用意がないんですよ。
そこが何を作っているかは郷土玩具をまとめている本で知ることは出来ますが、代表作しか掲載されていないことがほとんどで、工房に行ってみて飾ってあるサンプルの人形や作り手さんと話してようやく半分ほど知ることができる、といった感じです。
津屋崎人形さんに初めて行った時にカタログをくださった時にはびっくりしました!
「おおおおカタログがある!すげえええ!」 って。

普段、生活してたらカタログがあるって普通のことかもしれませんが、普通じゃない世界が普通っていう面白い、郷土玩具界。

で、そこに「ごん太」がいて、なんこれ? やばい。一見きもちわるいけど、ずっと見てるとかわいく見えてくるんですよ。スルメみたいな感じですかね。見れば見るほど癖になって目が離せなくなる。早速、これを作ってくださいってお願いしました。その頃は久しく「ごん太」は作ってなかったそうで、久しぶりの復活となりました。

 

広島のタコはブレイクダンスをするよ。

広島県三原だるま「蛸起き上がり」

 

以前、出店イベントに参加することになり、そのついでに山陽地方の作り手の元を回って現地入りを計画したんです。「三原だるま」を求めて、広島の山陽地方の観光協会に足を運んだのですが、三原駅には巨大なタコのオブジェがあって心を奪われてしまいました。僕は三原のことをよく知らないので、どうしてタコがいるのか分からなかったのですが観光協会に行くとそこには「蛸起き上がり」がいて、これは買うしかない!と。

しかもピンクと赤の2色がいて。茹でる前と後?ちょこんと突くと起き上がる、でも足のくぼみのせいで、斜め45度で静止するんです。まるでブレイクダンサーやん、最高!!って興奮。「どうしてタコなんですか?」と観光協会の方に話を聞くと、三原市は瀬戸内有数のマダコの産地らしくて。そしてタコは「多幸」と書いて、幸せを呼ぶ、縁起物。8本足は末広がり。さらに英語では「オクトパス」と呼ぶことから、置いておくと「試験をパス」と受験合格の祈願にも。そんな魅力が盛りだくさんなんです。 

 

ピングーみたいなカチガラス。

佐賀県尾崎人形「カチガラス」

 

正式名はカササギ。サギとついていますが、サギの仲間ではなくカラス科です。カササギの仲間は北半球の広い範囲に分布していますが、日本ではなぜか佐賀平野を中心とした狭い範囲に生息しています。カササギと名前があるのにも関わらず、カチガラスと呼ばれているのかというと、由来は戦国時代まで遡ります。朝鮮出兵の際に、鍋島藩主が「カチカチカチ」と鳴くこの鳥を見て縁起が良いと持ち帰り保護したのがはじまりといわれています。カラスに比べて一回り小さいとてもかわいい鳥で佐賀県の県鳥に選ばれています。ちょうどこの人形を買いにいったのは春の快晴の日の午後。調べた住所に行くとご自宅の隣に工房らしきコンテナがありました。
入り口が開いていたので、どうやら作業されているみたいだなと「こんにちはー」と覗きこむも人気がない。ご自宅ピンポンかーと思いながら、もう一度ダメ元で「こんにちはー」。入り口横に置いてあったふかふかのソファから「おおっ?」と声が。あまりにも気持ちいい天気だったので、お昼食べて昼寝をされていたそう。たしかにこんな日の昼寝は最高やろなと思いながら、作り手さんに色々な人形を紹介してもらいました。そんなおおらかな作り手さんが作る人形はどれも作り手さんらしさが溢れるゆるい表情で、優しい佇まいをしています。

これは笛になっとってねーこうやって吹くと優しい音がでるとばいと吹いてくださった音はぽかぽかな午後に最高の音色でした。僕が好きな人形たちはもちろんその人形の好きなポイントもありますが、それと同時にその人形に出会うまでの過程や出会ったときの思い出も大切な部分です。

 

郷土玩具ってほんとに身近なところに存在してるけど、その存在が近くに住んでる方にも知られてなかったりすることもあって、僕にとっては中古レコ屋でディグって誰も知らないであろう自分だけのお気に入りの一枚を探しだす感じに近いです。このアーティストは有名だけどこの曲ってみんな知らんくね?でもここのトランペットの音めっちゃかっこよくない?みたいな(笑)。

情報化社会の今では知りたい情報なんてネット検索すれば、すぐ見つかるのが当たり前だけど、郷土玩具を作ってる人がホームページ作っている人なんてほんの一握りだし、ヒットしても代表作しか紹介されてないことがほとんど。
でも実際に行ってみるとめちゃくちゃ面白いものやご当地もの、ディスプレイされてあって最近作ってないけど、個人的にめちゃツボなものなどまさにディグのしがいがある!(笑)

自分の足で行って、実際に目で見て、作り手さんとくっちゃべって、自分が気に入ったものを買うって最高のお買い物です。

でも同じ人形でも一体一体筆の運びで表情が違う。なんかこの子は怒ってるな、こっちの子は困ってるなみたいな。そんな時に、あれこの子はめっちゃ笑ってる!やっぱ笑ってる子っしょ!って同じ人形なのに選ぶ楽しみがあって、B品ではじかれちゃうような物もあったり、でもそれが意外とありやん!めっちゃ面白いってなったりして(笑)。

手作りだからこそ、人と同じで人形との出会いも一期一会で面白いです。

僕はまだ日本で行ったことがない県がいくつかあります。
そこで作られている郷土玩具はリサーチ済みなんで、とりあえず日本全国の郷土玩具に会ってみたいです。そして僕の好きが集まった郷土玩具をまだ郷土玩具に出会っていない方に知ってもらう窓口を作っていきたいなと思っています。

それでは、あなただけの郷土玩具との素敵な出会いで日常に癒しを。