美術の教員免許を持ち、アートに関連する連載も手掛けているお笑い芸人・リリー。そんな芸人界きってのアート偏愛者である彼が、ニッチな画家に注目し、熱量とユーモアを交えながらその魅力を語り尽くす連載企画。2回目は、ヘタウマ画家と評されるアンリ・ルソーの後編。前回はルソーの生い立ちや人間性について触れたが、今回は彼の作品を中心に取り上げていく。

ピカソも認める、彼の作品とその魅力

多忙な中でも美術館や個展に足を運び、日々アートに触れている。

 

はじめまして、吉本で漫才をさせていただいてる見取り図リリーという者です。僕は一応美術の教員免許を持ってまして、アートという存在が大好きなんです。勝手にこの場所をお借りして思いを文字にさせていただこうと思います。お時間とお気持ちが許しましたらお付き合い下さい!

前回、僕はアンリ・ルソーという画家について書かせていただきました。ルソーは色んな意味で魅力的な画家で、僕が知っているかぎりのルソーの人間性や考え方などの内面を中心に偉そうに語らせていただきました。

今回は、作品について語らせてください!
本で読んだ情報や、人から聞いたこと、勝手に僕が感じたことなどごちゃまぜになってアウトプットするのであしからず! 時代順とか信憑性は度外視してただただ思ったことを綴らせて!

 

《子供の肖像》1908年/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)

 

まず《子供の肖像》という作品を観てください。まじでインパクト凄いですよね。
初めて観た時は凄すぎてなんていったらいいか分かりませんでした。
俺が生前ルソーに会えたなら必ず、「ルソーはん、子供ですよねこれ?」と言ってしまっているでしょう。
だって、”若い時バンドしていて夢破れて、今はちょっとした会社の係長させてもろうてます顔”だもん。
それで足が途中から無いのです。無いというか草のようなものが生い茂っていて、そこに突っ込んでいるのか。にしても不自然。俺は勝手にこれをナチュラルシュルレアリスムと思っています。

絶対ルソーは狙っていないと思うんですが、あらゆる作品にそれを感じて夢中になってしまう。たしかピカソがルソーの作品をずっと所有していたらしい…。ピカソだってルソーのように、誰もが予想できない子供のような絵を描きたかったらしいんですが、しっかりとしたアカデミックな技術が邪魔して?(邪魔という言い方が正しいかわかりませんが…)「どこまで行ってもその部分ではルソーに勝てない」と言ってたそう!
凄いというかピカソにそう言わせるのは世界でルソーだけじゃないでしょうか!

なんか嫉妬してしまう!

《ジェニエ爺さんの馬車》1908年/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)

 

《ジェニエ爺さんの馬車》も好きなんですよねぇ。僕は大体絵を観る時、ルーベンスとかレンブラントとか「この絵かっこいい」と思って好きになるのですが、この絵は超ウルトラCというかもう反則なんですよね。
馬車に乗っている人達のデッサンがおかしいのはもういいでしょう。馬車の下に犬がいて、その前にも犬のようなものがいるのですが、あきらかにサイズがネズミくらい小さいのです。「こんな形の生物存在せんわ!」という心の声が出てくるその刹那です。さらに喰らわされます。馬車に乗っている人達の間にマジで観たことのない生物が乗っているんです。

「な、なんじゃこら」。
「ほんでなんかカメラ目線というかこっち観てる」。
「なんなんじゃキミ」。
「もう馬車の前の小さい犬みたいなのはどうでもえぇ、これだけ説明してくれルソー」。
こんなことを考えながらずっと観てしまうんです。恐るべしルソー。結果、夢中になってしまうんです。

実は最近のアートに詳しい人の中に、“ルソーは絵がうまいのにわざと計算してやっている説”を唱えている人がちょいちょいいるんです。
「俺は絶対違うと思う!」「これは計算してできるレベルじゃねぇ!」「というか下手であって欲しい!」
それでこそ僕が愛するルソーなんです!

好きな女の子が全部計算であざとかったら嫌なのと一緒。そういう人であってほしい!

知れば知るほど惹かれる、魔性の男ルソー

《フットボールをする人々》1908年/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)

 

《フットボールをする人々》とかも絶妙なんですよ。このポージングが最高。逆にこんな動きする瞬間ないやろ感が気持ちいい。なんていうか性感帯の気持ちいい所をついてくるんです。マジで絶妙。絶妙としか言えないんです。

表情を観てください。どういう感情なのかマジで聞きたい。モナリザより予想できない、絶妙。
左のボールをキャッチしようとしている人の足の上げ方なんて、この表情でそんな感じになるかね、絶妙。この4人のおっさんの職業とか、どうやってこの場に集合したのかとか、もともと知り合いなのかとか、誰のセンスでこのユニフォームにしたのかとか、全てが俺の性感帯をついてくる、絶妙。

ただ単純にかっこいいと思ってしまった。いや失礼な言い方になってしまいましたが、ルソーの自然物の描き方、めちゃくちゃかっこいいんです。このギャップもまた夢中になってしまうんです。
かっこよさの定義なんて、人それぞれで答えなんてないんですが、ルソーの感覚は「無垢」なんです。人は無垢に憧れれば憧れるほど知恵を働かせて、ビジネスライクになったり、大人の汚さが滲みでたりするんです。これほど純粋で無垢なものを観せられたら惚れてしまいますよね!!

《夢》1910年/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)

 

《夢》とかめちゃくちゃ好きです。たしかに絵は下手だと思うんですけど、この作品を観て分かるのは、色彩感覚は超絶天才なんだろうなと。抜群の配色で、オシャレかつかっこいい。前方の緑の色の付け方がすごくオシャレで、緑色って失敗したらすごく子供っぽくなったりチープになるんですが、光の当たり方とかがかっこいい。そして中心部の鮮やかな植物の配色も最高ですよね。主張しすぎない鮮やかさ。なんていうかひっかかる部分とか気になる所がないんです。気持ちいいんです。

ルソーは特に植物を描く時、異常に細かく異常にこだわりを感じるんです。絶対植物を描くのが好きだったんだろうなと思います。そういう所も意味が分からんくて気になってしまう。なんで肖像画とかむちゃくちゃなデッサンで荒く描いたりするのに、こんな小さな葉っぱ1枚1枚を丁寧に描くんだろう!?
結果、ルソーは魔性です。ナチュラルシュルレアリスムかつ鑑賞者たらしなのです。ほっとけないんです、悔しい…。

なんの生産性もないアウトプットを読んでいただいてありがとうございます。
まだまだ色々な作品がありますので、チェックして少しでもルソーのことを好きになってください。けど僕よりは好きにならないでください。

「ルソーは俺を嫉妬させる」。