大の日本酒好きが愛するお酒の紹介にチャレンジ!
日本有数の麦焼酎の産地である大分県の大学に進学したことをきっかけに、焼酎の美味しさにとりつかれ、さらに、同じ和酒である日本酒にも手を出すと、その味わい深さにドハマり。
気づけば日本酒のソムリエとも言われる、「利き酒師」の資格まで取ってしまった私…あれから約10年…。
日本酒が好きすぎるあまり、お酒のアレンジという行為は、叫ばれるようになって久しい“若者のアルコール離れ”に歯止めをかけることができるのではないか、さらに、海外の人にも日本のお酒を知ってもらう機会が増えるチャンスではないかと。
そして、これは、外国料理をアレンジして日本流につくりかえるという、日本のお家芸、つまり、日本の伝統文化にあたるのではないかと気づく。
ということで今回は、利き酒師がお酒の飲み方をアレンジする中で気づいた、日本の伝統文化についてお伝えしていくことにする。
利き酒師イチオシの日本酒とそのアレンジレシピについてもお伝えしていくので、日本酒ビギナーからツウな方まで、皆様の生活に彩りを添えるためのナビゲートを開始する。
ちなみに、「利き酒師」とは、飲み手の好みや希望に沿いながら、様々な種類の中から1本を選び、その楽しみ方を提案できる専門家のこと。
私はこれまで、お酒に独自のアレンジを加えて楽しんでいたわけだが、普段は放送作家をしているため、それを誰かに提案するまでには至らなかった。
なので、今回はお酒の楽しみ方を提案する“専門家”として初めての挑戦となるため、ドキがムネムネ…いや、ムネがドキドキする思いである。
利き酒師オススメの1本がコレ!
早速だが、今回アレンジしても美味しい1本を紹介していこう。
それは、青森県の蔵元・西田酒造店が製造する「田酒」。

“日本酒の原点に帰り、風格ある本物の酒を造りたい”という想いによって、3年の月日をかけて開発され、すべての行程で手造りを貫く逸品だ。
また、日本酒をつくる時は、醸造用アルコールや醸造用糖類を使用するのが一般的。
しかし、田酒はそれらを一切使わない。
そのため、米のうまみがギュッと凝縮され、雑味もない豊かな味わいが楽しめる。
ちなみに、アレンジして楽しむのはもちろん、「田酒」をキンキンに冷やして、正月におせち料理と一緒に食べてもバツグンに美味い!
いわゆる、“冷酒”にして飲む、オーソドックスな飲み方。
フルーティーな香りに、飽きのこないスッキリした飲み口のため、和食の他にも、洋食とも相性は良いだろう。
口に残る雑味のようなものも無いため、日本酒ビギナーにもオススメしたい1本である。
そんな「田酒」のアレンジとは。
それは、アイスにかけて食べること!
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ツウな方からすれば、邪道と言われるかもしれない。
ただ、ここ数年、アイスにかけて食べる日本酒なんて代物も出てきている。
また、SNSではアイスボックスで飲むお酒「アイスボックス割り」や、ガリガリ君とレモンサワーの組み合わせがバツグンといった投稿も話題を呼んでいる。
そして、今回オススメするのが日本酒×アイス。
アイスはスーパーやコンビニに売っているものでOK!
むしろ、市販のさっぱりしたアイスとの方が相性は良いように思う。
アイスの種類は、シンプルなバニラやチョコ味を選ぶのがベスト。
素材の味がしっかり感じられるためだ。
そのアイスに少量の「田酒」を垂らして食べると…なんということでしょう!
日本酒独特のうまみやコクが加わり、よりクリーミーな味わいになるではありませんか!
ちなみに、「田酒」を少量かけた場合だとアイスの甘さが引き立ち、逆に、多めの場合は、ちょっとビターな味わいのアイスに変身する。
マジで美味い。
ところで、日本酒と言えば、大体四合瓶(720ミリリットル)や一升瓶(1.8リットル)で販売されていることが多いが、これだと飲み切れずに余らせてしまうなんてことも。
そんなときに、今回のことを思い出してほしい。
実は、私自身も、利き酒師の資格を取るほどお酒好きとはいえ、この日本酒1本を飲み切るのは結構キツイものがある。
一緒に食べるものを変えても、日本酒はどこまでいっても日本酒の味。不変だ。
なんとかして、この不変に“変化”を加えたい…。
そこで思いついたのが「みりん」だった。
「みりん」とは、蒸したもち米と米こうじ、焼酎が原料の甘味のある酒だ。
調味料として、料理に照りやつやを出し、隠し味的な役割を担っている。
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この「みりん」のように、日本酒を入れることで食べ物に変化を加えたいと思った私は、先ほども少し触れた、SNSで話題になっていたアイスとお酒の組み合わせから知恵を拝借し、アイスに日本酒をかけて食べてやろうと決意。
そうして、今日の結論に至る。
ただ、日本酒を何かにかけて食べるといった発想は、昔の人には無かったのだろうか。
過去の“日本酒ブーム”を振り返ると衝撃の事実が判明!!
ここで、1980年代に起きた「第一次地酒ブーム」を振り返っていこうと思う。
当時の国鉄が「ディスカバリージャパン」と打ち出したキャンペーンにより、新潟の「越乃寒梅」や宮城の「一ノ蔵」「浦霞」など、地方色豊かな地酒の人気に火が付く。
居酒屋では、飲み方のバリエーションが増え、冷や・常温・熱燗といった飲み方が人気になった頃である。
気になるのは、昭和も終わりかけの80年代に、ようやく飲み方のバリエーションが増えたという点。
日本酒の始まりは、紀元前の頃と言われていることを考えると、意外と最近まで一辺倒な飲み方をしていたことがわかる。
さらに、1990年代のバブル到来とともに生まれた「吟醸酒ブーム」。
淡麗辛口の酒を冷やして飲む吟醸酒ブームが到来し、日本酒をよく知らない方でも名前くらいは聞いたことがあるであろう、新潟の「上善如水」や「久保田」が脚光を浴びた。
90年代に入ってもなお、冷やして飲むパターンが人気だった点。
これはもしかすると、変化を嫌い、伝統を重んじる日本人の典型的な気質が理由になっていたのかもしれない。
その後、2000年代に入ると、ワインや焼酎がもてはやされる。
杜氏の高齢化が問題視されるなど、日本酒業界は閉塞感に包まれていた。
そんな中、若い世代を中心に“蔵元自らが積極的に酒造りに関わる”という新しい試みが始まっていく。
それまで伝統を重んじてきた流れに変化が起きるのだ。
そして、2010年代には、スパークリング、にごり酒、磨かない酒など、多種多様な日本酒が登場する。
欧米で沸く空前の和食ブームを受け、世界市場を視野に入れた山口の「獺祭(だっさい)」や愛知の「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」。
また、ワインや焼酎、ハイボールなどに対抗するため、酸味の効いた酒やスパークリングの銘柄も登場する。
このように、日本酒の飲み方に変化がみられるようになったのは、ここ10年くらいのことである。
この結果に、何だかモヤモヤして納得がいかない自分がいた。
日本酒のアレンジは最近の出来事だが、食べ物をアレンジするという行為にどこか既視感が…。
ところで、“魔改造”という言葉があるのをご存じだろうか。
いつの頃からか使われ始めた言葉であるが、その意味は、原型と程遠い改造をすることを言うようになっている。そして、日本は食文化の魔改造が好きな国とされているのだが、これは一体どういうことか。
日本には、様々な食材や食文化が入ってくる。
その過程で、日本流の“アレンジ”を加えてしまい、原型とは程遠いが、美味しい料理に変えてしまうということだ。
例えば、ナポリタン。
ナポリとは何の関係も無いのに、日本のスパゲティーの代表格となっている。
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トマトケチャップベースをゆでたスパゲティーとからめ、ハムやタマネギなどと一緒に炒めてできあがるのだが、この食べ方はナポリとは関係もないのにナポリタンと言われている。
そして、この食べ方は日本で生まれたものだ。
その他、もはや日本食と言っても過言ではないほどの進化を遂げているカレーライス。
これは、インドを植民地にしていたイギリスから日本へと伝わってきたものだ。

インドのカレーはスパイスを調合して味を出すため、基本的に、二度と同じ味は作り出せない上に、とろみもなくサラッとして汁気が多い。
汁気の多さに関しては、イギリスが調合の手間を省いたカレー粉を作り出し、それに含まれる小麦粉によるとろみがついていたため、そのまま日本が受け継いだものとみられる。
ただ、じゃがいもやにんじん、玉ねぎといったカレーの具材は日本独自のスタイル。
さらに、そこから日本の魔改造は進み、カツカレーやカレーうどん、カレーパンの誕生など、この変貌ぶりにはインド人も驚くだろう。
日本のお家芸によって進化していく日本酒
食の“アレンジ”は海外では見られず、日本人の“食のセンス”によって生み出されているようだ。
使い勝手が大幅に良くなっていたり、機能を大胆チェンジしていたりと、単なるコピー商品では無いところが日本人の良いところだろう。
ここで、日本酒のアレンジに話を戻すが、日本酒とは、その名の通り、日本生まれのお酒だ。
先に述べたように、伝統を重んじる日本人にとって、日本固有の伝統はそのまま継承していくが、一度衰退の危機に陥ると、ここにもアレンジを加えることで、上手く次へと繋いでいく。
その結果、近年多様なスタイルの日本酒が誕生しているのではないかと考える。
食の“アレンジ”は、単にコピーをするだけにとどまらない、日本人のプライドが詰まっているのかもしれない。
そして、私もその“日本人プライド”を知らず知らずのうちに発揮し、日本酒に独自のアレンジを加えていたようだ
なんと、日本のお家芸、つまり、日本の伝統文化を自然と継承していたことに気づいてしまったのだ。これが“大和魂”というやつか。いや、違うか…。
グルメ好きな日本人は、これからも海外の人の度肝を抜くようなアレンジ料理を生み出すだろう。
その時、彼らの口に合う日本酒も生まれると、日本酒、いや、日本が大好きな私は嬉しい限りだ。
2023.09.27