「自分の好きと暮らす」入口となるアート
―ECショップで素敵な作品ばかりを紹介されているDeCasaですが、具体的にはどういったサービスなのでしょうか。
松下:DeCasaは、「自分の好きと暮らす」をコンセプトとするアート・ポスターのセレクトECショップです。スペインのマドリードに拠点を置いているので、現在はヨーロッパのアーティストが手がけた絵画・写真などを中心に取り扱っています。
―スペイン以外に、日本にも拠点を置かれていると伺っているのですが、両方を拠点とされているのには何か事情があるのでしょうか?
松下:私は生まれが長野なので、大人になったら長野に恩返ししたいと昔から思っていて、葛飾北斎が拠点にした小布施は町としても芸術を支援していて、DeCasaの想いを伝えるためには最適な場所だと考えました。
松下:また、全ての作品を日本で印刷してお届けできるのもポイントで、海外から日本のお客さまに作品をお届けする場合、輸送中に多くのCO2を排出してしまいます。環境への悪影響を及ぼして手元に届いたものを手放しで喜べるかというと、ちょっと難しいと思うんです。なので、実物のクオリティを再現できる印刷技術を持ったパートナーを日本中探し回り、作品一つひとつの色彩をオリジナルの雰囲気と照らし合わせながら調整してくださる方を見つけ出しました。
使用している紙も美術館グレードの100%コットンのファインアート紙なので劣化しづらく長持ちしますし、「画面上で好きだと思ったものがそのまま家に届く」感動をぜひ味わっていただきたいです。
―ここから、理想通りの好きなものとの生活が始まるわけですね。それがDeCasaの目指す「自分の好きと暮らす」なのでしょうか?
松下:目指すのは「自分が好きなものに囲まれた暮らし」ですが、これってなかなか難しいと思うんですよ。モノに溢れている現代には選択肢がありすぎて、そこにこだわりや予算などの条件も加わってきます。すると、心から好きだと言えるモノだけに囲まれた心地いい空間・生活をいきなり実現するのは、どうしても難易度が上がってしまいますよね。
なら、「いきなり」ではなく「少しずつ」実現すればいいんじゃないか、と思ったんです。
―その入口となるのがアートということでしょうか?
松下:はい。アートって、気軽に床・棚に置いたり壁にかけたりできますし、気分によって場所を変えたり一時的にしまっておいたりすることも簡単なので、実は小物感覚で部屋に取り入れられるんです。インテリアや家を買うとなると大きな買い物になりますし。気軽には踏み出せないと思います。でも、アートで、しかもそこまで値が張るものでなければ、初めの一歩としては案外ちょうどいいんですよ。
松下:また、好きだと思える名画があるとしても、それを美術館・ギャラリーで観賞するには「よし、見に行くぞ!」と腰を上げる必要がありますし、大勢の人の中で見るとなると長時間見続けることも難しいですよね。完全にリラックスできる「自宅」で好きな絵を自由に見られる方が、「好き」を存分に楽しめると思います。
―なるほど……お話を伺っているとすごく納得するのですが、それでも日本では「アート」自体が敷居の高いものとして見られがちですよね。
松下:「アート=美術館のもの、日常に存在しないもの」のような先入観を、多くの方がお持ちになっている気がしますし私もその一人でした。高価な作品が、普段は行けないようなギャラリーや美術館に展示されているのが当たり前で、厳かな存在としてアートが位置づけられていると言いますか……
これは私自身スペインに移住してから気づいたことなのですが、ヨーロッパでは美術館や博物館も無料で開放される日があったり、道で突然アートイベントが開催されたり、自宅には必ずと言っていいほどアートが飾られていたりと、日常にアートが溢れています。こうした風土的な部分が、無意識の先入観にかなり影響しているように感じます。
―日本に上陸していないアーティストに絞られているのも、先入観を防ぐことと関係があるのでしょうか?
松下:そうなんです!お客さまが作品を選ぶ際、知名度が高いものが1つだけ混じっていたりすると「聞いたことがあるしこれにしよう!」といった選び方にもなり得ます。それはそれでいいのですが、知名度という物差しがなくなると純粋に自分の好き/嫌いで選べると思うんです。なので、心から好きだと思えるものを選べるように、敢えて「日本未上陸」にこだわってキュレートしています。
―DeCasaで扱う作品は全て松下さんが選ばれているんですよね。「日本未上陸」以外にも、選定の基準はあるのでしょうか?
松下:もちろん、色遣いやストーリー、アーティストの世界観や人柄なども大切にしています。ですが、「女性アーティストの作品であること」も大切な条件です。
近年ようやくニュースなどでジェンダーギャップが話題になり始めましたが、私は1人の女性として日本の「女性活躍」を日常レベルで促進したいんです。多様な生き方・暮らしを体現している女性アーティストが描く、ポジティブな想いやメッセージを乗せた作品を見ると、不思議と「私もこの人みたいに頑張ろう!」と気合が入り、背中を押されるような気がするんですよね。
アートは心のバロメーター
―ラインナップを拝見したところ、ビビッドな色遣いの作品・エネルギッシュな女性作家の作品だけを集めている、というわけではなさそうですね。
松下:「世界を飛び回って大活躍!」という方々だけを紹介すると、それはそれでイメージが偏ってしまいます。「女性として色んな生き方がある」ということを伝え、家事・仕事以外にも自分の頑張っていることや趣味を続けてみよう、迷っていることがあるけど始めてみようと思える原動力になるようなアートを選んでいます。
作品に込められているアーティスト自身の考え・人柄を知るために、ビビッときた作家さんとは実際に会ってみたり、ビデオ通話で話したりして、想いを直接聞いています。そのおかげなのか、DeCasaのビジョンと同じ世界を目指すアーティストがDeCasaには集まってくれるんです。
松下:代表的なもので言えば「Self-Love」シリーズですね。これは、自身の内なる想いに耳を傾けること自体をテーマにしたアートを集めています。
忙しかったり疲れたりしていると、つい自分の気持ちを後回しにしてしまいがちですが、「自分の本音に耳を傾ける」というテーマの作品が視界に入ると、その度に一度立ち止まって、ひと息つくことができると思うんです。「自分の時間、全然持ててなかったな」とか、「あ、ちょっと働きすぎかも」とか。込められたメッセージそのものがリマインドされるのは、他の家具にはないアートの違いだと思います。
―今「違い」という表現をされましたが、アート作品を飾ることと、他の家具を飾ることにはどのような違いがあるか気になっていました。もっと詳しく伺いたいです。
松下:よく「見れば心が豊かになる」という話でアートと比べられるのはお花や観葉植物ですが、これらと違ってアートは時間と共に変化しません。でも、作品自体が不変だからこそ、感じとれるものが変わった時、それは鑑賞する人の気分・考えが変化したことを意味します。つまり、心の変化がわかるバロメーターとなるわけです。しかも枯れる心配もないため、味わうタイミングが完全に自分のペースでいいのもポイントですね。
松下:音楽で例えるとわかりやすいかもしれません。バラード曲が好きだとして、「今日は疲れたな~……」と思った時に聴くと心が穏やかになるのに、失恋した日に聴くとやけに沁みて涙が溢れる、なんて経験あると思います。曲自体はそのままでも、聴き手の状態が変わることで受け取り方・湧き出る感情が異なってくる……つまり、その曲に抱く感情が以前と違えば、自分が変化していることに気づけるわけです。
―なるほど。となると、少し意地の悪い質問になってしまいますが、「音楽のキュレーション」でもいいような気もしてきます……それでも松下さんが絵画・写真にこだわるということは、それらにしかない魅力があるわけですね。
松下:「自然と目がいく」点が、形のない「音楽」と形のある「アート」における最大の違いです。
物理的に、部屋で存在感を放つアートは視界に入ります。つまり、特に意識せずとも毎日見ることになるんです。きっと、さらっと見流す日もあれば、ぼーっと眺める日も、じっくり見つめる日もあるでしょう。その日々の中で「この絵はいつでも明るいなぁ」「あー、こう思うってことは、もしかして私、疲れてる?」「そうだ、プロジェクトの山場だったもんな。案外気負っていたのかも。今夜はゆっくりお風呂に浸かろうかな」と、いつの間にか自分と対話するような感覚で、知らなかった内面が露わになってくるわけです。
―自分と対話して内省する機会なんて、なかなかないですもんね。
松下:「よし!今日は自分についてもっと知るぞ!」と忙しい日々で奮起できる人って、なかなかいないと思うんです。むしろ、どうしていいかわからないような時に自然とアートが視界に入って、好きな作品だからこそぼんやりと見つめているうちに、気づけばすっきりしていたり、前向きになれていたり。
しかも、好きな作品の場合、視界に入るたびに「好き」がリマインドされるんですよね。「この人の絵、やっぱりタッチが好きだな」「この作者の生き様が好きだからこれ買ったんだよね」と視覚を通じて想いが蘇り、気づけば心が潤っている……是非一度、この体験をしていただきたいです。
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