LIFEGIFTにとっての「防災」
―泉さんが「防災」に着目されたのは、どういったきっかけだったのでしょうか。
泉:私は神戸市出身でして、当時の記憶こそないのですが、阪神淡路大震災で自宅が半壊しました。また、大学の入学式の3週間ほど前には東日本大震災を経験して……忘れもしません。そこから防災への感度が高くなり、西日本豪雨をはじめとする災害地へ赴くボランティアに力を注ぐようになりました。
ボランティアは、重機が入れない場所などではマンパワーが求められますから、絶対に欠かせない存在です。しかし、ボランティアを続けるうちにあることを痛感しました。
―あること、ですか。それはいったい何でしょう?
泉:「準備」の必要性です。そもそも災害に備えておけば助かった命があったり、助かった後の避難先でも生活が安心・快適になったりするよな、と。しかし、ボランティアに参加しているとよく耳にするのが「まさか自分が被災するなんて」という言葉で。
LIFEGIFTは、そういった防災に興味がない・必要性を感じていない方が防災準備をするきっかけになれると思っています。
―避難先での安心・快適とは、具体的にはどういうことなのでしょうか。
泉:ライフラインが絶たれたり、いつもの家じゃないところで暮らす必要があったり、先の見えない不安に襲われたり、被災後の生活は「マイナス」になります。その中で、トイレが不便・お風呂に入れない・おいしくない保存食を食べなければいけないといったマイナス要素を打ち消すと、ゼロ……つまり普段の生活に近づけられます。
泉:とはいえ、普段の生活って実はかなり水準が高いんですよね。食べたいものがあればレストランに行けばいい。喉が渇いたら自販機でジュースを買えばいい。甘いものが欲しくなったらコンビニに行けばいい……そんな状態に慣れた私たちにとって、乾パンと水しかもらえない配給はかなりのマイナスです。
そのマイナスを少しでも取り払うために、「普段の生活」とは何か、そしてその中で譲れないものは何かを考えるといいと思っています。「普段の生活にどれだけ近づけられるか」が防災の考え方の基本なので。
―普段の生活に、ですか。確かに私自身も日本に住んでいますが、この普段の生活が当たり前だと思っていますし、いざ被災したときには「まさか被災するなんて」と思ってしまう気がします。
泉:人には、自分の手が届く範囲で起きたことや体験したこと以外を想像しづらい部分があります。なので、被災やボランティアの経験がある人以外、災害のイメージがいまいち湧きづらいんです。すると、災害時にどういったことが起きて、災害後にどのような苦しみがあるかもイメージしづらいと思います。
しかし、裏を返すと災害が起きた時に自分がどうなるかのイメージさえつけば、皆さん防災に取り組むと思うんです。そのためにも社会全体での理解促進が必要です。
―理解促進、とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。
泉:例えば、災害について調べよう、防災グッズを準備しよう、と思ったとします。そのとき正確にびっしり細かく情報が記載されたハザードマップを見ても、「自分がこうなるな」までイメージすることは、どうしても難しいと思います。
そこで、知りたいと思ったときに簡単に「こうなるから、自分はこんな準備をしておけばいいな」とわかる仕組みを作っていきたいです。義務教育における避難訓練なども、より手触りのある体験になっていくといいですよね。
泉:でも、私たちはいわば啓蒙のようなアプローチをするつもりはありません。その領域は、私たちよりも得意で、深く考え続けてきた先駆者たちがいますから。その分私たちは、自分たちがビジネスマンとして経験してきたサービス・仕組みの設計といった知見を存分に生かすモデルを追究しています。
ポジティブな気持ちで防災に取り組む
―では、蓄積されたノウハウ・経験を活かして、LIFEGIFTで防災のイメージをどのように変えていきたいのでしょうか。
泉:そうですね……防災を「自然に暮らしとなじむもの」にしていきたいです。防災グッズにしても、住むスペースを圧迫したり、部屋のデザインを損なったり、理解するのが難しかったり、とんでもないコストがかかったり、といった負荷がかかるものではなく、その人の暮らしに当たり前のように寄り添っている状態が理想です。負荷がかかるものを自分から「やりたい!」という人はなかなかいませんから。
―お客さまに「防災したい!」と思っていただくために意識されているポイントはどこになるのでしょうか。
泉:遊び心……ですかね。「災害に備えよう!」「防災を学ぼう!」と啓蒙のようなことをしても、元々興味がない人の心って動かないと思うんです。であれば、ポジティブな感情に基づいた「自然な行動」が防災に結びつけば最高ですよね。
泉:LIFEGIFTは中身がカード状になっているのですが。表は写真のみになっています。なので自然と「これってどんな商品なんだ?」「消火器はわかるけど……この笛みたいなのは何だ?」と疑問・興味が浮かび、持っているカードを裏返すと、「避難所でこういうグッズが活躍するんだ」「災害時ってこういうことに困るのか」とわかるわけです。
しかも、カタログギフトはもらう側にとってはタダだからこそ、「せっかくだし全商品目を通しておくか」となりやすいかなと。
―まさにLIFEGIFTがカタログギフトという形だからこそ、お客さまが自然と災害に備えられるわけですね。
泉:一方で課題もあると思っています。今のLIFEGIFTで実現できているのは。防災にまったく興味のない人が少し興味を持つ「0→1」です。これからは、少し興味を持った人が防災に取り組むまでの「1→100」も生み出していきたいです。お届けする箱の中や封入物には、もっと多くの工夫ができると思っているので。
とはいえ、軸の部分はぶらさずに、「お客さまの特別なシーン、大切な人の大切なタイミングに寄り添えるもの」であり続けたいです。
―防災に取り組む方の輪を広げていくために、LIFEGIFTでこのようなことをしていきたいというビジョンはあるのでしょうか。
泉:短期的な話ですと、今思い描いているのは、ギフトを貰った方がSNSで積極的に投稿できる仕組みづくりですかね。そうすれば、ギフトを貰った方が送ってくれた方に対して感謝を伝えられるだけでなく、その投稿を見た周りの方もLIFEGIFT、ひいては防災に関心を持ってくださるかなと。
泉:「防災グッズがある暮らし」とだけ聞くと、「赤い消火器が部屋の一角を埋め目立ちすぎてしまうのではないか」といったイメージを持たれてしまいがちです。そこで、LIFEGIFTにある商品が自宅に届くと自分の暮らしがどうなるか、といったイメージが投稿を通じて浮かびやすくなれば、きっと「LIFEGIFTをプレゼントしたら/してもらったらこんな生活になるんだ」と思えるはずです。ちょうど家電・家具などと同じような感覚ですね。だから、ギフトを貰った方が投稿しやすくするキャンペーンなどはもっと増やしていきたいです。
―先ほど「短期的な話ですと」と仰いましたが、中長期的な話となるとまた少し変わってくるのでしょうか?
泉:もちろん、軸は変わらずポジティブな購入体験との繋がりは意識し続けるのですが、今後はコラボレーションを通じて「防災」そのものをコンテンツとして楽しめるようにする、なんてことも目指しています。おもちゃやボードゲーム、カードゲームなどは特に組み合わせやすいと思っていて、現に防災カードゲームは人気を博しています。
百人一首などがいい例だと思うのですが、「楽しみながら覚えていくこと」って多いと思うんです。アニメや漫画とコラボした教材の人気はやはり根強いですし。空想の世界と「防災」という現実世界の話が溶け合うことによる理解促進をデザインしたいですね。
また、使われるシーンをもっと提案していきたいですね。今は相手の人生の節目を祝うために購入される方が多いですが、例えば「勤続○○年」のタイミングで、従業員の方に日ごろの感謝を伝える、といった形で企業さまにもお使いいただけるかなと思っております。
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