アパレル業界の課題は、「仕方ないロス」
―Annautは、繊維商社の若手社員が一丸となって立ち上げたブランドだと伺っています。その経緯とは、一体どのようなものだったのでしょうか。
長谷部:Annautのメンバーは、全員新卒でアパレル業界に身を投じた「服好き」でした。しかし、「服を着る・買う」には興味があったものの、製造過程については全くの素人でした。
生産の裏側を知る機会もなければ、知ろうとするモチベーションもなく「好きなもの着ればいいじゃん」とだけ思っていた私たちが、アパレル業界で仕事をしているうちに「店頭で手に取るまでにはこれだけ多くの人がかかわっていて、きれいな服も生産の裏側ではたくさんの苦労があるんだ」と痛感し、作り手に目を向けるようになったんです。
―業界に身を置く中で、視点が変わっていったんですね。
長谷部:はい。そこから「仕方なく大量のロスを出してしまう」業界の課題にモヤモヤを募らせ始めたメンバーが集まって立ち上げたのがAnnautです。
―「仕方なく大量のロスを出してしまう」というのは……?
長谷部:ファッション業界では、必要以上の在庫を持つのが少なからず「当たり前」になってしまっているんです。
加えて、生地の発注・生産には「最低限この量から」というラインがあるので、ブランドにとっては50mぶんしか要らない生地でも、工場が100m単位でしか生産できない……となれば、残りの50mぶんは無駄になってしまいます。
―なるほど、発注の段階である意味「ロスが確定」してしまうわけですね。
長谷部:それだけではありません。仮にロスのないよう発注時に工夫しても、モノづくりには人がかかわっています。その際にヒューマンエラー……例えば裁断ミスやボタン紛失によって製造中の物を破棄せざるを得なくなったり、部品を追加で発注したりすると、「使えないもの」が少しずつ積み重なります。つまり、「この段階で決定的に無駄が生まれる」というより、製造プロセスを踏むごとにロスが増えていくイメージです。
必要量だけ発注する方がいいに決まっているのに、「人の手が入る以上ロスは製造工程で生じるだろうからしょうがないよね」と多めに発注する……業界の論理、と言うと大げさかもしれませんが、ここはもどかしいところですね。
―”ロスを減らす”ではなく”再利用”によってサステナビリティに貢献しようとしたのは一体なぜでしょうか。
長谷部:ロスを減らすって、私たちだけでなく既にどの企業・工場も努力しているんですよ。「環境を破壊するぞ!」なんてどこも思っていないはずじゃないですか(笑)
それでもなおロスが生じてしまう以上、それを「ゼロにする」ための取り組みは現実的ではありません。であれば、余ってしまった「ロスになるはずのもの」を活かして価値を生み出していくことにももっと目を向けていくべきだと考えました。
―そこから生地の裁断くずを利用したデニムへとつながっていくわけですね。
長谷部:ただ、「生地に裁断くずを利用しました!」だけではAnnautらしくないと言いますか、「Annautがやる意味がない」んですよ。そこでまずAnnautらしさって何だろう、と「これはイケてない」「こっちの方が好きだ」とメンバー同士がとことん思いの丈を言い合って、自分たちが好きになれるものを追求しました。
こうしてメンバー1人ひとりの好き/嫌いが積み重なって形作られたものに、Annautがブランドとして提供したい「みんなが長く着られるもの」という価値を織り込んで、今の製品があります。
目指したのは「誰でも長く着られる服」
―Annautの代表作といえばデニムジャケットとベイカーパンツだと思いますが、これらにはどういったこだわりがあるのでしょうか。
長谷部:デニムジャケット、ベイカーパンツ。どちらも昔からありつつ今なお作られ続ける、代表的なアイテムですよね。Annautのメンバーは古着やミリタリー系が好きで、そういった系統の「王道」を作りたいと思いました。
王道って、誰かが真似して作り続けてこられた証じゃないですか。時代関係なく「イケている」ものだから好きになれますし、自分たちが心から好きなものをお客さまにお届けしたいんです。
長谷部:全サイズゆったりとしたつくりにしたのはこだわったポイントです。「おしゃれは我慢」と言って細身の服を着られる方もいますが、「外に出るためにとりあえず手に取る服」として窮屈なものって選ばないですよね。「気楽に着られること」が、シチュエーションに関わらず愛用してもらえるカギだと思っています。
それに、服を買ってから数年経って購入当時の自分と体型が変わっている……ということ、ありますよね。それに対応できて、しかも体型の異なる親から子へと受け継いでいく、なんてこともできるのが本質的な意味での「長く着られる」だと思うので、ゆったりとした作りにしています。
―サイズ感以外のディテールには、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
長谷部:ジャケットはスナップボタンにして、引っ張ってすぐに脱ぎ着できるようにしました。ボタンを付けたり外したりするのって、てこずると地味にストレスがかかるじゃないですか。他にも、刺しゅうを入れて袖をきれいにまくりやすいようにするなど、とにかく重視したのは「着やすさ」です。
長谷部:また、先ほど「王道」の話をしましたが、「流行に乗りすぎないこと」も意識しています。
流行っているものって、トレンド性があってかっこいいじゃないですか。でもそのぶん、ブームが去ると飽きられがちです。だから私たちが目指したのは、「一軍……とは思っていなかったけど、気づいたらずっと着ているなぁ、これ」と思えるものです。これが、「長く着られる」を追求してたどり着いた、Annautの方針です。デニムは起源が作業着と言うこともあり、丈夫なので長持ちしますしね。
―製品を見ていると、Annautの製品には基本的にメンズ/レディースといった区分がないのですね。
長谷部:そうですね、ほとんどはユニセックスの製品です。まさに「”誰もが”長く、快適に着られる」ように、性別にはとらわれたくなかったんです。
昔は、レディースの服を着ている男性がいたら「なんでそんなもの着ているんだ」と言われたかもしれません。しかし、インターネット・SNSが発展した現代、「自分はマイノリティだ」と思っていたことが世界規模では1人ではないと分かるようになりました。
長谷部:このように社会の価値観が変わってきて「好きな人が好きな服を着て個性を表現すればいい」となってきたのに、服がそれを制限するなんておかしいじゃないですか。
だからAnnautは性別にとらわれないデザインにしたかったんです。つくり以外にも、例えば世の中に「女性は赤/男性は青」というイメージが残ってしまっているからこそ、下げ札やステッチなどに敢えて赤と青の中間色である紫を配色するなど、細部にメッセージを込めています。
―Annautの製品は「デニムなのにデニムっぽくない」と評判ですが、これはいったいどういうことなのでしょうか。
長谷部:「デニムとは思えない柔らかさ」のおかげだと思います。多くの方がイメージするデニムは、ギュッと目の詰まった、しっかりした生地ですよね。でも、Annautは敢えて密度を減らし、繊維と繊維の間にゆとりを持たせているのでやわらかく仕上がります。
ちなみに、綿100%でポリウレタンが入っていないのにストレッチが利いているのには、2つの理由があります。1つは、生地を織る段階で密度を減らすよう工夫をしているから。もう1つは、生地には織る以外に「洗う」という工程があるのですが、そこに少ない水でも柔らかく仕上げられる特殊な機械を導入しているからなんです。
―たしかに、触ってみると他のデニムと質感が全然違いますね、軽やかといいますか……
長谷部:デニムって、染色や洗浄など製造過程ですごく水を使うんですよ。なので、環境負荷低減のためにその機械を導入したところ、結果的に柔らかさにもつながったんです。
あとは「色味」も特徴です。デニムと聞くと、濃いインディゴが浮かぶじゃないですか。対して、Annautのデニムはかなり淡い色合いです。
というのも、まず作る流れとして、まず国内のデニム工場から裁断くずを回収し、それらを機械でくだいて綿にします。そこに新しいコットンを混ぜ合わせて糸を紡ぎ生地を織り上げることで、Annautの生地が出来上がります。その際、表面に出やすい縦の糸に新しいコットンを使い、デニムの裁断くずは横糸に使っているので、白が強めに見えるんです。
長谷部:リサイクルにおける課題としてひとつ言えるのは、「どんな素材でも回収してリサイクルできる」わけではないという点ですね。技術的には可能ですが、素材の種類の制限なしに回収すると、出来上がる生地の混率が分からなくなり、管理することができなくなってしまいます。
私たちの「CLOTHLOOP」という技術は、お客さまに長年ご愛用いただいた商品を指定の場所に送っていただき、原料に戻して再利用する循環のシステムです。こうした取り組みを広げていきたいですし、Annautには「海外の工場で発生した裁断くずを活用したい」という野望がありまして、その方法も模索しています。
-
- 3
- 2
- 2
- 1