かいこが紡ぐ、新たな食文化
―ビジネス的な視点のみを重視して事業を展開する人もいるなかで、梶栗さんはすごく地球全体のことを考えていますよね。「社会の役に立とう」という原動力は何なのでしょうか。
梶栗:”いい人間”でありたいが人生のテーマなんです。。昔、悪性リンパ腫の可能性が極めて高いと診断されたことがあって、そこから正式な検査結果がでる約3カ月の間で、「いつ死ぬかわからないなら意味のある人生にしたい」と考えるようになりました。その中で、他の誰かの役に立つことをやりたくなったんです。
梶栗:検査結果が出る前日、何も言っていないのに「検査結果、もうすぐだよね」と心配してくれる方々がたくさんいらっしゃって、凄く救われたんですよ。月並みかもしれませんが、「人のためになるのってこんなに素敵なんだ」「この人たちのために何かしたい」と心から思いましたし、連絡をくれた人たちは今も全員覚えています。
彼らみたいに、人のために動ける人間になりたい……これが僕の言う「いい人間になりたい」です。
―人・社会に対して何かを返したい、と考えた結果、SILKFOODにたどり着いたんですね。
梶栗:そうですね……また、食品業界に身を置いてきたからこそ感じるのかもしれませんが、私たちは心のどこかで食品が”あって当たり前”と思ってしまっているんですよね。その結果、食品全体の価値が下がり、フードロスや大量廃棄に対する抵抗感が薄れてきていますよね。
食品業界の企業価値が上がりにくいのも根は同じだと思っていて、色んな企業が参入しすぎて価値が下がり、非合理的なことがいっぱい起きています。品質ではなく広告の量が売り上げに寄与してしまうケースを見ると、どうしても納得できなくて。
梶栗:そこに対して僕らができることとしては、今の環境負荷が高い食材に代わる新しい食の選択肢を生み、それを当然のように食べられるようにする過程で、環境貢献はもちろん食品の価値・尊さも伝えたいです。我々の商品を食べた人が「そもそもこれってなんで食べてこなかったんだっけ?」という疑問を抱けば、そこから意識が変わると思っています。
―食が”当たり前のもの”になりすぎている原因はなんなのでしょう?
梶栗:長い歴史で培われたマインドですよね。人間の食への好奇心って”クレイジー”だと思っていて、すべての欲求の中で食欲が最も強いと思っています。孵化しかけた鳥(バロット)を食べたり、燕の巣を食べたりと驚くようなものを食べてきた歴史もあれば、品種改良や飼育技術の改良を通じて、より一層おいしいものを作り出してきた歴史もあって。さらに美味しくするために、生きることだけを考えれば不必要なものを加えたりもするんですよ。
他の動物と比べても人間は食べ物の選択肢がすごく多くて、ここへの情熱は半端ないですよね。
―食への飽くなき探求がありますよね。
梶栗:この特殊な行動の積み重ねで形成された人類の食文化って、すごく尊いものだと思っています。それが環境問題をベースに、「〇〇を食べない/なくしていく」みたいな方向に進んでいますが、それって”豊かさ”からはかけ離れる気がしていて。便利で、楽しくて、持続可能なものがあればそれが一番いいじゃないですか。だから「発展」によって課題を解決したいんです。そういう意味で、僕にとって昆虫食はドストライクなんです。今まで食べてこなかったものを食べるという文化的な発展によって、持続可能性が高まれば最高じゃないですか?
人類が長い歴史の中で、狂気的ともいえる程に積み上げてきた食の歴史が失われるなんて、残念でなりません。かいこが選択肢に入ることで相対的に他のモノを選ぶ人が少しでも減れば、全体のバランスが整い「昆虫を食べることで他のモノを安定的に食べられる」が実現されます。
―その課題は、かいこだとどう解決できるのでしょうか。
梶栗:かいこは単一的な餌で成長できます。日本ではかいこのエサとして桑が有名ですが、桑は単体での用途がほとんどないんです。つまり、かいこを育てるために、同時に桑も育てなければならない。だから、既に他の用途に広く使われていながら、かいこの餌にできるものはないかと考え、その結果、キャッサバにそのポテンシャルを見出しました。
キャッサバは、世界だと4~5番目に育てられているメジャーな作物です。日本ではタピオカの原料としても使用されています。キャッサバは、根である芋の部分だけが使われていて、葉は多くの場合、活用されずに捨てられてしまいます。そこで、葉をかいこの餌として利用すれば、無駄のないサステナブルな生産が実現できると考え、ベトナムのキャッサバ農家さんと連携して、かいこを生産しています。
今後は、日本の遊休農地を使ってこの生産を実現したく思っています。そうすれば、国内の食料自給率も上がるし、かいこから「たんぱく質」と「脂質」、キャッサバ芋から「炭水化物」と三大栄養素のすべてを効率的に生産可能です。食卓にキャッサバとかいこが並ぶ日も、そう遠くはないと思いますよ。
SILKFOODがもたらす、個人のウェルビーイング
―”人類”という大きなスケールではなく、よりミクロな”個人”にフォーカスしたとき、SILKFOODは幸せにどう影響するのでしょうか。
梶栗:3つの要素があります。それは美味しさ・栄養・環境への寄与です。美味しさと栄養は言わずもがな、環境への寄与は「ちょっといいことをしている」という満足感で心が満たされるかなと。
食事を“食べる”ためだけのものではなく“環境や社会を良くするもの”もしくはそういったことに取り組む“自己表現”のツールとして位置付けることで自尊心が高まるといいますか。これらが個人の心と身体のウェルビーイングにつながるのではないでしょうか。
―その中で、SILKFOODの商品と他の商品を置き換える一番のメリットは、どれなのでしょう?
梶栗:環境への寄与、ですかね。「ちょこっといいこと始めませんか?」という姿勢でブランドを展開しているので、新しいサステナブルな食品に手を出してみよう、となったときに選択肢の一つになりやすいものにしたいです。例えばチップスはナチュラルなものを好む方のために原材料を4種類だけにして、かいこのうまみ・香ばしさが引き立つようにしましたし、スムージーは1日分のフルーツと同時に良質なたんぱく質を摂れる珍しいものにしました。
―新商品としてチョコレートを発売されましたが、これからどのように商品を展開していこう、などビジョンはあるのでしょうか。
梶栗:今までは手を動かしながら、そしてお客様の反応を見ながら、試行錯誤を繰り返してきました。ブランドとしてようやく商品開発に本腰を入れられるようになり、大きく3つのジャンルを見据えています。
梶栗:まず、美容プロテイン系のパウダーです。良質な脂肪酸が含まれていてたんぱく質の質が高いかいこだからこそ開拓できる、新たな領域です。
次にパティやナゲットなどお肉の代替となる製品です。”肉・魚・植物のいいとこどり”で、カロリーもコレステロールも低いけど食べ応えがあって、しかも栄養価が高いものがつくれるんじゃないかと。
最後は、昆虫食に初めて触れるとき手に取りやすい、シルクのイメージを活用した白くて丸い上質なお菓子です。新しく出したチョコレートはまさにこういう想いで開発した商品で、シルクをイメージした丸いホワイトチョコレートに仕上げ、ビジュアルだけでなく、かいこの味も活きるようにしています。
そしていつかは、「かいこの新商品に出会う=実はSILKFOODの会社が原材料を提供している」となれるよう、原料の提供も進めていきたいです。
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