昆虫食の”最適解”
―「昆虫食」と聞くと、最近ではコオロギを使った食品が見られるようになりましたが、「かいこ」という素材の魅力を発見したことでブランド立ち上げに至ったのですか?
梶栗:いえ、初めは「新規事業として食品メーカーにいたバックグラウンドを活かしたい」「食の未来を支えられる食ブランドを立ち上げたい」と思っていました。では予想される食の未来ってなんだろうと考えると、お肉などのたんぱく源が不足し、貴重で高価なものになるだろうと。その中で、安くて持続可能になるポテンシャルを持ちながら生産手法が確立していないのが昆虫食だと思い、最適な食材としてたどり着いたのがかいこです。
―「最適」とはかいこにどういった要素があるからなのでしょうか。
梶栗:”量産”と”用途”です。まずかいこは世界で唯一とも言われるほど希少な”産業用に養殖されてきた昆虫”なので、飼育のノウハウ・研究が蓄積されています。そこに「食品用」という要素を加えれば今までの養殖方法をリノベートするだけで済みます。
また、用途についてですが、かいこは汎用性に優れた味と加工特性を持ちます。パウダー状にすればパンやお菓子、ペーストにすればお肉や練り物のように。液状にすれば卵の代替にも。味のクセも少ないので、幅広い用途でお客さまの食シーンに馴染みます。
―その特徴は、かいこならではなのでしょうか。
梶栗:そうですね。筋肉をつける、という目的なら肉や魚のたんぱく質は優れています。また、身の周りにある加工食品を思い浮かべていただくとわかるように、乳や卵の方が加工はしやすいんです。
では、かいこは?というと、質と加工しやすさを両立する”ハイブリッドたんぱく源”です。なので、例えば硬い肉や魚が食べられずに筋肉量が落ちてしまいがちな高齢者の方にも、良質なたんぱく質を提供できます。
また、環境への優しさはかいこが頭一つ抜けています。さすがに大半の植物に比べると環境負荷は大きいですが、動物性たんぱく質を摂れるという点では前提が大きく異なりますし、
言うなればかいこは「肉と植物の間」です。環境負荷が肉よりも低く、たんぱく質は植物より豊富。オメガ3脂肪酸・葉酸・亜鉛が多く含まれており、栄養素は62種類という研究結果もあります。
梶栗:なにより、「シルク」のイメージは他にない強みです。昆虫食には抵抗があるけれど、「SILKFOOD」と聞くと白い・上質・なめらかといったポジティブな印象を受ける、というお客さまの声も多くて。だから、ホワイトチョコレートなどシルクのイメージを活かした商品を提供したいですよね。
―ちなみに、かいこは私たちの生活では食材として一切使われてこなかったのでしょうか?
梶栗:いえ、むしろ食歴はかなり長いんですよ。長野県の一部では今もかいこの佃煮が食べられていて、故郷の味として思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
そもそも昆虫が食べられなくなった理由の一つに、昔は安定的に作るのが難しかったというのがあります。狩り・採集文化の中に昆虫はいましたし、養殖を視野に入れると小さいのに収穫に手間がかかり、餌も必要なので効率は悪いですよね。
その一方で、かいこは私たちの服などに使う上質な絹を生み出すために品種改良が重ねられてきたおかげで、他の昆虫よりも圧倒的に安定した養殖ができます。
しかし、今までのかいこの品種改良の目的は「良い絹を作る」であって、「良い食品を作る」ための改良はされてきませんでした。というのも、美味しい選択肢が手に入りやすくなった中で、わざわざかいこを食べる必要がないわけです。そのため食用として見られてこなかったのですが、これからはむしろ「かいこを食べるべき時代」になります
だから私たちは、かいこの概念を変えるために品種や育て方を模索・開発しているんです。
―かいこの美味しい・美味しくないって、食べたら決定的にわかるものですか?
梶栗:昆虫食の「美味しい」って、食べ慣れていない今の時点では「マイナス要素が少ない」なんですよ。食料として美味しくするために品種改良を続けられてきた牛肉と、改良がまだこれからの昆虫を比べれば、歴史を考えても前者の方が美味しいに決まっています。
だから私たちは”美味しくするための”昆虫の品種改良にこだわっていますが、現時点での「美味しい」は、既存のたんぱく源に味の近い”誰もが親しみやすい味”だと思っています。かいこはほのかに豆のような風味のする、クセの少ない味だからこそ可能性があります。
―美味しいかいこを作るために、どういった部分にこだわっているのでしょうか?
梶栗:いかに美味しい状態で収穫して、フレッシュな状態から作っていくか、ですね。野菜やお肉と同じで、収穫のタイミングや方法、保存・処理の仕方などが最も大事です。
伝統的な昆虫食は姿をそのままに調理して食べますが、正直なところ今は姿形に馴染みがないですし、見た目でちょっと「うっ」となってしまう方も多いと思います。なので、今の時代に食べてみたいと思っていただくには、加工することが前提なんです。そこが難しくて……美味しい食品は加工しない方が美味しいんですよね。美味しい牛肉はそのままステーキにするのが美味しいですし、野菜もとれたてをそのまま食べるのが美味しい。でも昆虫には見た目の観点からも”加工しなければならない”という条件が加わります。
だから、お客さまに手に取っていただくためにも、収穫のタイミング、収穫・保存・処理・加工を一気通貫でこだわりながら探っています。
サステナブルな選択肢として選ぶべき食材「かいこ」
―SILKFOODが目指すゴールはどこなのでしょうか。
梶栗:かいこという食糧を世界のどこでも食べられる社会ですね。これはSILKFOODだけで実現できることではないですが、私たちが普段食べている小麦・米・卵のような食資源と対等にかいこには並んでほしいんですよ。
その選択肢の一つとしてSILKFOODがあればいいと思っています。その時、他の国で食べるかいこが実は私たちのかいこだった、と原料を供給する食品原料メーカーとしてもお役に立ちたいです。
梶栗:また、誰もが好きなものを何も心配せずお腹いっぱい食べられる世界を目指しています。「○○は環境によくないから食べないでおこう」ってすごく残念なことだと思うんです。昆虫が食事の選択肢に入れば、他の食材と置き換わって、そのぶん与える環境負荷が減ります。つまり、持続可能性が保たれます。別に食生活の主役になる必要はなくて、ラインナップの一つとして顔を並べることで、”好きなものを選んで食べられる社会”に貢献できます。
―その段階になるまでにはハードルも多いと思います。今乗り越えるべき課題は何なのでしょうか。
梶栗:わかりやすいのは、昆虫を食べることへの抵抗感と慣れですよね。でも、この課題の根本はシンプルに食経験だと思っています。日本やヨーロッパの大部分では根付いていませんが、古くから昆虫を食べる地域はもうあります。なので、若い人やまだ生まれていない人たちにとって「生まれた頃から身の周りにあって、みんなが食べるもの」になれば問題ないと思いますし、慣れなさは割と時間が解決すると思います。長野でなぜかいこが食べられ続けているかといえば、「それが美味しいものだ」という文化の中で生きてきたからです。食材としてのかいこが当たり前なんですよね。
考え方としてはジビエに近くて、嫌いな人は「なんでこんなもの食べるんだ」と言いますが、好きな人は美味しく食べるじゃないですか。そんな位置づけですよね。
―時間が解決するとはいうものの、もっと私たちが昆虫食に早く慣れるように商品開発で意識されていることもありますか?
梶栗:食シーンと見た目・デザインはそれぞれ意識しています。初めこそハンバーガーという食事の主役にかいこを使いましたが、昆虫をすぐメイン食材として取り入れるって、急には難しいのかなと。なら、「ちょっと試してみようかな」と気軽に思える食シーンとしてお菓子やお茶請けのような位置づけでチップスを作りました。新商品のホワイトチョコレートもまさに同じですね。また、内容がわかるようなイラストなどを載せているのでお客様に中身をイメージしてもらえればな、と思います。
―梶栗さんの中で、「こんな人にSILKFOODの商品を選んでほしい」という想いはありますか?
梶栗:生活においてサステナブルな選択をしていきたい人に選んでいただきたいです。「せっかく食べるならサステナブルな食品にしたい」という方々の新しい選択肢になれたらいいですね。
また、美容を意識されている方や高齢者にも召し上がっていただきたいです。たんぱく質が多い・摂りやすいことはもちろん、オメガ3脂肪酸は他の食品から摂りにくいので。
―他の選択肢に比べてかいこがサステナブルな部分はどこなのでしょうか?
梶栗:それで言うと、かいこの良さはサステナブルだけではない合わせ技で生まれるものだと思っています。サステナブルなたんぱく源であるという事実と、シルクの良質なイメージが合わさることで、SILKFOODというブランドが成り立つわけです。
「環境に一番いいのは何!?」とサステナブルな要素だけでの比較って、あまりしないと思っていて、その点かいこは、シルク・養蚕業からイメージされる文化性、環境・健康への好影響、”昆虫食”という新規性が合わさり唯一の存在になっていると思っています。
※商品情報は執筆当時のものです
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