もくじ
生で食べられる最上級の果物を、敢えて加工する意味
―FRUITESTが目指すのは、どういったところなのでしょうか。
有井:1つ明確なのは、加工品の概念を変えることですね。果物加工品業界へのアンチテーゼと言いますか……。質の高い果物は生食として贈答品などに使用され、熟れすぎたものや傷物など状態のよくないものほど加工に回ります。でも、加工されるものは加工に回る前提で作られることが多く、質より量、となりがちです。それを逆転してみたいんです。良い品種の、いい作り手さんの、生で食べて美味しいもの。これを敢えて生ではなく加工して、日本だけでなく海外のお客さんにも届けられるものにすることで、日本の果物の凄さを感じてもらいたくて。
何より、*最上級だと思う果物を、難しい加工法で、美味しさを損なわずにお届けするということ自体ワクワクしますし(笑)
自分が以前海外で仕事をしていたとき、「日本の最高品質のフルーツだよ」と出された果物が、あまりにも想像とかけ離れていたんです。だから、こだわった果物はこんなに美味しいんだぞ!ともっと広める・知ってもらうために、凄さの片鱗が感じられる方法を考えてたどり着いたのがFRUITESTです。
有井:また、日本では農協が地域単位で取引するので、地域の壁を越えてブランドを創るというのは必然的に難しいのが現状です。しかし各地の果物がFRUITESTという1つのブランドに集まり、「JAPANブランド」として海外に出ていくことができれば、理想的だなと考えています。
―有井さんが、買ってくださった方に届けたい価値とはどのようなものでしょうか?
有井:完熟した香りを楽しめるFRUITESTの商品は、産地から時間的・空間的にも離れれば離れるほど価値があります。国内ですら産地でとれたものと東京のスーパーに置かれているもの、美味しさがまったく異なりますから、海外となればなおさらです。「うちの国で日本の美味しい果物はもう食べられるよ」と言う海外の方々にFRUITESTの商品を食べて感動して驚いていただきたい……ある意味おせっかいです(笑)
しかも、レア・ドライの形なら品種・熟度にこだわった果物の香りが凝縮されるので「え、完熟した果物ってこんなに香るの?」と驚いていただけると思いますし、お酒にも合わせやすいです。このFRUITESTでの体験を経て、日本の果物のファンが一定数出来たら、その方たちへ生の果物をお届けして、さらに興味を持ってくださった方は産地ツアーへご招待……なんてこともしたいですね。
―産地ツアー、ですか。
有井:はい。自己満足かもしれませんが、「こだわり」っていろんな企業が謳い文句にしますから、じゃあどれくらいのこだわりなの、というのは実際に見ないとわかりません。
農家さんを訪ねると、「果物なんてみんな一緒」とは思えなくなります。こだわっている農家さんのこだわりは想像を軽く超えますし、同じ品種でも味や香りは農家さんによって全く異なります。
料理だと、同じメニュー名でも美味しいものとそこまでではない物があるじゃないですか。でも不思議なもので、それが果物になった瞬間、見た目でわからないからか同じ品種だと同じような味だと思われてしまいがちです。その結果、市場流通で「品種が同じだから」という理由で画一的な価格設定がされて、こだわられたものとそうでないものの値段がほとんど変わりません。
すると、「頑張っても頑張らなくても値段が一緒なら、適当に作った方がいいよね」と思う農家さんが増えてしまいます。その歯車を少しでも逆回転させられれば、本当においしいものが増えて、食べてハッピーになる人も増えて、こだわった農家さんへお金が回っていく……これが理想ですね。FRUTIESTを通じて、本当にこだわっている人が、きちんと評価されるようにしたいです。
レア・ドライの先へ。本当の美味しさに気づくきっかけを
―日本の農家さんの凄さって、日本人でもわからない人が多いと思います。国内でFRUITESTはどう展開していきたい、などありますか?
有井:まだまだモノづくりの段階だととらえていて、国内では販路よりもまず商品開発に注力したいですね。全国には四季折々の多様な品種がありますから、ラインナップを広げていきます。各地の果物をレア・ドライにしたものが常時20種類くらいはあるように回転させていきたいです。
でも、加工方法はレア・ドライだけにこだわり続けたいわけではありません。例えばブドウで言うと、レア・ドライにするよりもフローズンにする方がより美味しい、という品種もありますから。当たり前ですが、品種によって向き不向きがあるので、最適な加工を求めて色々チャレンジしたいですね。その先に、「レア・ドライのシャインマスカットに赤ワインのジュレを入れてブルーチーズでふたをする」なんて方向もやってみたいです。既に個人的にアレンジレシピを開発しているファンの方もいますし、マカロンなどの高級な洋菓子と同じような世界観で商品を開発するのも面白そうですよね。
―世の中をこう変えたい、といったビジョンはあるのでしょうか?
有井:いえ、「世の中のココをガラッと変えたい!」ではなく、一部の人に「こんなものや考え方があるんだ」「良い果物って、香りが他と違うんだ」「言われてみれば、加工品でこんなに香るものって口にしたことないな」と考えるきっかけにしてほしいです。ひょっとすると世の中の99%の人には関係ないかもしれませんが、私と同じような趣向を持つ1%の人が気づいて、評価してくれる……そんなことを目指しています。
もし果物の本当の美味しさを知って、審美眼が養われれば、今アクセスできていない「本当においしいものを食べたときの感動」への扉を開くことができるかもしれません。だから私たちは、農家さんの常軌を逸したこだわりの詰まった果物を、レア・ドライに固執せず、あらゆる形で届けていきたいですね。
*FRUITESTの考える「最上級」:「おいしい”品種”を、熟練の”農家”が情熱をそそいで育て、”完熟”のタイミングで収穫したもの」
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