押しつけないから、「なんかいい」
―タイに通ったり、ゼロからコーヒーについて学んだり、矢野さんの原動力とは何なのでしょう。
矢野:コーヒー屋さんってたくさんの選択肢があるじゃないですか。しかもどこも品質が良くて、価格もわりと近しくて。コンビニは、あんなにおいしいコーヒーを100円で出しているんですよ。コストパフォーマンスなどを考えれば、大手企業にやはり分があります。
だから僕は、ビジネスだけでは測れないアートと言いますか、ロマンを詰め込んでいます。自分が提供・表現したい、己の内側からあふれるものを形にした結果がLaughterです。なので、独りよがりにならないよう整えることには気を付けていますが、好きなことをしているだけなので苦しくないですし、強いて言うなら内側からあふれてくる想い自体がモチベーションですかね。
―お客さまに魅力を感じてもらうために大切にしている信念・こだわりを教えてください。
矢野:「押しつけない」ってところですかね。お客さまにとって、「タイの農家の方々とフェアなダイレクトトレードをしているんですよ!」と声高に言われるのと、自分からLaughterを調べて「こういうブランドなんだ」と深く知っていくのって、全然違うじゃないですか。
Laughterをネットで検索したら少しだけそういった情報があったり、雑誌・チラシの隅にちょこっとだけ詳細が載っていたり……大々的に打ち出さずとも、やっていることや背景がブランドからにじみ出て、お客さまに「なんかいいじゃん」と思ってもらえたらな、と。
なにより、フェアトレードを打ちださずとも、値段に合った高品質なコーヒーを提供して、結果として農家の方々の所得が上がる、でいいと思うんですよ。
ーお店にもこだわりが詰まっていると思うのですが、教えていただけますか。
矢野:注文を受けてからザーッと豆をすくって、大きなコーヒーミルで豆を挽いて、パッキングして、提供する。この流れを生で見られるようにしています。いつどうやって商品の形になったのかわからないものを機械的に受け取るだけなら、オンラインでいいじゃないですか。
でも、せっかくお店に来てくださっているんですから、待っている間も豊かな時を過ごしてほしくて。音、香り、雰囲気を肌で感じてもらえるよう心掛けています。
あらゆる境界を越えた、Laughterという「国」を創る
―Laughterは「コーヒー」とあえて名前に付けていないと伺いました。コーヒー専門店であるのに、なぜ「コーヒー」とブランド名に入れなかったのでしょうか?
矢野:小さい頃から僕は「ないものを創る」のが大好きで、みんなが笑顔になれるLaughterという「国」を創りたいんです。その「○○屋さん」と表せないLaughterを実現する過程として、今はコーヒーをメインで扱っているというだけなので、良いコーヒーを提供し続ければ店名に「コーヒー」と付けずともコーヒーを売っていることは伝わりますから、なら変に限定する名前にはしたくないな、と。
ちなみに、他ジャンルとのコラボを積極的に進めているのは、もちろんコーヒーが様々なものと親和性があってジャンル間の橋渡しができるからというのもありますが、前提としてその夢があるからです。
ただ、僕は敢えて「~年後にはこうなっていたい」というビジョンを詰めていません。というのも、具体的なビジョンを持っていた多くの企業が、今回のコロナ禍でそれを修正することになりましたよね。こうした不測の事態って、今後も定期的に来ると思うんです。
だから、ビジョンを具体的にすることよりも「僕の好きなLaughter」を知ってもらうための努力にリソースを割いて、その中で「ちきりやガーデン」さんとのコラボのような「コーヒー×○○」を形にしていきたいです。
―今後Laughterがつくりたい世界観の実現のために考えている構想などあれば教えてください。
矢野:テーマパークのような、農園を併設した店舗を郊外に構えたいですね。車を走らせて、林を抜けるとLaughterが!みたいな。コーヒーは日常の飲み物として気軽に楽しんで欲しいという大前提はあります。
Laughterのデザインも、日常に溶け込むようにしています。ヨーロッパで、飾り気のない紙袋に入ったフランスパンを抱えているワンシーンって、ただの日常なのになんとなくおしゃれじゃないですか。そこに寄せた「クラフト感」はプロダクトデザインで意識しているポイントです。
でも、僕がLaughterを始めるきっかけになった原体験のように、自分たちで収穫したコーヒー豆を焙煎して飲む、という一連の流れをエンターテイメントのように体験してほしいです。普段とは別軸の、非日常的なコーヒー体験に感動していただける店舗を造ろうと思い描いています。
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