もくじ
はじまりは「なぜ焼酎は流行らないのか?」という疑問
―「焼酎」に興味を持ったきっかけを教えてください。
橋本:学生時代に働いていた焼酎バルで、焼酎を飲んだことがきっかけです。当時は20歳になったばかりでお酒には全然詳しくなく、なんなら「焼酎なんておやじくさい」といったイメージを持っていました。でも、実際に飲んでみたら本当に美味しかったんです。
そこから「ほかの焼酎はどんな味なんだろう」と興味を持ち、お店にある80種類ほどの焼酎のなかからいろいろと試すようになりました。そうしているうちに、香りが強くクセのある焼酎の味の魅力にどっぷりはまってしまったんです。
—そこから事業を起こすまでに至ったのは、どういった経緯があったのでしょうか。
橋本:あるときに日本酒のスタートアップが盛り上がっていることを知って。そこから、いろいろと調べてみたところ、日本酒の国内消費量は落ちている一方、海外ではウケていたり、国内でも高価格帯の需要は高まったりしていることを知りました。「あれ、じゃあ焼酎はどうなんだろう?」と目を向けてみたら、その現象が焼酎ではまだ起きていなかった。
「もしかしたら焼酎には大きな可能性があるのではないか」「日本酒のようなムーブメントを起こせるのではないか」と思うようになりました。
―いわゆるビジネスチャンスがあると思ったということでしょうか?
橋本:そうですね。最初は「これは、売れる」というビジネス視点だけで考えていました。でも、蔵元さんや業界関係者の方に話を聞いたり、海外で焼酎を売っている商社を手伝ったりするなかで、思いが変わっていきました。焼酎に対して愛が芽生えたというか(笑)
―どういったところに惹かれたのですか?
橋本:九州でしか作られていないという特色があったり、400年以上の歴史や伝統があったり、製造手法が独特だったりと、学べば学ぶほどに新しい発見があるところがすごく面白かったんです。
これは主観になってしまうのですが、蔵元のみなさんの人柄もほんわかしていて好きなんです。基本的に蔵元は100年企業で、伝統を守ってきたという点も、非常にリスペクトしています。焼酎を作っている人たちのことを知れば知るほど、一緒にいいお酒をつくりたいと強く思うようになりました。
―焼酎そのものと作り手への思いがあって起業したということですね。
橋本:そうですね。あとは、焼酎について学ぶうちに、業界に対しての課題感を持つようにもなって、起業を決心しました。
お客さんの離脱がこわい。伝統があるがゆえの焼酎業界の課題
—具体的には、どのような課題感があったのでしょう?
橋本:業界の構造上、新規参入が難しく、イノベーションが非常に起こりづらい状況になっているんです。これは約100年前に国によって築かれた体制が、いまもまだ残っているためです。というのも、現在は国家収入のうち酒税が占める割合は1.5%程度ですが、100年前は40%と1位の財源でした。
一方で、当時はお酒の密造も起こっており、国は貴重な財源である酒税を確保するため、焼酎製造の条件を厳しくし、新規参入ができないような体制を構築しました。
クラフトビールやウイスキーは、後に規制が緩和されたのですが、焼酎はまだ規制が強いんです。だから、いい意味でも悪い意味でも、伝統が踏襲されていく。価格もその一つで、焼酎は昔から値上がりがなく、ほかのお酒に比べて安すぎるんですよ。
―たしかに、焼酎は大体どれも2,000円くらいという印象です。
橋本:焼酎の業界内でも、価格に対する問題意識がなかったわけではないと思います。でも産業構造が変わらないなかで、どの焼酎メーカーも既存のお客さんの離脱を恐れて高価格帯の商品が出しづらく、多くが原価ベースで販売している。一方で、ウィスキーやワインなどは非常に高価なものがあります。それって原価以上に、作り手の思いや培ってきた技術、積み上げた歴史などが評価されているからですよね。
新規参入者のぼくらとしては、焼酎の歴史や伝統といった「価値」を広めることで、従来の規定を覆し、いずれはウイスキーやワインなどの価格設定と同じ水準にまで上げていければと思っています。だからこそ、リスクを背負ってでも高価格帯の商品を出すべきだと考え、SHOCHU Xの第一弾の商品「希継奈(きづな)」は、9,400円*という高価格帯に設定しました。
*商品情報は発売当時のものです
大事なのは、わかりやすさ。焼酎の「クセ」をいかした「希継奈」とは?
—では商品の「希継奈」についてもお聞かせいただきたいのですが、完成までにどのような経緯がありましたか。
橋本:酒蔵さんのなかには、作りはしたけれど、商品化をしていないお酒が蔵にたくさん眠っている場合があります。「希継奈」を共同開発したゑびす酒造も、「3年以上熟成していないお酒は世に出さない」という独自ルールのもと、商品化していないお酒をたくさん保管していました。
じつは、そういったお酒は実験的に作られたものがほとんどで、最後まで商品化されなかったり、30年くらい熟成させたのに在庫処分的に2,000円程度で売り叩かれたりされていることがあります。30年もののウイスキーは30万円するものもあるのに、おかしいじゃないですか。だからぼくとしてはそういった焼酎を使って新商品を作りたいと思い、以前より親交のあったゑびす酒造さんに、共同開発のお願いをしに行ったんです。
―プロダクトの開発において、こだわった点を教えてください。
橋本:SHOCHU Xとしては、まず焼酎を飲む人を増やすことで愛好家を育てていければと考えているので、ビギナー向けのプロダクトを目指しました。そのため、味は「わかりやすさ」を大切にしています。
―わかりやすいとはどういうことでしょう?
橋本:すごいまろやか、かつ麦の深みが強調されていて、焼酎ならではの「クセ」を楽しめる味です。全麹3段仕込みと呼ばれる、通常の3倍の麦麹を使う製法を採用し、5年熟成させることで麦の味や香りが最大限引き立つようにしました。決して飲みやすくはないですが、ビギナーの人にこそ焼酎ならではの味を提供したいと思ったんです。
―初めての人にこそ「本格派」を体験してほしいということですね。
橋本:そうですね。あと、海外への展開も見据えてアルコール度数は高めに設定しました。個人的に焼酎が海外で広まらない一つの原因は、アルコール度数が低いからだと思っていて。というのも、日本以外で製造・販売されている蒸留酒(発酵によりできた酒を蒸留しアルコール度数を高めたもの、ウィスキーや焼酎など)で25度という低いアルコール度数のものはないんですよ。だからどう飲めばいいのかわからないのだと思います。
なので、通常の焼酎は25度前後ですが、「希継奈」は40度で作りました。
焼酎は「海外でブームになる」兆しがある!?
—海外展開も視野に入れているとのことですが、現在、焼酎は世界でどの程度流通しているのでしょう?
橋本:まだまだ広まってないですね。国内市場の年間流通額にはそれほど差はないのですが、海外の輸出額で見ると日本酒が約240億円なのに対して焼酎は約15億円。海外に駐在している日本人の方が飲んでいる程度の規模感でしかありません。
―まだまだ海外での需要は低いと。
橋本:ただ、最近の世界のお酒ムーブメントを見ていると、焼酎には大きな可能性があると感じています。じつは、メキシコの「メスカル」、ペルーの「ピスコ」というお酒が海外全体で盛り上がっているんですよ。この二つのお酒、焼酎とすごく似ているんです。
―「味」が似ているのでしょうか?
橋本:味というより製造工程ですね。蒸留酒は基本的に、完成までに2、3回は蒸留する必要があるんです。でも蒸留は回数を重ねるごとに、原料の風味を失ってしまう。一方、焼酎・ピスコ・メスカルは蒸留が1回で済むため、素材の香りを濃く残したまま完成できるんです。世界で見ても、1回の蒸留で仕上がるお酒はかなり珍しいんですよ。
—いわゆる「クセ」が強い、ということでしょうか。
橋本:そうですね。その「クセ」や個性の強さが、多様性や個性が重視される現代において受け入れられているのではないかな、と。この流れを考えると、焼酎も近い将来、広く受け入れられるようになるのではと思っています。
焼酎は人と人をつなぐ。お酒の役割は「酔うためのもの」から「味わうもの」へ
—実際の購入者層はどういった方が多かったのでしょうか?
橋本:想定通り、ビギナーの方が中心となって買ってくださっていて、リピーターになってくれる方もいます。その背景には、お酒の役割が「酔うためのもの」から「味わうもの」に徐々に変わってきたことがあると思います。
特に若い方やお酒を飲み始めたばかりの方ほど、「安くてもいいから毎日お酒を飲みたい」ではなく「1週間に1回でもいいから、上質なものをじっくりと味わいたい」と考えている方が増えてきています。
SHOCHU Xはぼくの思いはもちろん、酒蔵さんのストーリーも伝えるようにしているので、そういった部分に価値を感じて買ってくれているのかな、と思っています。
—お酒の役割が変わるなかで、焼酎をどのように楽しんでもらいたいと思っているのでしょうか?
橋本:お酒の競合はお酒ではなく、Netflixなどの娯楽だと思っています。日本では焼酎を食事とともに楽しむ文化が広まっていますが、バーでウイスキーを飲むように、しっぽりと時間をかけて飲んでもいいんです。
そういった意味で、ユーザーの時間をより焼酎に割いてもらうためにはどうしたらいいのかをつねに考えていかなければならないなと思っています。
—娯楽として焼酎を根づかせるために、どのようなことをしていくつもりですか?
橋本:現在、LINEの公式アカウントを通じて購入者の方からの焼酎の相談を受けたり、「希継奈」の販売を通じてつながったユーザーからのフィードバックも考慮しつつ、自分の信念も反映させた第二弾のプロダクトを準備したりと、ユーザーと向き合うフェーズにいます。
ぼくは、焼酎は人と人をつなぐものだと思っているんです。お酒を飲むと少し本音で話せたり、相手との距離が近くなれたりしますよね。ブランド名の「X」や「希継奈」にはそういった「つなぐ」ことに対する思いが込められているんです。今後は焼酎の歴史の延長上で、何ができるのかを試行錯誤しながら、ゆくゆくは既存の焼酎メーカーや新しい方を巻き込んで、たくさんの人とつながりを作りながら面白い取り組みができればと思っています。
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