もう量産しない。THE MEが挑む、新しいファッションシステム

2021.01.29
THE MEは、量産を前提としない服作りによって、在庫を持たない新たなビジネスモデルを作り上げたアパレルブランド。今回は、THE MEのプロジェクトをスタートさせた前田真太郎さんと、ナビゲーター工藤主税さんに、ブランドの背景を深く伺いました。
ブランド
ザ ミー / アパレルブランド パーソナライズオーダー
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地球と暮らす
Sustainability
心も健やかに
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ファッション業界の根深い課題に挑む。フルオーダーと既製品の真ん中に見つけた新しい立ち位置

─2018年から開発をスタートしたというTHE ME。立ち上げのきっかけや理由は何だったのでしょうか?

 

前田:僕はこれまでファッションの業界で、主に小売と工場の間のサプライチェーンに関わる仕事をしてきました。そんな中で、課題意識を感じていたのが、過剰な流通在庫のこと。本来、誰一人として無駄なものを作りたいとは思っていないのに、売れ残ったものは捨てられていく、これは長い間ファッション業界の抱える一つの課題と言われてきました。

ファッションに限らず、ものづくりの現場において、完全に無駄の出ない状態を作るのは難しいことかもしれません。いま世の中にあるすべてのサービス、ブランド、仕組みは、理由があり、価値があるから存在しているとも言えます。

そこで、僕たちは現状を全否定するのではなく、会社としてこの課題に一つの提案をしていくべきだと考え、THE MEのプロジェクトをスタートさせました。

前田真太郎さん

 

前田:まず、過剰生産を止めることができないその背景を考えてみると、生産・流通側としては、同じものをたくさん作り続ける方が負担は軽くなるし効率もいい。さらに、輸送についても、どうせ載せるコンテナがあるなら、つまり同じエネルギーを使うなら、コンテナを一杯にした方がエネルギーも費用も効率がいい。だから安く大量にものを作ることができるんですよね。

きっと多くの消費者はものを買うとき、価格を重視すると思います。自分も同じ価値のものがあれば、やはりなるべく安く買いたいですし。価格、エネルギー負荷、そのほかの課題も合わせて、理想を「言うは易し行うは難し」ということがトレードオフでたくさん存在しています。

僕らは、こういう現実・課題を見てきたからこそ、ただ「これがサステナブルです」と啓蒙するだけじゃなく、プレーヤーとして現実と向き合い、現状を変えていく提案ができるのではないかと思いました。

 

 

─THE MEのコンセプト「量産を前提とした作り方はしない。一人ひとりに合わせる」はそうして生まれたんですね。どのような仕組みを考えたのでしょうか?

 

前田:過剰な在庫が生まれてしまう原因に、お客様が何をどんなタイミングでどれだけの量を欲しがっているのかわからないのに、先んじてものを作らないといけないということが挙げられます。それを解決するために僕らが選択したのが、シンプルにお客様に「欲しい」と言われてから服を作るということ。

着目したのは、オーダースーツやオーダーシャツの考え方です。そこから、スーツだけに限らず、幅広いアイテムを展開できるような独自のサービスを考え出し、準備を進めてきました。

その結果、THE MEは、フルオーダーと既製品の真ん中という、新しい立ち位置にあると思っています。

 

 

─これまでのオーダーメイドと、THE MEの違いについてお教え下さい。

 

前田:自分の体型や好みに合わせて、服自身が形を変えられるオーダーメイドの良さと、実際のイメージとなるべく近いもので最終形のお話ができる既製品の良さの両方のバランスを大事にした結果、現在のTHE MEのサービスが生まれています。

オーダーメイドというと、一般的には、スーツやワイシャツを自分の体型に合わせて、かつ仕様も自分の好みにカスタマイズできるサービスを想像されると思います。これは、「フルオーダー」と言われる伝統あるテーラーの仕組みです。フルオーダーで服を作る際に重要なことの一つが、一人ひとりのお客様に採寸、提案をしていくプロとの相性。

相性が良ければ、生地もサイズ感も好みも自分に合った、ぴったりの服が作れるでしょう。一方で、ゼロから作っていく分、最終形のイメージがわかないところもあって、成形する人の好みや趣味によっては出来栄えが左右されることも。つまり、仕組みや技術に加えて、そのイメージを一緒に作っていく接客のプロがいて、自分の感覚と合わせてくれるからこそ、本当に自分に合った服を作ることができるのです。

 

 

よく、オーダーと既成品が対比され、「既製品だと自分の思った通りの服がない」と言った声も聞きます。しかしながら、既製品が積み上げて来た歴史も価値がある。既製品は決められたサイズ展開しかないものの、原型となるボディを基に、さまざまな体型、サイズの人が着ることを想定してどうしたら美しく見えるか? ということを常に追求し続けています。既成品は完全に仕上がった状態で店舗にあるわけですから、試着して「欲しい」と思った状態をすぐ確認できますし、その場で持って帰れるという利点もありますよね。

オーダーメイドと既製品の間にあるTHE MEのサービスは、言うなればパターンオーダーや、セミオーダーの考え方にあたります。お客様には既成の実物を試着していただきながら、「ここはいいんだけどここはなんか違うな」という、サイズだけではないその微妙な感覚を店舗のスタッフと確認しながら直すことができます。THE MEでは、これを「オーダー」「補正」とは少し違うという意味で、「チューニング」と言っています。

 

THE MEのラインナップ。ウィメンズ、メンズ共に扱っている

店頭で体感できる、自分のために服を見つける“楽しさ”

 

─店頭ではどんな体験ができるのでしょうか。商品を購入するまでの流れについて詳しくお教え下さい。

 

工藤:お客様にはまず、オンラインで来店予約をしていただきます。入店後はナビゲーターが必ず1名つき、最長90分間のパーソナル接客を受けていただけます。「こんな服が着たい」「こんな着方がしたい」といったお客様のご希望を伺いますが、決まっていない方もいらっしゃいます。そこで僕らナビゲーターと相談しながら、コーディネートを考えていきます。

 

店内のカウンセリングルームにあるボディスキャン

 

工藤:その後、ボディスキャンで首まわり、胸まわり、ウエスト、ヒップなどを採寸し、体型データを作成します。ただ、これはあくまで自分のサイズを知る、興味を持つためのきっかけにしていただければいいかなと思っています。ボディスキャンに抵抗のあるお客さまには、ナビゲーターが採寸して洋服のサイズを選びます。選んだ服は、試着しながらチューニング(サイズ / シルエット補正)をしていきます。

決済は、その場では行わず、後ほどWebサイト上で注文をしていただくと、約2週間後に商品がお手元に届くというのが一連の流れです。

価格帯は、スーツのセットアップで大体7万円くらい。カットソーで1万2000円、パンツで2万円くらいです。

 

ナビゲーター 工藤主税(ちから)さん

 

─先ほど前田さんが教えてくださったように、THE MEでは一人ひとりに服を合わせることを「チューニング」と言っていますが、具体的にはどういう接客を行うのでしょうか?

 

工藤:お客様は自分に合った服を探されていますが、必ずしも“ジャストサイズ”の服を求めていらっしゃるわけではありません。そこで、お話をしながら、どんな着方をしたいのか、どんな雰囲気がお好きなのかといったことを伺って、一緒に理想のシルエットを見つけていくんです。例えば最近は、セットアップなども少しルーズな着方が流行っていて、そういう今っぽい感じで着たいということであれば、あえて大きめのサイズをおすすめします。

 

 

前田:お客様の「こうしたい」「なんか違う」という微妙な感覚というのは、そもそも言語化するのも大変なことで、まだAIとか機械だけで調整できるものではないと思うんですよ。

あなたの体型はこう、うちのサイズ展開はこう、だからこれを着てください、ということではなく、ビジュアルを介して一緒に探ってく。実際に気に入った服に袖を通し、人と相談しながら、自分らしい服を発見するというのは、やはりEC上では得られないものだと思うんです。来店いただくのは手間かも知れませんが、膨大な情報のなかから、ひとりであれこれ考えるよりも、お買い物の総合的な効率は高いと感じてもらえることもあります。

五感を使って服を買う楽しさを改めて体感していただきたいですね。

 

 

─ナビゲーターの方はどのような接客をされているのでしょうか?

 

工藤:THE MEでは、販売員とは言わず、ナビゲーターと言っているのですが、これはお客様に寄り添う「案内人」というような意味が込められています。販売経験者だけなく、デザイナーやパタンナー、生産管理などファッション業界で経験を積んだメンバーが集まっています。

THE MEには接客マニュアルがないので、それぞれの経験や知識を活かしながら、自分のスタイルで接客を行っているのですが、「お客様は何をしたら喜んでくれるだろう」という想いや、「このブランドの商品やサービスをどう使ってもらえると良いんだろう」という考え方を共通して大事にしています。ともにブランドを作っているという意識があるんですよね。

その中で私は、「期待以上のサービス」ということを大事にしています。それはロイヤリティを感じていただく、ということでもあります。いつも隣にいますよというスタンスでお客様に寄り添い、安心していただけるような接客を心がけています。

 

 

 

─実際に来店された方の反応や感想はいかがですか?

 

工藤:「楽しくて90分があっという間だった」「服を買うためにこんなにたくさん人と話をしたことなかった」というお声をいただいています。最近はリアル店舗が自動販売機化しているというか、販売員と話したことがないという方も多いようですが、一度店舗をご利用されると、リピーターになる方が多いです。

2回目以降は既に体型やお好みもわかっているので、30分くらいでお買い物が終わってしまうこともあります。その「知られている」「わかってもらっている」ということがお客様に気に入ってもらえていると、我々も嬉しく思います。

 

 

工藤:服を買いに行くために予約をするって、結構ハードルの高いことだと思います。ですが、一対一で接客を受けることはお客様にとって、実は安心なことでもあると思うんです。買い物に行くと、販売員に声をかけたら買わされるんじゃないかとか、あれこれ試着するのは迷惑なんじゃないかとか、いろいろ考えてしまうことがあると思います。

その点、THE MEの決済はWEB上で行うため店頭にはレジも置いていません。「購入しないといけない」と気負うことなく、気軽にご来店いただきたいです。まずはこの空間に来ていただいて、僕たちと話すだけでも楽しんでいただけたらと思います。

 

THE MEの考える、本当に“自分らしい服”とは、人の中で心地よくいられる服

─THE MEのデザインはまずシンプルであることを大切にされていますが、プロダクトのこだわりについてお教え下さい。

 

前田:必ずしも差別化の為に開発するというスタンスはありませんが、素材にはこだわっています。厳選した素材を使ったり、どうしても見つからない場合は開発にご協力いただいたりと、作りたい商品を実現するために最適な選定をしています。

それから、伸縮性を中心とした動きやすさもポイントです。動きを邪魔しない、洋服を着ることが我慢にならないということは動く現代人にとって重要だと考えています。

デザインに関しては、シンプルさが第一。あくまでも着る人が主人公だということを軸に、洋服が悪目立ちせず、汎用性の高い、タンスの肥やしにならない服を作りたいというのは強い思いです。

 

 

─オーダーメイドで服を作るなら、他にはないちょっと奇抜なものを、とも考えてしまいそうですが、THE MEの考える「自分らしさ」や「個性」とはどういったものなのでしょうか?

 

前田:THE MEの「自分らしさ」の解として、まず人の中で生きていくということが大前提にあります。

僕たちは人がいるから自分を個として認識することができる。何かを成し遂げるためにも人生を豊かにするためにも、絶対に人との関わりは捨てられない。もちろん、人の中で生きていれば、悩むことも苦しくなることもある。だけど、そういうことを繰り返しながら生きているのが実はすごく楽しい……

THE MEの服は、そんなふうに人の中で生きている人がどんな服を選ぶか、ということを考えています。そのために重要なのは無個性であるということではなく、人の中で自分を適切に出す、自分を最大化するために、最も心地よくいられるということだと思っています。

 

「僕らはサステナブルです」とは言い切れない理由。真面目に嘘なく取り組み続ける

─今後、THE MEが取り組みたいのはどんなことでしょうか?

 

前田:いま向き合っている課題を解決するためにも、まずは多くのお客様に利用していただくこと、そして満足してもらうということ。これに集中しています。

THE MEの商品を作ってくださっている縫製工場さんは、国内外合わせて10社強あるのですが、当初は1枚生産ができるところがなかなか見つからず苦戦しました。そんな中で、コンセプトに賛同してくださった工場の方々の「未来のファッション業界のために」という期待や応援の気持ちにTHE MEは支えられています。

現状の発注数ではまだまだ工場の負荷が大きく、僕たちは甘えさせてもらっている状態だと言えます。持続的と言うならちゃんとサプライチェーン自体を見直してリバランスさせていかないといけない。

 

左から:工藤主税さん、前田真太郎さん

 

前田:産業に関わっている人が楽しく仕事ができ、ちゃんと食べることができなければ、僕らが目指す持続可能なシステムの実現とはなりません。それを僕らの技術やものづくりの考え方で変えていきたい、と向き合い続けていますが、まだまだできていないことがある以上、「僕たちはサステナブルです」とは言い切れないと思っています。つまり、「自分たちは凄い」と言えるには、まだまだ道のりは長いです。

 

─THE MEが実現したい未来について教えてください。

 

前田:THE MEが先頭を切って、量産しなくてもビジネスが成立するのだということを1つのケースとして示すことができれば、同業の方々にもこの新しいシステムに興味を持っていただけるのではと思っています。元々がB2Bをやってきていますので、理解し合える点も多いかと思いますし、積極的にお話をしていきたいです。

僕らの立ち向かっている社会課題というものには、「絶対こうすればよい」という具体的な答えまでのコンセンサスはありません。だからこそ、僕たちは、真面目に、嘘なく、向き合い続けるしかない。

お客様には、大上段に「サステナブルだから」みたいな話を押し付ける気はありません。できればシンプルに、新しい消費の形を楽しんでいただきたいです。僕たちTHE MEはあくまで良い商品、良いサービスをご用意するということが第一。そこから、多くの方々と少しずつ進化することが求められていると信じています。

まずは多くのお客様にご利用いただき、ご期待に応えられるようになること。そして未来の一つの形に辿り着きたい、そう思っています。

 

Text by 秦レンナ

Photo by 忠地七緒

Edit by 秦レンナ

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「量産を前提とした作り方は、しない。一人ひとりに合わせる。」をブランドプロミスに「これぞ私、と呼べる服。」をお届けするブランド。
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