もくじ
立場と方向性が異なる両ブランドが考える、メンズスキンケア市場の盛り上がり
―リーディングカンパニーとしてメンズスキンケア市場を牽引するBULK HOMMEと、ユニークなコンセプトで業界に参入したBOTCHAN。好対照の両社ですが、まずはお互いの印象について教えてください。
早見(BULK HOMME):BOTCHANに対しては、いい意味で「男らしさ」やソリッドさがないブランドだと感じています。とくにデザイン面でのファッション性、アート性の高さが印象的です。
SNSの使い方もうまいので注目しています。人の琴線に触れるような温度感のあるキーワードをチョイスして、それがフォロワーの心をつかんでいるのが素直にすごいなと感じています。
福岡(BOTCHAN):ありがとうございます。私たちから見ると、BULK HOMMEはメンズスキンケア業界のパイオニアです。BULK HOMMEが市場を開拓してくれたからこそ、BOTCHANもメンズスキンケアの選択肢のひとつとして受け入れられているんだな、と感じています。
また私自身、化粧品業界に30年近くいるなかで、大手がメンズスキンケアに挑戦し、うまくいかずに撤退するケースをたくさん見てきました。そういった意味でも2013年に立ち上がり、メンズの化粧品ブランドとして「定番」でい続けているBULK HOMMEはすごい。スピーディーかつスマートに、若者の支持を得られるテイストを整えていった印象です。
―2010年代からメンズスキンケア市場は急速に拡大している印象です。化粧品業界に長年いらっしゃる福岡さんは、この変化をどのように見ていますか?
福岡(BOTCHAN):女性の化粧品に比べて圧倒的に小さかったメンズマーケットですが、2015年ごろから大きくなりそうな予兆がありました。実際に2019年から2020年にかけて、100ブランドほどのメンズブランドが生まれています。それこそ、メンズスキンケアの盛り上がりにはBULK HOMMEが大きく貢献していたと思いますが、創業のきっかけはどのようなかたちだったんですか?
BOTCHANが展開する6つのコスメ商品
早見(BULK HOMME):ぼくらがブランドをスタートする少し前も、女性向けのコスメブランドがメンズラインを出す、といったケースは多々ありました。ただ、「メンズの化粧品でどこが良いか?」という話になった際に、すぐに想起されるブランドがなかった。BULK HOMMEが「メンズスキンケアのベーシックであり続ける」ことを掲げてスタートしたのも、そういった背景があってのことです。
2015年くらいから、いろいろな会社がメンズ向けのブランドを始めました。そのころから、男性ファッション誌でメンズスキンケアの特集なども組まれるようになった。ただ一口にスキンケアといっても、洗顔だけの方もいれば、化粧水・乳液まで使用する方もいます。現在は、その「教科書」が作られている途中なのかなと感じていますね。
―そういったメンズスキンケアの変化や盛り上がりには、男性の意識の変化なども関係しているのでしょうか?
福岡(BOTCHAN):従来の「男らしさ」に対する違和感が生まれてきていたことは大きいと思います。2015年くらいまでのメンズ商品は画一的で、たとえばヨーロッパから輸入された香水などにはムスクの香りが入っているなど、いわゆる「男らしさ」を強調する側面が強かった。一方で「そういった商品は自分には合わない」と感じる男性もいた。「草食系男子」などはその筆頭で、従来の男らしさの要素が薄れ、ニュートラルな男性像がトレンドになっていたのだと思います。
早見(BULK HOMME):いわゆる、中高年向けのブランドなどは昔から百貨店にありましたよね。ただ、販路も限られ、値段も高かったし、「男らしさ」の要素が強かった。
でも、ここ数年で新規参入するブランドが増え、選択肢が増えることによって需要も高まり、男性のスキンケアの意識も変わっていったのかな、と思います。その証ではないですが、2年ほど前からバラエティショップやコンビニなど、百貨店以外の場所にもメンズケア商品のコーナーが設けられるようになってきましたよね。
墓石メーカーがメンズスキンケアを始めた理由
―BOTCHANは2018年にブランドをスタートしていますよね。ブランドを立ち上げようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
加登(BOTCHAN):BOTCHANを運営しているアンド・コスメという会社は、私と兄で始めた会社なのですが、もともとの家業は墓石メーカーなんです。
ただ、家業を行うかたわら、兄と一緒に「何か別の面白い事業をしよう」という話はしていました。そんな折に、兄がたまたま化粧品の原料屋さんと知り合いで、話をしていくうちに、兄も使えるような、メンズ向けの化粧品ブランドをやってみたいなと思うようになりました。
でも、普通のブランドをやっても面白くない。特に私たちの家業はいわゆる「陰」の事業だったので、新しく始めるブランドは「陽」の要素を盛り込んで、明るい事業を始めたいと考えました。
早見(BULK HOMME):ブランドとして「繊細男子」というキーワードを掲げているのもユニークですよね。
福岡(BOTCHAN):私はブランディング担当として途中から参画したのですが、事業としての「陽」の要素や、それを踏まえて構想されていた飛び抜けたデザインのパッケージを見て「これが本当にメンズ商品なの?」と驚いた記憶があります。
その驚きと、先ほども言ったようなニュートラルな男性像を持っている人たちが増えていることを踏まえて、従来の「男らしさ」からは抜け出した方向に進められるのではないか、と考えました。それが結果的に「繊細男子」という言葉に行き着いたんです。カラフルで遊び心のあるパッケージデザインとも相まって、性別を超えて受け入れられるようになり、いまではお客さんの半分近くが女性になっています。
男女の境界が曖昧になりつつある。そこで起きている変化とは?
―「繊細男子」という言葉にも表れていますが、現在は多様性が重視されるなかで「男らしさ」や「女らしさ」などの境界が薄れてきていますよね。
早見(BULK HOMME):そうですね。ぼくらはブランド名でもHOMME(フランス語で「男性」の意)と明確にうたっているし、男性向けに商品を販売していますが、ユーザー層には変化が出てきています。入っている成分や実際の使用感、香りなどの観点から女性が好んで利用するケースも増えています。
例えば、従来のメンズコスメはメントール系、ムスク系の二種類が定番でしたが、ぼくたちはフローラル系のジェンダーレスな香りを使用しています。
加登(BOTCHAN):私たちのコスメもほんのり香るシトラスフォレストで、爽やかで繊細なものを意識しています。ジェンダーレスな香りという点はBULK HOMMEと相通ずるものがあるかもしれません。
福岡(BOTCHAN):「繊細男子」をキーワードに据えたとき、既存のジェンダー観にとらわれないという考えにおいてはLGBTQの方々も近しい存在かもしれない、と思いました。そのため、ブランドコンセプトを固める際には、実際にLGBTQの方々に話を聞きました。
そこで出た意見を踏まえて誕生したキャッチコピーのひとつが、「LOOK BEYOND」です。もともとは「BEYOND GENDER」という言葉を使っていたのですが、LGBTQの方々から、「メンズスキンケアブランドとして商品を作っているんだから、性別は超えていないですよね」という意見があって。確かにその通りだなと考え直し、「性別の向こう側を覗く」というニュアンスに変えました。
―そもそもBOTCHANというブランド名には、どのようにして行き着いたのでしょうか?
福岡(BOTCHAN):ブランド名は夏目漱石の小説『坊ちゃん』に由来しています。「繊細男子」を言い表すキーワードとして何かないだろうか、といろいろと考えていくなかで決まりました。
加登(BOTCHAN):『坊ちゃん』は小説内で、良家の出身だけどちょっと無鉄砲で、個性があり、自分探しをしながら自分の立ち位置を見つけていく青年として描かれています。現代の若者たちも、個性を持って自分を見つめ直すなかで、性別の壁を超えることがあってもいいのではないか、という考えでブランド名をつけています。
「素人」だからこそ生み出せる、型破りなプロダクト
―製品開発やパッケージデザインなどでこだわっているポイントを教えてください。
早見(BULK HOMME):ブランドのタグライン「ザ・ベーシック・メンズ・スキンケア」が示すように、ぼくたちは世界中すべての男性にとっての「ベーシック」になりたい。そこで、ブランド名にあるBULKが、化粧品業界では「中身」を指すことにも現れていますが、大前提として徹底的に中身にこだわっています。
製品開発の段階で「とにかくいいものをつくる」「最高のコスメを生み出す」ことを追求するあまり、商品によっては販売まで何年もかかることもありますね。
―中身に何よりこだわっているんですね。
早見(BULK HOMME):はい。これには、弊社代表の野口が、もともとIT業界出身で、プロダクトの製造に関する予備知識がまったくなかったことが関連しています。一定の販売価格に対して、原価はこれくらいで作る、といった業界の通説を知らない「良い意味での素人」だったからこそ、従来の業界では作られなかったような中身になったのだと思います。
もちろんパッケージにもこだわっています。たとえばリップバームに関しては、男性はリップバームをよく紛失するという背景があり、パッケージもひとつのバルクだととらえて開発しました。なくさず大事に使っていただけるように、重厚感やマットな触り心地、スティックタイプとして定番のキャップタイプではなく、ねじ式の採用など、容器の選定だけでも2年ほどかかりました。
加登(BOTCHAN):私たちは、「肌を愛でよう」というキーワードのもと、スキンケアの本質に立ち返ったものを作るように心がけています。たとえば洗顔だったら、洗顔後に肌が突っ張らないように洗浄力の強すぎない成分配合にしたり、乳液もジェルクリームタイプにして油分と水分の絶妙なバランスを模索したりしてきました。
また、BOTCHANもブランドとしての楽しさを表現するパッケージデザインにはとくにこだわっています。化粧品を使うときの高揚感を、男性にも得てもらいたいし、朝起きて商品を使うときに楽しさを感じることで、スキンケアを習慣として日常化していただきたいな、とも思っています。
福岡(BOTCHAN):先ほど早見さんも、「素人」だからこそ生まれたこだわりについておっしゃっていましたが、BOTCHANも「素人」がゆえの発想でパッケージが生まれたと言えますね。パッケージのインパクトが強いことで、いわゆるジャケ買いのような現象も起きています。
早見(BULK HOMME):パッケージは時代に合わせて数回リニューアルをしていて、現在は3代目なのですが、洗面所やお風呂に置いても違和感のないデザインを意識しています。ブランドの認知がある程度進んでいることもあり、2代目に比べ、ブランドロゴを小さくするなど、より「生活」に馴染むデザインに変更しています。
パッケージに関しては、BOTCHANとは真逆のデザインかもしれませんが、ぼくらは「ユーザーの生活に馴染むもの」で、BOTCHANは「ユーザーの気分を上げるもの」という点で、生活者視点に立ったデザイン哲学は通底するものがあるかもしれません。
多くのブランドが生まれるなかで「選ばれ続けるため」には
―BULK HOMMEの誕生後、時代とともにさまざまなコンセプト・価値観を持ったブランドが生まれています。そのなかで「選ばれ続けるブランド」になるためには、何が必要だと思いますか?
早見(BULK HOMME):ブランドとしても掲げていることですが、「ベーシックであること」だと思います。「コレを買っておけば間違いない」という安心感をいかに生み出せるか。ブランドの世界観とプロダクトの両軸でそういった安心感をユーザーに持ってもらうことが大切だなと考えています。
福岡(BOTCHAN):時代とともに前進はしつつも、ブランドとしてブレないことが重要だと思っています。「繊細男子」という立ち位置で、性別の壁を壊す方向性には進みつつ、BOTCHANらしさを愚直に守り、大事にするようにしています。ファンになって買ってくれる人は、ブランドらしさを買ってくれている人でもあるので、その期待を裏切らないこと。これは他社とのコラボレーションなどでも同様で、BOTCHANとの相性の善し悪しは常に考えています。
―今後、メンズスキンケア業界をどのようにしていきたいと考えていますか?
早見(BULK HOMME):これまでは、「男性がスキンケアをすることは普通なんだよ」という啓蒙活動を行ってきました。今後は、その意識が人々に浸透して、「男性のスキンケアは当たり前」という「常識」のレベルにまで引き上げていきたいです。
また、ぼくらは「世界のメンズビューティをアップデートする」というコンセプトを掲げています。そういった意味では海外の市場もさらに開拓していき、業界のなかでの圧倒的なナンバー1として支持される存在になりたいですね。
加登(BOTCHAN):「繊細男子」や「『男らしく』を、脱け出そう」という言葉には、自分を見つめ直し、個性を大事にしようという想いが込められています。これは私たち自身へのメッセージでもあります。BULK HOMMEという大定番がある一方、私たちは自分たちなりに「個性を磨くぞ」という気持ちでやっていきたいですね。
福岡(BOTCHAN):BULK HOMMEは大きく市場を開拓してくれた存在ですが、BOTCHANとしてはメンズスキンケアの選択肢のひとつとして、熱狂的なファンを世界中で増やしたい。メンズのスキンケアブランドは数多く生まれていますが、それらが競合として争いあうのではなく、個性的なブランドがそれぞれ頑張っている状態になれればいいな、と思っています。それが結果的に、メンズのスキンケア業界をさらに盛り上げることにつながるはずです。
Text by 石塚振 Photo by 豊島望 Edit by 中川真、𠮷田薫(CINRA)
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