もくじ
「一見ヘルシーだけど、これって本当に健康なの?」健康食品への疑問があった
—椋野さんがTRUE FOOD&DESIGNを立ち上げるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?
椋野:きっかけは、私が日々の中で感じていたある課題だったんです。ここ数年、ウエイトトレーニングを趣味にしているのですが、健康な体づくりのために食事管理がすごく大切なんですよね。人によっては食事とトレーニングの重要度は9:1というくらいです。そんな中で気がついたのは、機能性に優れ、かつ安心できる原材料を使った、おいしい機能食品がこの世にはない! ということでした。
最近はコンビニなどでも機能食品を見かけるようになりましたが、砂糖をたっぷり使ったものが多く、人工的な成分もたくさん入っていたりします。
椋野:一方、日本と比較してフィットネス文化が根付いている海外では、スーパーの棚を見るだけでも、プロテインバーだけで100種類以上、ビーガン向けの商品などもあります。ただ、成分表を見てみると、やはり砂糖の代わりに人工甘味料や科学的なものがたっぷり使われているものが多く、これって本当に健康なんだろうか? と疑問に思ってしまって。こんなにたくさんの商品があるのに、満足できるものが見つからない。それなら自分で作ってみようかと思い始めたんです。
—具体的にはどんな機能食品を作りたいとイメージされたのでしょうか?
椋野:まず最初に注目したのが間食、スナックなどのお菓子です。健康的になるためにと食事を一から変えるとなるとハードルが高いですが、お菓子なら気軽に買えるし食べられる。日常の延長にあるものを作りたかったんです。
中でもチョコレートは、人を幸せにしてくれるけど、みんなどこか罪悪感を持って食べているものの代表格じゃないですか。そこを変えることができたら面白いなと思ったんです。それに、原材料や作り方もシンプルなので、商品化のイメージがしやすかったのも理由の一つです。
—TRUE FOOD&DESIGNは前職の同僚の皆さんと立ち上げられたんですよね?
椋野:このアイデアを同僚に話したところ、みんな面白がってくれて。新しい事業を立ち上げたい、挑戦したいというマインドを持っているメンバーが多いんですよね。さらに、デザイナーが中心ということもあって、クリエイティブなことが好き。もちろん全員チョコレートを作った経験はなかったけれど、「とりあえずやってみよう!」となったのが始まりでした。
実際、開発している間はとても楽しく、毎週末みんなで集まってはああでもないこうでもないと試作を繰り返し、まるで趣味の延長みたいな雰囲気で取り組んでいましたね。
健康的なのにやみつきになる、これまでにない新感覚チョコレートの誕生
—日常の食べ物がTRUE FOOD&DESIGNのフィロソフィーでもある“Healthy Addictive Foods”「健康的でやみつきになる食品」の発想はどのように生まれたのでしょうか?
椋野:これまで「健康になるための食品はおいしくない」ということがスタンダードだったように思います。たとえば、青汁。多くの人は「まずい!」って言いながら飲んでるじゃないですか。それって個人的にはすごく不自然なことだと思うんですよね。まずいものを我慢して飲んでまで健康を手に入れることが、本当に幸せなのかな? と。
一方で、おいしいものといえば、ジャンクフードやスナック、チョコレートなどいわゆる体にはよくないとされるもの。これらには油や砂糖など中毒性の高いものがたくさん含まれているので、おいしいと感じるだけじゃなく、一度食べるとやめられなくなってしまうんですよね。そこを覆してみたかった。体にいいものだけを使っているのに、「おいしい」と「やみつき」の二つが両立したものがあれば、もっと幸せな気持ちで、そして、日常の延長線上に健康を手に入れられるはずだと思ったんです。
—「中毒性のあるもの=体に悪いもの」というイメージを覆すには、具体的にどのようなことが必要になると考えましたか?
椋野:食べたとき、「あれ?」っていうような、驚きとか、これまでにない“新しさ”の体験こそが、また食べたい、もっと欲しい、とやみつきになる気持ちを生むと考えました。
たとえばBean to Bar(ビーントゥバー・カカオ豆本来の味わいや香りが際立った、印象的な風味を持つチョコレート。カカオ豆からチョコレートに成形するまで一貫した体制・工程で品質管理されていることが必須条件となる)が生まれたとき、これまで甘くてなめらかなものが良しとされていたチョコレートの概念が大きく変わったと思うんです。味や風味の違い、食感の違いを前に出し、あえてムラや個性を引き立てたのです。その驚きが人々の心をとらえ、ファンを生み出したんですよね。
私たちも、そもそもチョコレートに甘くないもの、なめらかじゃないものがあってもいい、という考えがありました。さらに、これまではトレーニングやダイエット中に食べるなんて考えられなかったチョコレートを、むしろ食べた方が健康的になれるようなものにしたいと、栄養成分のバランスも徹底的にこだわることにしました。
—逆説的な発想が面白いですね。「True Food Chocolate」のこだわりについてもう少しお聞かせください。
椋野:「True Food Chocolate」は、実は普通のチョコレートよりも脂質が多くなっています。これはカカオバターだけでなくココナッツバターが入っているから。ココナッツ由来の脂質には体脂肪を燃やす働きをする中鎖脂肪酸が含まれていて、トレーニング中の人のサポートをしてくれます。むしろ積極的に摂ったほうがいいんです。さらにタンパク質や食物繊維も豊富。気になる糖質量は、80gあたり6.7gと普通のミルクチョコレートの6分の1以下で、ニンジンよりも低いんですよ。
砂糖の代わりに使ったのは「羅漢果(モンクフルーツ)」という中国一部地域でしか収穫されない果物です。砂糖の300~400倍もの甘さがあり、糖尿病患者の食事対策で砂糖にかわる天然甘味料としても注目されているんですよ。人工甘味料は一切使わず、自然な甘みを引き出しています。
椋野:一番の特徴は、食感と後味の軽さ。チョコレート特有のねっとりした甘さや後味はなく、優しい甘さとココナッツの風味やサクサクとした軽い食感を楽しめます。運動前後や夏場も抵抗なく食べることができます。実際に食べた方からは、「最初はチョコレートだと思って食べるから『なんじゃこりゃ?』と思うけど、しゃりしゃりした食感がクセになる」とか「甘くなくさっぱり食べられる。新しい領域のチョコでいいね」「おいしいから気づくと一袋食べてしまうけど、罪悪感がない」といった声をいただいています。
妥協はいくらでもできる。だけどできる限り「嘘がない」ものを作りたかった
—「クリーンで安心できるものを提供したい」という思想を掲げるTRUE FOOD&DESIGNにとって、「クリーンなもの」とはどのようなものでしょうか?
椋野:原材料は100%自然由来のものを厳選して使っています。たとえば、ココナッツミルクパウダー一つにしても実はすごくたくさんの種類があって、中にはタピオカパウダーを入れてかさ増ししているものや添加物が入っているものもあるんです。それを一つひとつ精査して、純粋で高品質なものを選びます。
椋野:自分で食品を作ることになって、原料のことを調べ始めたことから、このように成分表記に記載はされていないことがたくさんあるのだと気付くことができました。
それは商品がつくられる過程にも言えることで、私たちの商品を作ってくださる工場は、普通の砂糖を入りのチョコレートの製造ラインと別にアレルギー対応用のラインを持っています。作業レーンは基本的に使うたびに洗うわけではないので、同じラインで商品を作ってしまうとわずかな量でも前に作った砂糖が混入する恐れがあります。それでも「砂糖不使用」と記載することはできるのですが、私たちはそうしたくなかった。
ごまかそうと思ったらごまかせるけど、私たちの信念としてクリーンなものに嘘があってはいけないということがあります。それは「TRUE FOOD」というブランド名にも込めた想いです。
—10月には価格を改定されていますが、それにはどんな理由があるのでしょうか?
椋野:発売当初より安定的に製造が行えるようになって、原材料価格を抑えられるようになったということはありますが、私たちの利益の見直しを改めて行いました。日常的に食べられるものをめざす私たちにとって大切なのは、利益を出すことよりも、より多くのお客様が買いやすい価格帯のものを作ること、より身近に感じていただくことのほうが重要だと思ったからです。
—ビジネスにおいて、利益を度外視してまでブランドや商品のあるべき姿を追求するというのはなかなか難しいことだと思うのですが、そのモチベーションはどこにあるのでしょうか?
椋野:もちろんブランドを存続させるために利益を出すことは大事だと思うんですけど、これで一儲けしてやろう! とかいい車乗ってやる! とか、全然思っていなくて(笑)
単純に自分が課題に感じていることを解決して、それが人のためにもなればいいなぁくらいの思いがすべてのベースになっているんですよね。使う材料や商品を作る過程についても、そもそも自分の欲しいものを作ろうということが出発点だったので、自分が取りたくないものが入っていたり、嘘のあるものは単純に嫌だなということなんです。自分が「大丈夫」だと納得できるものを提供したい、それがTRUE FOOD&DESIGNの大切にするクリーンさにつながっています。
より良いものへと変化し続けるため、あえて残した余白
—苦労して完成した「True Food Chocolate」ですが、100%満足していますか?
椋野:私たちはこれまでデジタルサービスの企画や立ち上げを行う仕事に携わってきましたが、サービスをローンチするとき、100%のものを作ることはしません。じゃあどうするのかというと、最初に出したものをベースにユーザーの行動やフィードバック、市場の反応を見ながら2~3年かけて改善していくんです。そうすることでよりユーザー満足度の高いものを作ることができます。ユーザーの思いを反映するためにあえて余白を残しておくということですね。
私たちのベースにもそうしたデジタルサービスの考えがあります。いきなり100%のものを作ろうとはせず、あえて余白を残したままで世に送り出し、実際に食べていただいた方にフィードバックをもらって、商品をブラッシュアップしていく。私たちは職人ではないので、商品を買ってくださる方の声を聞きながら、一緒に満足できるものを作っていきたいと思っています。
—あえて残した余白によって、一層ベストなかたちのチョコレートへと進化していく可能性があるわけですね。ブランドを応援してくださる人たちの声が聞ける場でもあるクラウドファンディングでの反響はいかがでしたか?
椋野:私たちはクラウドファンディングからブランドのスタートを切りました。24時間以内に目標額に達成することができたことにも驚きましたが、予想以上に共感してくださる方が多いことが嬉しかったですね。もちろん肯定派の声だけではありませんでしたが、ヴィーガンの方や糖尿病などで糖質制限をされている方、年配の方などにも「こういうものを待っていた」と言ってもらえて嬉しかったですね。
「新しい」がスタンダードに変わる日まで。TRUE FOOD&DESIGNの目指す無理のない健康の形
—TRUE FOOD&DESIGNの商品を通して消費者の思想や哲学がこう変化していくといいなという思いや、ブランドとして作りたい未来を教えて下さい。
椋野:「新しい」がいつの間にか「スタンダード」に変わるということが、このチョコレートから起こるといいなと思っているんですよね。たとえばガムって、昔はものすごく甘くて駄菓子屋に売られているようなものが主流だったと思うんですよ。それが今や、甘くなくて歯の健康にいいキシリトールがスタンダードになっている。マーケットそのものが変化した例だと思います。
健康に良くておいしいもの、それがマーケットのスタンダードになれば、私たちの商品だけじゃなく他のブランドや大手メーカーが似たような商品を作ってくれるはず。食品全体のレベルの底上げということが起こりうるかもしれません。
そしてゆくゆくは、「とりあえずTRUE FOOD&DESIGNの食品を食べておけば大丈夫」ぐらいに思ってもらえるようになるのが理想です。
—今後、ほかにも挑戦してみたい食品はありますか?
椋野:今、まさに挑戦しているのがグラノーラです。グラノーラって健康的なイメージがあるんですけど、売られているものの多くは砂糖の塊のようなもので、朝からお菓子食べていると言ってもいいくらいなんですよ。そこで私たちが作ろうとしているのが、砂糖不使用で、さらにグレインフリーのもの。雑穀を使わずに、これまでにないサクサクとした食感を出しています。来年、早いタイミングでの発売を目指して試行錯誤を続けたいと思います。
—最後に、椋野さんの考える「健康」とはどういったものでしょうか?
椋野:私自身は自然体であること、心地よくいられることが最も大切なんじゃないかなと考えています。それがあってはじめてサステナブルな健康が実現できるんじゃないでしょうか。健康になりたいからと我慢したり無理をしたりする生活は送りたくない。食品も、おいしいものを選んだら結果として健康になっていたというのが理想です。このチョコレートから、そんな世界をスタンダードにすることができたらいいですね。
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